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アジアから見た日系企業の課題~日本企業復活の鍵は業績評価制度とリーダーシップの再構築
1.業績を評価する仕組みが必要
🙋♀️畑
日系企業が立ち直るには、業績を評価する仕組みが必要です。日本では10~20年ほど前に業績主義を入れましたが、うまくいかずにやめてしまいましたよね。そこも、日系企業がグローバルから取り残される潮目だったのではないでしょうか。あのとき業績主義を貫けたら、もしくは、日本流にうまくカスタマイズできていたらと思います。
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🙋♀️伊東
制度を導入しても、マネジャーが運用できないのです。あるメーカーが業績主義をベースにした人事制度を日本で導入したのですが、現場での運用がうまくいっていません。グローバルに制度を導入するところまではできたのですが、その先の運用が大きな課題となっています。
現地の中国人に日本のマネジャーがリーダーシップを発揮して、ガバナンスを効かすことができないため、日本とほぼ同じ状況になっています。日本の企業は、「ビジネスは結果を問われる。成果を出さなければならない」という考え方より、最後は、結果が期待どおりでなくても「頑張った」で結果責任を暖昧にしがちなため、業績評価を入れても甘い運用になってしまいます。
🙋♀️畑
当社のお客さまを見ていても、「もう少し厳しくてもよいのでは」と感じます。期間を明確にしたミッションがないのです。日本から駐在で来る人の中にも、「私はこの3年間で、これとこれとこれをやって帰る」とミッションが明確な方もいますが、少数派です。
🙋♀️伊東
本来は、自分がすべき何(What)をしっかりと掲げ、語ることができる人がリーダーになるべきです。しかし、日本の企業の場合、リーダー人材の育成をビジネス課題をふまえ戦略的・体系的に行っていないので、リーダーとして訓練され、準備ができている人は極めて少ないのが現状です。
日本企業でも、グローバル共通のパフォーマンスマネジメントを導入している会社はありますが、残念ながら運用ができていません。マネジャーがそれを運用し、部下一人ひとりのミッションを明確にし、結果責任を負わせるというリーダーシップも訓練させていませんから、現場で徹底した運用にはならないのです。
人事制度を職能から職務に変更し、人事制度の枠組みをドラスティックに変えた日本企業もありますが、結局、マネジャーのマインドと運用は職能のときの考え方から抜け出せず、チェンジマネジメントがまったく行われていません。
🙋♀️畑
中国の労働契約法では、何をしていくら払うということを明確にしないといけません。日系企業も、もう少し明確にする必要があるでしょう。日本の企業は、コミットメントが企業側も働く側も暖昧です。
🙋♀️伊東
コミットした成果を達成できなくても厳しくとがめられることがありませんし、やれたからといって高い評価を受けるわけでもありません。ここが最大のコンフォートゾーン(居心地のよい場所。安全領域)になっていますので、そこから出ることができるかというのは重要な点です。
しかし本来、仕事をするうえで結果を出すことにコミットし、自分のアカウンタビリティを果たすことは当たり前のことですよね。やってもやらなくても同じということ自体、グローバルスタンダードではありません。会社が結果を出すことができなくても社長でいられるのは、日本くらいではないでしょうか。
🙋♀️畑
中国はコミットメントには厳しいです。
🙋♀️伊東
コミットメントに厳しいのは、欧米系だからではありません。ビジネスの世界では国を問わず、当然のことだと思います。
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2.「日系を脱する」
🙋♀️伊東
外資系企業の方とお話すると、日本ローカルの重要なポジションをシンガポール人やインド人にねらわれていると言います。シンガポールやインドでは、ポジション争いが厳しいので、日本に取りに来るのです。彼らは英語もできますし、マネジメント能力もリーダーシップも備えています。アジアのリーダーは、日本人にとっては脅威です。日本人は、うかうかしているとポストを奪われてしまいます。
🙋♀️畑
やはり、長い間ぬるま湯につかっていると、差が出ますね。日々、競争の中で切磋琢磨している人と、言われたことをきちっとやるだけで「出る杭」にならないように育てられた人とでは違いが大きいと感じます。日本では、優れたリーダーは育ちにくいです。
