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ソーシャルビジネスとは?【包摂編】困っている人をどうビジネスに巻き込むか?
前回は、ソーシャルビジネスの特徴を、概念とミャンマーの貧困農家さんの具体例をもとに説明しました。
まだ読んでいない方は、ぜひこちらを読んでから先に進んでくださいね。
今回は、ソーシャルビジネスの3つの特徴のうちのひとつ、「包摂(巻き込む)
)」について説明をしていきたいと思います。
少しだけ前回のおさらいをします。
ソーシャルビジネスの3つの特徴として以下をあげました。
1,包摂(巻き込む):社会課題に直面し、困っている人々の力を価値に転換することでビジネスのバリューチェーンに組み込む
↑今回の話はココ!
2,協創(協力して創る):それぞれが持てる力を出し、助け合い協力してビジネスを創り上げる
3,共有(分かち合う):創出された利益を関係者全員で共有する
そして、具体例としてミャンマーのリンレイ村の小規模農家が抱える問題に焦点を当ました。
状況をまとめると、彼らは
・都市からアクセスの良くない山間部に住む少数民族
・文字の読み書きができない人も多い
・現金化の方法として、タナペ(葉巻たばこの原料)を栽培をしている
という状況で、以下の問題が発生していました。
・森林破壊による地下水枯渇
・乾燥過程や間違った農薬使用による健康被害
・栽培コスト上昇と収益性低下で赤字経営になり、借金を抱える農家が多数(しかし、タナペの栽培以外はわからないので、ずっと続けてしまっている)
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さて、みなさんなら、一見価値を生み出すのが難しそうな状況にある彼らをどのようにしてバリューチェーンの中に巻き込むでしょうか?
私たちが目を付けたのは、彼らの栽培方法です。
リンレイ村の農家さんたちの特徴として、日本のように機械化された技術は持っていない一方で、虫などを丁寧に手作業でとっていく栽培を得意としていました。
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なので、彼らの得意を価値に転換するために、無農薬栽培が価値となる事業を作りました。「発展していない」、「古い」、「ローテク」。そう思ってしまうような状況にも、大いに可能性があるということです。
彼らには何もない、何もできない、助けてあげる対象だ、という思い込みは禁物。ちなみに、僕は彼らを助けてあげる対象、だと思ったことはありません。一緒に頑張り、共に歩む仲間です。
そうやって、今まで農薬を撒いていない安全な土地に、ハーブの無農薬栽培をしてもらうことにしました。無農薬栽培にすることで彼らが農薬の健康被害に苦しむこともなくなるという目的もありました。
ハーブは薬草です。古くから、病気や怪我に活用されてきた歴史があります。そのハーブを使って開発する商品のターゲットは、安心安全に一番気遣う、産前産後のママさんたち。
体調を崩しても、子どもの健康のことを考えると薬を飲みたくない、という気持ちが強いママがたくさんいます。
そんな彼女たちの困りごとにアプローチできるハーブを使った商品を製造、販売することにしました。こうしてできた事業がAMOMAです。
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ママさんたちにヒアリングをしたところ、特に困っていたトラブルは母乳に関するものでした。
母乳が出にくい、母乳が出すぎて詰まるなど、切実な声を耳にしました。
「母乳を欲しがる赤ちゃんに、ちゃんとママをしてあげられていない…」という罪悪感。
産後のホルモンバランスが崩れ、精神的に不安定な状態の中、こんな気持ちになってしまうのは、とてもつらいですよね。
そこで、そのような悩みに寄り添えるハーブティーを作ることに。
ミルクアップブレンド、ミルクスルーブレンドなどの商品を開発しました。
0.01g単位でブレンドテストを繰り返し、効果にも徹底的にこだわりぬいた結果、大手通販サイトでもかなり多くの高評価レビューが集まり、口コミも広がり、売り上げも拡大。
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それまでほとんど存在しなかった商品であることに加え、無農薬かつ高品質のハーブを使用していることは、安心安全を求めるママたちへの大きな価値となり、多くのママさんたちに愛されるブランドへと育っていきました。
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ところで、このようにハーブティーを販売しようと考えた場合、よりアクセスしやすく、より大規模な農家さんと取引する方が効率的ですし、商社からまとめて仕入れた方が手間やコストを抑えられます。
しかし、リンレイ村のようにアクセスが悪く、多数の小規模農家さんと取引していくことは、従来のビジネスでは非効率です。
コスト上昇につながるという理由から、そもそも社会課題の当事者がいる現場に行って、ゼロから彼らをバリューチェーンに巻き込もうという発想にはなりません。
もし、彼らに対して社会貢献しようと考えたとしても、そのほとんどが支援という観点でのアプローチ。困っている彼らのできることで価値を創り出す、という発想はなかなかしないでしょう。
ソーシャルビジネスは、社会課題の当事者である彼らをバリューチェーンに巻き込む視点が大切。そして、彼らができることの中で最大限バリューが出せることは何なのかを突き詰め、導き出していくことが欠かせないのです。
その根底には、どのような状況に置かれている人でも、一人ひとりそれぞれにできることがある、他の誰かに貢献できる、と信じる。その可能性を追究しようとする思想、哲学があるのです。
今回は、ソーシャルビジネスの3つの特徴のうちの一つ、「包摂(巻き込む)」について解説していきました。
しかしながら、ただ巻き込むだけでは、理想の社会の実現へは程遠い。
次回は引き続き同じミャンマーの小規模農家さんを例にとりつつ、「協創(協力して創る)」について説明していきたいと思います!