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生成するチーム

アイキャッチ 『攻殻機動隊』©士郎正宗

kyonさんよりフィードバックの依頼の返信

恐れ多くも、去年につづき?kyonさんよりRSGT2021のフィードバックを依頼いただいたので書いてみました。去年と同様に、私の理解不足、誤解が多々あると思いますので、それを前提として読んでいただければと思います。

昨年の記事はこちら。

プレゼンの中でお話しされた以下について書いてみたいと思います。

・パタンの存続条件、成立条件、そしてコミットメントパス&ポイント
・深い共感
・秩序マップ

書き始めている『プロダクトマネジメント大全 中巻』に関連するところもあるのでネットワーク論がすこし多めです。


スライドとプレゼンテーションの動画



パタンの存続条件、成立条件、そしてコミットメントパス&ポイント

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仕事に関する優れたアイデアを取り入れても、そのままではうまくいかないことがほとんどです。この現状に関して、必要なコミットメントの量と、コミットメントのパス数というアイデアを発想されていました。

うまくいっているパタンには属性があることに気づいた
 必要なコミットメントの量
 コミットメントのパス数

私は話を聞いていて「弱い紐帯」に対する「強い紐帯」の再興なのではないかなと考えていました。


弱い紐帯

紐帯は「ちゅうたい」とよびます。人と人とを結びつける帯と結び目を指します。

社会的に繋がりの弱い関係を「弱い紐帯」と呼びます。ちょっとした知り合い、たまに合う知り合いのような関係です。弱い紐帯はネットワーク科学や生態系など、その面白い特性がさまざまな分野で何十年も話題に取りあげられつづけています。

最も有名かつ面白い話は スタンレー・ミルグラムの6次の隔たり(6 degrees)でしょう。世界中の人はたった6人の仲介で全員が全員にアクセスできる現象を表した言葉です。たとえば、生まれたての日本人の赤ん坊とアメリカの大統領とも、最大でも6人の仲介者によってつながっていることになります。

これは単に人と人との繋がりに着目した面白い話だけで終わりません。

最大でも6人の仲介者がいれば全人類にアクセスできるということは、言い換えれば、私たちは地球上の人類が持つ全情報にも最大で6人の仲介者を経由すればアクセスできることになります。

そして、このことが私たちの生活に「新しい情報をもたらす人」は、どのような性質の人かを明らかにしました。頻繁に話をする身近な人よりも、自分にとって遠くの人と繋がりをもつ人だということです。

自分が普段は接しない人とつながっている人のほうが、自分にとって新しい情報を持っている可能性が高いのです。

たとえば、仕事を探しているとき、よく話している友人よりも、ちょっと知り合いの人からの方が多いという研究調査結果があります。この外部の新しい情報へのアクセスできる「弱い紐帯」のメリットです。これを組織的に活用したストラクチャル・ホールという経営理論もあります。単に面白いだけではなく、情報のネットワークの性質は様々な分野が着目し、活用されています。

ところが、弱い紐帯にもネガティブな側面があります。

弱い紐帯の関係では、頻繁にコミュニケーションすると新しい情報がなくなってしまうのです。この点に踏み込む前に、強い繋がりである「強い紐帯」を捉え直してみましょう。


強い紐帯

弱い紐帯の反対が強い紐帯です。

強い紐帯とは「社会的に強い繋がりを持つ人と人との関係」を表します。強い繋がりにある人同士は、同じ状況や価値観をもっている傾向があるために、似たような情報しか持っていないといったデメリットを指摘されます。

たとえば、毎日会っている人からは新しい情報は得られにくくなります。一年に一度しか会わない人からのほうが珍しい情報を得られるという話です。

頻度から見てみましょう。

・年に一回話す
・数ヶ月に一回話す
・一ヶ月に一回話す
・毎週話す
・毎日話す
・一時間ごとに話す
・毎分話している

弱い紐帯では、新しい情報は上の方が出会いやすく下に行くほど出会いにくくなります。しかし、これは「新しい情報」という観点からみた評価でしかありません。

近年は強い紐帯の性質が注目されています。それが「情報の生成」です。


情報の生成

頻繁にやりとりをする「強い紐帯」の関係は、外部からの新規の情報は少ない一方で、小さな差分への着目が促され、自分達による情報の生成が促されるのです。

つまり、未知の情報は、遠い人との間ではなく、頻繁なやり取りをする人との間から生まれるということです。たとえば、下記は強い繋がりによって生み出されたといえます。

企業
・「SONY」 井深大と盛田昭夫

科学
・『[行動経済学』ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキー
・『知的創造企業』野中郁次郎と竹内弘高
・「DNA」[ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリック

