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横浜、崎陽軒、きのこそば
ある日の夕暮れどき、所要で横浜駅に降りたのである。
1~2時間で用事を済ませ、さて、腹が減った。横浜と言えば中華街だが、横浜駅から中華街まで、大したことないとはいえ、ちょっと距離がある。徒歩圏内ではない。とはいえ脳内が中華に染まりつつある。そんなとき、ふと思い出した。
崎陽軒の本店があるじゃん。
崎陽軒と言えば、やはりシウマイだ。東京駅から新幹線に乗るとき、崎陽軒のシウマイは最高のごちそうの一つであると個人的には思っている。シウマイ弁当ではなく、シウマイオンリーの方。一個一個が小さく食べやすく、貝柱の風味のせいか、冷たいままでもみっちり美味い。
もちろん、シウマイやシウマイ弁当を売ってるだけでなく、崎陽軒には中華料理を食べさせる店舗があるのは知っていたが、そう言えば行ったことが無い。これはチャンスだな。というわけで、崎陽軒本店の建物に向かった。
崎陽軒本店ビルについたが、さて、「崎陽軒」という名の店は無く、いささか戸惑う。でもまあ中華料理が食いたいのであり、中華料理屋と思しき二階の店舗、『嘉宮』に入る。普段使いの街中華には無い、重厚な雰囲気。高級中華。もちろん一人だが、気後れする年でもない。ずんずん入る。
お冷でのどを潤した後は、紹興酒のグラス。刺身に日本酒が欲しくなるように、中華料理にはとりあえず紹興酒を合わせたくなる。ひとしきりメニューを見せてもらう。やはり、シウマイは欠かせない。一人なので、もう一品くらいか。季節メニューを見るに、「季節のきのこのそば」とある。よし、そいつにしよう。
紹興酒をちびりびちりとすすりながら待つと、まずシウマイがやってきた。小ぶりの蒸籠が湯気でほんわかしている。中には、シウマイが4つ。駅で買うやつより、一つ一つが明らかに大きい。醤油と練り芥子でいただく。
ほふぅ。
薄くしなやかな皮の向こうから、肉やらなにやらの餡の味や香りがストレートに立ち上ってくる。これまで冷たいシウマイの小さくみっちりしたイメージだったのが、もっとほんわりして、それでいて風味が強く感じる。一つ一つの大きさも、結構、食べ応えがある。なるほど、これはよい。
そうこうしているうちに、きのこのそばがやってきた。
汁そばではあるが、汁はやや少なめ。表面をとりどりのきのこが覆っているものの、茶色や白が基調で、見た目はおとなしめである。で、麺ときのこをすする。なるほど。様々なきのこの歯ざわりと香り、そして細めの麺、これらを、決して派手さは無いものの、地に足のついた鶏ベースの旨味の汁が支えている。なんというか、地味だけど滋味、そんな味なんである。
シウマイ、紹興酒、きのこそばのサイクルを何度か回しているうちに、蒸籠とどんぶりとグラスは空に。紹興酒をもう一杯頼もうか悩んだが、帰路があるのでお代わりはやめにする。ちょうどよい満足感。
惜しむらくは値段が街中華では無いことであるが、それでも僕がたまに飲み食いできる金額で、きちんとした中華料理を食べさせてくれるのは素晴らしい。駅売りのシウマイだけではない、崎陽軒のちょっとした本気を垣間見た、そんなひとときなんであった。
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