🙋♀️伊東
ただ、日本のよさを活かしながら、グローバルの中で存在感を出していくためには、われわれも欧米系になるべきかというと、それは違うと思います。
🙋♀️畑
私もそう思います。必要なのは、米系や欧系になることではなく、「日系を脱する」ということではないでしょうか。「グローバル化」というと陳腐と言われてしまうかもしれませんが、日系か非日系かで言うと、非日系になることは必要です。われわれが独特であることを自覚し、変えるべきところは変えなければなりません。
🙋♀️伊東
「日系を脱する」というのは大事なキーワードですね。そして、日系を脱してどこを目指すかを考える必要があります。また、すべてを欧米系にならう必要はありませんが、少なくとも最低限の共通項目は合わせていくことが求められます。ミッションを明確にし、コミットメントを重視することなどは、まさにそうです。
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3.とがった人材を認める
🙋♀️伊東
日本人は勤勉な国民性なので、一人ひとりの役割責任やアカウンタビリティが暖昧でも、やらない人の分を誰かが代わりに行って成果を出します。生産性の低さは長時間労働によってカバーしてきました。共通の言語と同質な価値観の人たちで、できるだけコンフリクトを避け、協調的な働き方を優先するため、イノベーションや変革は生まれにくいことが指摘されています。
だからこそダイバーシティが重視され、多くの日本企業はCEOがダイバーシティ経営を戦略に打ち出しています。実際には、無意識なのですが、異質を受け入れることが苦手です。決まったフレームワークの中で決まったことを間違わずに行おうとする傾向が強くあります。こうした点でも、日系のカルチャーを壊していかないと、新しいことが生まれてきません。
🙋♀️畑
例えば、日本のゲームやマンガが海外でも高く評価されているように、日本人にクリエイティビティがないわけではありません。新しいものを生み出す力がないのではなく、組織の在り方、育成の仕方に問題があるのではないでしょうか。
🙋♀️伊東
才能に大差はないはずです。日本のリーダーに圧倒的に足りないのは、リーダーシップでしょう。
🙋♀️畑
日本人の利他の心や勤勉性は、海外でも評価されています。あとはバランスの問題で、そこにリーダーシップの種が入ったら、ものすごくよくなると思います。基礎力の平均点は高いのですが、抜け出る人材がいません。
🙋♀️伊東
日本は、「とがった人材」を嫌う傾向がありますね。合議制で物事を決めてきたので、強いリーダーシップで変えていくことに抵抗感があります。よく言えば「チーム」ですが、ハイパフォーマンスのチームであるかは疑問です。仮にそれが強みだったとしても、その時代は終わりました。
これまでの日本企業は、とがった人材を認めず、バランスのよい人を重用してきました。決められた枠の中で正しいことを正しく行うことができる人材を育ててきたといってよいと思います。結果として、ミスがなく高い品質のものを大量に生産するという強みもありました。
しかし、イノベーションは、多様な価値観を取り入れてこそ起きるものです。AIやロボット化の技術が進み、オペレーションはどんどん人間以外に置き換わっていきますので、人間がするべき仕事は何かを真剣に考えるタイミングに来ていると思います。
🙋♀️畑
とがった人材を認める社会を実現するためにも、教育から行っていかないといけないのでしょうね。
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4.若手の海外経験、日本本社に外国人を
🙋♀️伊東
リーダーシップを備えた、とがった人材を育成するためには、日本の中だけで育てるのではなく、若いうちに海外を経験させることが必要だと思いますが、畑さんは、どのようにお考えですか。
🙋♀️畑
必要です。それも、できれば2カ国にいかせるべきです。複数の国を経験していると、“引き出し”が違います。
🙋♀️伊東
海外経験をする時期は早いほうがよいと悪いますが、誰でもよいというわけではなく、誰をいかせるかはきちんと見極め選ぶべきでしょう。そして、ただ勉強をさせたり経験させたりするのではなく、チームを持たせて結果を出すことまでコミットさせること。ミッションを明確にし、結果まで見届けなくては、人材は育ちません。