プロダクト
・「Google」 ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン
・「iMac」「iPhone」スティーブ・ジョブズとジョナサン・アイブ
・『サウスパーク』マット・ストーンとトレイ・パーカー
・『指輪物語』 ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンとC・S・ルイス
・『魔法騎士レイアース』『カードキャプターさくら』いがらし寒月/大川七瀬/猫井椿/もこな

対話の潮流を生み出した一人である量子物理学者ディビット・ボームは『ダイアローグ』のなかで次のように述べています。

 対話について考えてみよう。対話では、人が何かを言った場合、相手は最初の人間が期待したものと、正確に同じ意味では反応しないのが普通だ。というより、話し手と聞き手双方の意味はただ似ているだけで、同一のものはない。
だから、話しかけられた人が答えたとき、最初の話し手は、自分が言おうとしたことと、相手が理解したこととの間に差があると気づく。この差を考慮すれば、最初の話し手は、自分の意見と相手の意見の両方に関連する、何か新しいものを見つけ出せるかもしれない。そのようにして話が往復し、話している双方に共通の新しい内容が絶えず生まれていく。したがって対話では、話し手のどちらも、自分がすでに知っているアイデアや情報を共有しようとはしない。むしろ、二人の人間が何かを協力して作ると言ったほうがいいだろう。つまり、新たなものを一緒に創造するということだ。

近年では対話という言葉を至るところで見ますが、ディビット・ボームの対話は、多くのそれとは異なります。彼の対話は科学を探求するための知的生産技術でした。彼のいう対話は「強い紐帯」による情報の生成だったのです。※詳しくは『1on1大全下巻』で取り扱っています。



これまでのまとめ

「新しい情報」では全人類の情報にアクセスできる弱い紐帯に強みがあり、「情報の生成」では差分にアクセスできる強い紐帯に強みがあるという話をしてきました。

紙芝居とアニメーションでたとえましょう。弱い紐帯はまるで紙芝居です。数分に一度、新しいシーンが現れます。強い紐帯は滑らかなアニメーションと例えられるでしょう。

リフレッシュレートでいえば、紙芝居0.01Hz(100秒/枚)とアニメーション30Hz(1枚当たり0.033/秒)の違いがあります。この違いは私たちに全く異なる刺激をもたらします。

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情報の生成からみるとコミュニケーションの形態は全く異なります。

弱い紐帯のコミュニケーションとは
「あれ話そうかな、これ話そうかな」と話題のリストがあり、話していくうちに話題が尽きていく関係です。つまり、話すほど話すことがなくなるようなコミュニケーションです。

強い紐帯のコミュニケーションとは
「話していたら、こんなことに気づいた、こんなアイデアにつながった」と、やり取りするほど話題が増えていく関係です。

しかし、強い紐帯というアイデアには、組織的な実装において課題があります。



情報の生成と浸透の谷問題

私が気にかけている問題として情報の生成と浸透の谷問題があります(造語です)。孤立するエースを引き起こす原因です。

浸透の谷
優秀で孤立したエースという人を見かけることは少なくないと思います。いままでより優れたアイデアをひらめき、今までの難問を解決するけれど、周囲は追いつけなかったり理解できず、孤立してしまうという現象です。

アイデアや新しい技術、たとえばスクラムやプロダクトマネジメントのような組織にとって目新しい技術などは、その人だけができるけれど浸透せずに終わってしまったり、その人がいるときだけ機能するけど、いなくなったらできなくなったり、前の状態に後退してしまいます。

アジャイルコーチやコンサルティングでもよくある現象で、コーチがいなくなったら元に戻ってしまうわけです。

優れたアイデアを考えたり、外部のアイデアの活用するためのアイデアを生み出しても、人々に浸透しなければ、廃れてしまいます。つまり、強い紐帯の課題とは以下の一文になります。

