運動学習から考える!足関節捻挫に対するアプローチ
皆さん、こんにちは^ ^
LOCO LAB.ライターの塚田です。
皆さんは足関節捻挫をした経験はありますか?
足関節捻挫はスポーツ障害の中でも頻度が高く、また厄介なことに慢性化することで、足関節捻挫の再発や主観的な不安定感を訴える慢性足関節不安定症(Chronic Ankle Instability:CAI)になることが多いです。
今回はこの足関節捻挫の中でも特に問題となりやすいCAIについて運動学や機能解剖的視点ではなく神経学的な視点、特に運動学習を中心として考えたアプローチを紹介したいと思います。
ただまず足関節捻挫がどのような組織に起こるのか、またどのような病態なのかを簡単に説明します。
●足関節捻挫により損傷を受けやすい部位
足関節捻挫はほとんどが内反捻挫となります。その理由として距腿関節の関節を確認すると内果より外果の方が低位に存在する為、容易に内返しがしやすい構造となっているからです。
その為足関節外側の靭帯が損傷を受けやすいですが、大きく分けると遠位脛腓関節での障害と距腿及び距骨下関節での障害に分けられます。
遠位脛腓関節 → 前脛腓靭帯・骨間脛腓靭帯
距腿および距骨下関節 → 前距腓靭帯・踵骨靭帯・距踵靭帯・頸靭帯
これらの靭帯の中でも最も多いのは前距腓靭帯の損傷になります。その理由として前距腓靭帯は底屈位と内返し位で最も緊張する為と考えられます。
●足関節捻挫の病態と特徴
足関節内反捻挫は選手間の接触により生じることもありますが、ランニングでのInitial contact時やジャンプからの着地や方向転換で生じる非接触型の損傷も多いです。その損傷する運動方向は下記のように部位により異なります。
遠位脛腓関節 → 足部の外旋・過度な背屈・過度な外返し・過度な内返し
前距腓靭帯 → 過度な底屈・内反・後足部内旋および下腿骨外旋
(Hertel J :Functional Anatomy,Pathomechanics,and Pathophysiology of latelral Ankle Instability.J Athl Train,37(4).P364-375.2002)
足関節捻挫ではこれらの動きが生じないようにリハビリテーションを進めていきますがそれだけでは不十分です。
実際足関節捻挫が生じる際は足部が地面に接地後0.06〜0.19秒と非常に短い時間で生じる為、足関節を意識的にコントロールすることは非常に困難です。
また足関節捻挫後に生じるCAIでは運動器としての不安定性を呈するだけでなく、神経系にも影響を及ぼし皮膚感覚や関節位置覚の低下が見られます。
CAIを有するものは健常者と比較して、足底皮膚機械受容器の感度が低下している。
Burcal CJ, Hoch MC, Wikstrom EA. : Effects of a Stock- ing on Plantar Sensation in Individuals with and without Ankle Instability. Muscle & nerve, 2016.
CAIを有するものの患側の足関節は健常側の足関節に比べて内反方向の関節位置覚が低下している。
McKeon JM, McKeon PO. : Evaluation of joint position recognition measurement variables associated with chronic ankle instability :ametaanalysis. J Athl Train, 47 (4) :444-456, 2012.
これら求心性神経活動の低下が足関節内反捻挫予防に重要な腓骨筋の筋トーヌスの低下を招いたり、全身のバランス能力の低下を引き起こします。
足関節外側靭帯に存在する感覚受容器の求心性神経活動の低下がフィードバック感覚運動調整を阻害しバランス能力を低下させる。
McKeon PO, Booi MJ, Branam B, Johnson DL, Mattacola CG. : Lateral ankle ligament anesthesia significantly alters single limb postural control. Gait Posture, 32 (3) : 374-377, 2010.
このように組織・構造的な変化と神経的である感覚入力の異常が慢性的に続くことにより、本来は「異常」である身体の使い方を「通常」と認識するように運動学習してしまう為、いわゆる「捻挫グセ」というCAIを引き起こしてしまいます。
●CAI改善のカギ「運動学習」
ではこのCAIを改善する為にはどうしたら良いでしょうか?