海外派遣を行っている日本企業は少なくありません。例えば、海外でMBAを取得して帰ってきても、その学んだ知識や経験を実際の仕事で活かせないケースも多々あります。ですから、日本に帰ってきたら、活躍し成長できる機会を与えること。それがないと、せっかく学びをよい経験にした人材に逃げられてしまいます。
🙋♀️畑
日本に外国人を入れて、日本本社を変えていくことも大切です。国内の主要ポストに、アジアの人材が入ってくるようになると、カルチャーも変わるでしょう。
🙋♀️伊東
その際には、ある程度の割合で入れることを意識するとよいと思います。異質な人材を入れるときには、それが少数では効果がありません。ある程度の数も重要です。そうしなければ、その人が日本に染まってしまうか、出ていってしまいます。
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5.転職がデメリットにならないインフラを
🙋♀️畑
大きな話になりますが、労働市場の流動性を高めることも重要だと思います。日本自体がクローズドですが、その中でも流動していません。「終身雇用」や「年功序列」という言葉は、「稟議」などと同じく、世界にはない言葉です。芽が出ないまま終わっている人がいるのを見ると、すごくもったいないと感じます。人が動く仕組みができると、日本も変わってくるのではないでしょうか。
🙋♀️伊東
CEOクラスは別ですが、日本の会社では、転職者が優遇されにくいのが現状です。ポジションに求められる職責や機能に求められるリーダーシップ・コンピテンシーが登用基準になるのですが、多くの企業は、職能制度でリーダーを登用してきました。そのため、外からキャリア採用した人は、「自社での経験年数が短く、うちの仕事を知らないから」と本人の能力よりも、年次を重視し、これまでの登用基準にあてはめられてしまうケースが多いです。
いまだに「プロパー」とか「プロパーじゃない」という言い方があり、中途採用者に対しても「みなし○年次」などという言い方をする会社もあります。それでは、優秀な中途採用者に辞められてしまうのも当然です。
🙋♀️畑
プロパーでない人は、外部から見ても識別できることが多いです。ご苦労されている方が多いのが実態です。転職をして幸せになれない日本と、転職によってステップアップする国とでは大きな差が生じます。流動性を高め、早く動ける人には早く動けるような場を与えれば、とがった人材も輩出されるようになり、日本の生産性も上がるはずです。
そのためには、日本全体で、転職がデメリットにならないインフラを整えることも必要です。定年退職金制度等も流動化を妨げている原因の一つだと思います。
最近、中国に進出しているある日系企業から、退職金について相談を受けました。中国では、現在、男性60歳、女性50歳、女性管理職55歳の定年制があり、近く、65歳にそろえようというプランが出る予定なのですが、その会社は、現地で30年近く事業をしてきて、そろそろ定年の人が出てきたそうです。そこで、「定年退職金がないのはかわいそう」と言い出し、「法定の養老年金があるのに、日系企業がまた優しいことを言っている」と中国人に驚かれています。中国では、有給休暇も、その会社での勤続年数にかかわらず、社会保険納付年数によって決まります。
🙋♀️伊東
日本は、根本から構造改革をしていかないといけないのですね。
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6.おすすめ人材アセスメントソリューション
7.グローバルポジションを獲りにいく
グローバル企業において、日本人は優秀な部下にはなれるが、グローバルポジションはとれないという事態が起きつつある。外国人、とりわけアジアの優秀なリーダーたちが、日系企業の重要ポジションを占め始めている。このままでは、日本人はグローバルはおろか、国内でも重要なポジションをとれないことが危惧される。
日本企業では、なぜリーダーシップ開発が停滞しているのか。グローバルポジションをとれるリーダー人材は、いかにして輩出されるのか――。
日本人のリーダーがグローバルで戦うために世界基準で獲得すべきリーダーシップスキル、及びリーダーシップ開発成功の要諦、人事が起こすべき変革、経営のコミットについて、具体的事例とリーダーシップに関するグローバル・データを織り交ぜながら解き明かす。
8.株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
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