生成された情報が浸透する良質な強い繋がりをどのように生み出すか


浸透の谷とは優れたアイデアが広まらない問題

とんでもなく優秀な人の知見(たとえばgit)が世界中で毎年のように生まれつつも、広く浸透しないことによって機会損失が起きている全世界的な課題でもあります。知識の生成と活用には余りに大きなギャップがあるのです。

そろそろkyonさんのプレゼンテーションに戻りましょう。


kyonさんのアイデアを、情報の生成と浸透の谷問題の解法として読む

私の理解ですが、kyonさんはただ仕事をこなすだけではなく、より心地よい共同作業となるような仕事の仕方を仲間と探求してるとお話しされていました。

状況としては、より心地よい共同作業となる働き方の触媒となるような、新しい仕事のアイデアとしてのパタンを模索しているのではないかなと思います。

うまくいっているパタンには属性があることに気づいた
 必要なコミットメントの量
 コミットメントのパス数

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https://speakerdeck.com/kyonmm/unlearn-agile?slide=30

右のBチームは優秀なエースが引っぱっているけれど、メンバーに浸透していないように見えます。

左のAチームは優秀なエースが引っぱっていて、メンバーにも浸透しているように見えます。

これを紐帯の図で表すと次になります。

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※「引っぱっている」と表現しましたが、状況によっては「支えている」という活動になるでしょう。
※図の矢印が経路となっている小さな箱は、関心という認知資源です。

情報の生成を活性化するという点で、コミットメントパスとコミットメントポイントというアイデアは、「良質な強い繋がりとはどのように生み出すか」という課題の一つの答えになるのではないかなと思いました。

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https://speakerdeck.com/kyonmm/unlearn-agile?slide=35

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https://speakerdeck.com/kyonmm/unlearn-agile?slide=44

余談
これは、kyonさんへのフィードバックというよりも残されたピースに関するものですが、アイデアは示されたのですが、どのような手順で行えば、コミットメント量の上限、制約の中で組みあわせられるのかの一例を知りたかったところです。

ただアイデアから実装までを思いつけないようではどのみちできないでしょうから、示されない方が良かったのかもしれないなとも思います。※こんなことをいっているので浸透の谷に落ち込むのですが。



深い共感

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https://speakerdeck.com/kyonmm/unlearn-agile?slide=35

kyonさんはお話しの中では「深い共感」というテーマが話されましたが、共感そのものの定義はされませんでした。

情報の生成に向けて、頻度の高いコミュニケーションをする際の共感について、私なりに過去の取り組みから言語化すると以下になります。

私たちに現在進行形で影響を与えている環境的な刺激に対して、相手の関心事に関心をもって相手と自分の認知を表現しつづけるプロセスを通して、矛盾がなく心地よい状態を形成する質を捉えている状態

私の取り組みの話ですが、誰かから教えられた方法ではうまくいかず、自分達で新しい方法を生成して乗り越えないといけないときに役に立ちました。

これは人以外にも用います。

PCが故障したとき、私はPCになりきって、もっとも不整合が起きているであろう摩擦が起きているところに関心を飛ばします。PCに起きている摩擦の最前線を観測しにいくような感じです。

一種の認識の拡張です。馬と一体になったようなことを表す人馬一体といいますね。バイクや車の運転では人機一体と表現されることもあります。

武道では、技術がその人を通して現れる心技一体。ほかにも心身一体、主客一体、異体同心など、様々な認知の変容があります。

盲者の方にとって白杖は、自分の体の延長のようになる一体感覚を伴うと聞きます。私たちもペンを紙の上で走らせるとき、指先や腕ではなく、もはやペン先に意識を集中させるという道具との一体感を得られます。筆がノっているときは、指先からインクが流れる感覚になります。

偉人の逸話でいえば、アインシュタインは、光になって宇宙を旅するという夢想から相対性理論の着想を得た逸話があります。自然現象の光との一体化という夢想も一種の認識の拡張と思います。


チームの秩序マップ

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https://speakerdeck.com/kyonmm/unlearn-agile?slide=37

発表の中で秩序マップというアイデアが表現されていました。

・深い共感、直観&客観
・実験
・ルール、原則、ガイド

深い共感から始め、それを元に実験を行い、ルールや原則、ガイドを生み出していくという流れを説明されました。生み出されるルールは単に仕事のやり方ではなく、深い共感が宿るように作ると私は理解しました。

さて、私が知る限りだと、真正な実践(authentic practice)が一番近い概念です。


真正な実践(Authentic Practice)

