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自由の代価(フィクション)
蝶は先程からあがいていた。
好物の花のところに飛んでいこうとしたら、
突然、身体ががくんとが止まってしまったのだ。
周りを見れば、極彩色の羽に透明な粘つく糸。
蜘蛛の巣に引っかかってしまった。
あがけばあがくほど、
糸は羽にまとわりついてくる。
そして巣を伝う振動は間違いなく、
巣の主を起こすことになるだろう。
でも蝶は、あがかずにおれなかった。
一縷の可能性に、かけたのだ。
だが、主は、目覚めた。
八本の足でひょいひょいと、
滑稽にすら見える動作で蝶に近づく。
牙からは透明な唾液の滴りすら見える。
蝶はもがき、あがき、身もだえし、よじり、震え、
はばたき、とにかくあらん限りの抵抗を示した。
が、蜘蛛の接近を止めることは出来ない。
蜘蛛の顎の鳴る音までが聞こえてきた。
蝶は恐怖に戦きながらもわが身を動かし続けた。
蜘蛛の足が、牙が、まさに蝶に突き刺さろうとしたとき、
蝶はふっと、わが身が浮かぶのを感じた。
蜘蛛の牙と足は空を切った。
やった!!私は自由だ!!!
蝶は空想の中で懸命に羽ばたきながら、
虚空に落ち、地表に叩きつけられた。
蜘蛛の巣には、
食事をし損ねた主と、
極彩色のちぎれた羽が残されていた。
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