それは「異常」を「通常」と認識してしまい学習する”運動学習”にポイントがあると考えています。では運動学習とはどのようなメカニズムなのかを説明します。
運動学習には3つの要素があります。
これら3つの中で身体の複雑な動作を学習するために重要なのは①教師あり学習と②強化学習です。
◯教師あり学習
教師あり学習とは実際行っている運動と脳内でイメージしている運動の誤差情報をフィードバック(教師信号)して行う学習です。
遅い運動では感覚神経によるフィードバックのみで運動を修正出来ます。(例えばテーブルに置いてあるコップを取るなど)
しかし、スポーツなどの速い運動(例えば動いている球を捕るなど)ではフィードバックする時間はなく修正出来ません。
そこで小脳に存在する内部モデルと呼ばれる運動イメージを利用します。
内部モデルとは『小脳に保持される筋骨格系の出入力情報』で、なにか目標となる運動軌道が入力されると、それに見合った運動指令を逆算して出力させることが出来ます。
ただこれは今までの経験から得た不完全なものの為、実際の軌道とは誤差が生じます。しかしその誤差を内部モデルの修正に役立たせ、より正確な内部モデルが構築され運動が上達するという学習モデルが教師あり学習になります。
もっと簡単にいうと、
合コンでお目当てのコがいる(目標運動軌道)
↓
今までの経験とネットで得た知識で気を引こうとする(内部モデル)
↓
話は聞いてくれるけど、隣の友達を気にしてない!?(誤差情報)
↓
このコが好きなサカナクションの知識をネットでこっそり調べて話題を広げる(内部モデルの修正)
みたいな感じです(笑)
◯強化学習
強化学習とは「出来た!」という適切な運動結果(報酬)により学習を促進するものです。
これは主に大脳基底核のドーパミン細胞が関与します。
教師あり学習では”誤差”が学習のポイントでしたが、強化学習では出来たか出来なかったかという”結果”が重要になります。その為、比較的遅い運動でも有効ですが、この学習を促すポイントは「いかに報酬を得られるか」にあります。
この報酬は大きさが重要ではなく、対象者本人が予測した報酬よりも実際に得られた報酬がいかに大きいかが重要になります。
これもわかりやすく言うと、
妻が夫を喜ばす為にいつもよりも頑張って夜ご飯を作った。
妻「『美味しい』ってニコニコ食べてくれれば良いかなぁ」
↓
夜ご飯になり
夫「うまい!お店で出せるレベルじゃない!?」とベタ褒め
さらにいつもより2杯もご飯をおかわりしてくれた。
↓
これを見て妻はものすごく嬉しいと思い「また頑張って作ろう」と新しい料理にチャレンジする。
みたいな感じです。これを夫がテレビを見ながら何も言わず食べてたら…言わなくてもどうなるか想像つきますよね。
あ、さっきから書いている例は実体験じゃないですからね!笑
話はそれましたが、強化学習に置いて重要なことは
になります。その為、達成すべき課題を段階的にすることと患者さんと共有し、患者さん自身がその課題の重要性を認識することが必要です。
●運動学習をどう工夫して治療するか?
ではどのようにCAIの患者さんにこの運動学習を応用すればいいでしょうか?
CAIは足関節捻挫後の異常な感覚入力が続くことにより内部モデルが書き換えられ、足関節だけでなく他関節での代償的な神経制御が見られます。
CAI患者と健常者のrotational lunge及び片脚rotational squatにおける大殿筋と中殿筋の筋活動を比較するとCAI患者の大殿筋活動は有意に低下していた。
(Webster KA, Gribble PA. : A comparison of electromy- ography of gluteus medius and maximus in subjects with and without chronic ankle instability during two func- tional exercises. Physical therapy in sport : official journal of the Association of Chartered Physiotherapists in Sports Medicine, 14 (1) : 17-22, 2013.)
CAI患者は健常者に比べて hand-held dynamometryにおける股関節外転および外旋の等尺性収縮は有意に低値であった。またこれは動的姿勢制御能力に影響を及ぼした。
(McCann RS, Crossett ID, Terada M, Kosik KB, Bolding BA, Gribble PA. : Hip strength and star excursion balance test deficits of patients with chronic ankle instability. J Sci Med Sport, 20 (11) : 992-996, 2017.)
このように股関節周囲筋に対する影響やこの他にも大腿四頭筋やハムストリングスに対する影響について言及した報告がいくつかあります。
これらのことから例え足関節のみでの損傷でも下肢全体の協調を図るような介入が必要であることが言えます。
またCAIを有するものは体性及び固有受容感覚の低下がある為、視覚による依存を起こしていると言われています。
(Song K, Burcal CJ, Hertel J, Wikstrom EA. : Increased Visual Use in Chronic Ankle Instability : A Meta-analysis.Med Sci Sports Exerc, 48 (10) : 2046-2056, 2016.)
これらのことを考えるとCAIに対しては
この3点が重要であると自分は考えています。
ではこれらをどのように臨床に用いていくかを次の章から述べていきたいと思います。
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