真正な実践とは「科学者がどのように探求するのか」を明らかにしたものです。1980年代から研究され学習科学という分野が成立しました

科学者の探求方法
・科学の実践は、実験、試行錯誤、仮説検証、討論と議論に関わることである。
・科学の探究は、単独で行う探求ではなく、科学的コミュニティの中で頻繁に同じ専門分野の仲間と出会い、科学者たちは頻繁に他の科学者の主張を評価することについて話したり、自分の主張を論理的に支持しつつ、他者に示す最良の方法について考えたりしている。
・科学的知識は状況に埋め込まれ、実践され、協調的に生みだされる。
・科学の道に加わる新参者は重要な実践全てに参加する方法を学ぶことで、成員へとなっていく。

このような過程の中で、物事の理解を単に辞書のような孤立した知識としてではなく、知識と知識の関係も含めて学んでいきます。

・新しいアイディアや概念を既有知識や先行経験と関係づけることである
・自らの知識を、相互に関係する概念システムと統合することである。
・パターンや基礎となる原則を探すことである。
・対話を通して知識が創造される過程を理解し、議論の中の論理を批判的に吟味することである。
・理解と学習過程を振り返ることである。
※『学習科学』1巻より


伝統的な教育、教授主義(Instructionism)

一方で、伝統的な教育では、内容そのものは科学(人文科学や自然科学)を教えますが、科学者が考える過程とは全く異なる形で教えます。

・自分たちがすでに知っているものとは無関係なものとして扱う。
・相互に切り離された知識の断片として扱う。
・教科書で出会ったものと異なる新しいアイディアを理解することを困難に感じる。
・事実と手続きを、全知全能の権威的存在から伝えられた静的知識として扱う。
・記憶するのみで、目的や自身の学習方略を振り返ることはない。
※『学習科学』1巻より

この伝統的な教育、事実と手続きを知ることによって人は教育されるという考えを教授主義(instructionism)といいます。

事実「水は100度で沸騰する」
手続き「水を入れた鍋に火をかける」

このような事実と手続きを覚えさせ、そしてどれだけ覚えさせたかによって評価するモデルです。伝統的な教育には「なぜ」がない理由です。機能と構造をしらなくても、○○をすれば、○○という結果を得られるということです。

これは目先の仕事を片づけるのには役立ちます。理由を知る必要もない仕事を片づけるにも役立ちます。改善する必要のない仕事にも役立ちます。

しかし、教えられた以上の最高の仕事を目指すには全く足りない考え方です。

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教授主義は、情報処理のインプットとアウトプットにフォーカスされており、どのような処理が行われているのかという機能や構造を無視している点が問題です。

たとえば算数の筆算があります。桁数の多い計算をするとき、筆算を用いますが、それについて何をすると結果どうなるかは理解しています。しかし、なぜ解けるのでしょう。なぜあのようなデザインなのでしょう。多くの人は気にも止めたことがないでしょう。教授主義はブラックボックス化した知識の伝達なのです。

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真正な実践と教授主義、秩序マップ

さて、kyonさんの秩序マップに戻ります。

(仕事を一緒にしたわけではありませんので誤解しているところがあるでしょうが)下記の流れは科学者のように探求するように私には読めました。

1.深い共感、直観&客観
2.実験
3.ルール、原則、ガイド


一方で、よくあるアジャイルなど、方法の導入を考えて見ると、次のよう流れが多いのではないでしょうか。

1.ルール、原則、ガイド
2.実験
3.学習

この流れは、事実と手続きからなる教授主義に近いものがあります。

真正な実践と教授主義が悪いという話ではなく期待とバランスです。

真正な実践は学習コストが大きくかかります。つまり成果が出るまでに非常に大きな投資をしなければならないのです。

教授主義は、一流の人が生涯を賭けて生み出した方法を手軽に利用できるという点で極めて経済的です。私たちが小学生で習った教育は、昔なら当時の天才が生涯を賭けて到達した知恵です。

一言で、そこそこの仕事をするには教授主義で十分です。過去最高を塗り替えるには、真正な実践のような学習が必要となります。

kyonさんの目標が「ソフトウェア工学の歴史をつくるチーム」というのも合点がいきます。

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さて、このようにしてkyonさんの発表を私は理解しました。

しかし…

まだどこか違和感を覚えます。

2020年の出来事によって、オンラインのコミュニケーションがメインストリームとなり、kyonさんは毎週2-3回の勉強会を主催されています。

気が狂っていると言われていた勉強会コミュニティのdevloveですら、多くて月に2度でしたのでこの頻度は尋常ではありません。膨大な時間をかけて場を設けているのです。その勉強家というのは講義というよりも、ともに学ぶ場というあり方でした。


はたして「ソフトウェア工学の歴史をつくるチーム」止まりなのか

さまざまな科学分野で並々ならぬ努力を通して様々な発見をする人達がいます。しかし彼らの多くはプレイヤーであったり、閉じたコミュニティです。

真正な実践という方法が明らかにされて数十年経ちますが、この記事で初めて目にする人も少なくないでしょう。真正な実践を明らかにした学習科学そのものが浸透の谷に落ちているのです。

もし、真正な実践の浸透の谷問題が解決できたら、これこそ工学の歴史における目の誕生になるかもしれません。

※目の誕生とは、カンブリア紀における進化の大爆発の原因が、生物が光を捉える器官である目を生み出したことによって、さらなる劇的な環境適応や進化を生み出したという説。

もしかしたら、「ソフトウェア工学の歴史をつくるチーム」を作ろうとしてるのかも知れません。

「ソフトウェア工学の歴史をつくるチーム」を作るチーム

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0->1の情報の生成過程の技術を独占するコーチ、コンサルタントという知識差益モデルからの脱却

これまで弱い紐帯と強い紐帯の関係、情報の生成と浸透の谷、真正な実践と教授主義を見てきました。

一言で、より良いアイデアを広く他の人が使える形で届けるために、機能と構造を解き明かしながら、より効果的な方法を模索した探求だったのではないかなと解釈しました。より良い技術、かつ質の高い文化模倣子化です。

しかし、ここで壁があるのではないかなとおもいます。「0->1の情報の生成過程の技術を独占するコーチ、コンサルタントという知識差益モデル」です。

アジャイルやスクラムといった知識はあたかも自由に使ってもよい民主的なもののように捉えられますが、その情報の生成過程の技術や公開は統制的です。これは文化模倣子の隘路になっているのではないかなと私は感じています。


教育ビジネスにおいて都合のよい生徒とは、教師からみて「自分の教えを理解できるだけの賢さがあり、生徒が自分自身で思いつけないだけの無能であること」です。


これは教育産業の土台となる前提です。これをどのようにするかが「「ソフトウェア工学の歴史をつくるチーム」を作る」の課題になるのではないかなと思います。


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『AKIRA』©大友克洋



最後に…生きた知識は動的かつ社会的概念

浸透の谷という話をしましたが、私は知識体系の人々への浸透過程や衰退の過程にも興味があり、興亡をみてきました。

そこで分かったのは知識や技術というのは、人々が情熱を持って関わり続けることで維持ができる動的かつ社会的な概念であり、人々の関心がなくなったとき、一気に滅びるということです。

これはイーロン・マスクが取材を受けているときにも言及されています。

宇宙進出の進展に目を向けると 1969年には月へ人間を 送ることができました

 1969年ですよ

それからスペースシャトルができましたが 人間を低周回軌道に 運べただけです
スペースシャトルが引退すると アメリカは軌道に人を運ぶことさえ できなくなりました それがトレンドです

無へと下降していく トレンドです テクノロジーは黙っていても 進歩していくものだと みんな勘違いしていますが 自動的に進歩するものでは ないんです

改善しようと多くの人がとても熱心に働いて はじめて進歩するんです 放っておけば 劣化していくと思います

 古代エジプトのような 優れた文明を見てください
彼らはピラミッドを 作れましたが その方法は 忘れ去られてしまいました

 ローマ人はすごい水道を 作り上げましたが それだって 忘れ去られてしまいました


工学は歴史を積み重ねていますが、同時に滅びてもいます。それは機械工学だけでなく、マネジメントなどの組織工学も同様です。

kyonさんはこういった問題にどのように取り組むのか興味があります。


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『攻殻機動隊』©士郎正宗

kyonさんのnoteはこちら



弱い紐帯と強い紐帯、生成する組織といったテーマは『プロダクトマネジメント大全 中巻 プロダクトマネジメントチーム』でも取り扱っていこうと思っています。私もがんばろう。


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