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筋バランスから考える!仙腸関節障害に対する評価と治療

皆さん、こんにちは!
LOCO LAB.ライターの塚田です^ ^

今月は腰部疾患を中心とした特集が組まれていますが、最終週の今回は仙腸関節障害による腰痛について述べて行きたいと思います。
仙腸関節障害に対する治療はもともと僕自身苦手なイメージがありましたが、一つ一つしっかり評価することで改善につながることが多くなってきました。それを今回お伝えしようと思います。

●仙腸関節障害とは

仙腸関節は仙骨と腸骨から成す関節で、抗重力位では重力や上半身重心から生じる負荷を腰椎−骨盤帯−股関節に淀みなく伝達することや、下肢から生じた床半力を上行性に伝達し、局所的な負荷や衝撃の軽減を図る上で重要な関節です。

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仙腸関節には自動運動を行う固有筋が存在しない為、関節の安定には仙腸関節周囲の筋や靭帯、その他の組織からの作用が重要となります。
その方法として挙げられるのが form closureforce closure です。

form closureとは骨構造による安定化のことで、仙骨の形が楔型をしており、これが左右の寛骨はまりこむことで安定性が向上します。また仙腸関節の関節面はS1・S2・S3でそれぞれ向きが異なり、関節面も隆起が不整である為、より噛み込むように安定しています。

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force closureとは筋や筋膜により生み出される張力による安定化のことで、主に腹横筋、多裂筋深層部、骨盤底筋、横隔膜によるlocal stability muscleにより得られるものと、胸腰腱膜を介する大殿筋、広背筋、多裂筋表層部などのglobal stability muscleにより得られるものがあります。

このforce closureがどの程度、仙腸関節の安定化を担うかはform closureや仙腸関節に加わる負荷量によって異なり、アライメントの不良によりform closureが不十分な場合や、動作の中で仙腸関節に加わる負荷量が高い場合、force closureは増大します。

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仙腸関節障害は、関節の不安定性や変性が生じform closureが破綻した状態で不自然な反復動作により、関節の不適合が生じ、force closureの過用もしくは誤用により靭帯の過緊張が引き起こされ、靭帯内の自由神経終末が興奮して、痛みが生じる病態です。

すなわちform closureの破綻により、force closureであるlocal stability muscleとglobal stability muscleの過用や誤用が生じメカニカルストレスが生じます。

その為、仙腸関節障害に対してはこれらの改善が重要となります。

ではこれらのシステムがそれぞれどのような状態になると、疼痛が生じるのか説明していきます。


●仙腸関節のform closureの破綻

正常の仙腸関節の可動性は並進で0.5〜1.6mm、回転は平均2°程度です。
骨盤が左右対称である場合、仙骨が上方・前方へ並進すると前傾(nutation)し、仙骨が下方・後方へ並進すると後傾(counter nutation)が生じます。

この仙骨の運動には相対的に寛骨の回旋が生じます。
仙骨前傾に対し、寛骨は相対的に外旋(outflare)し、後傾します。
一方で仙骨後傾に対して、寛骨は相対的に内旋(inflare)し、前傾します。

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では骨盤が左右非対称のアライメントを呈する場合はどうなるか…

例えば左寛骨が後傾した場合、相対的に右寛骨は前傾します。また左寛骨の後傾に伴い、仙骨は左回旋します。さらに左寛骨の後傾と外旋につられるように仙骨は左へ傾斜します。

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このように一方のアライメントの変化により、対側のアライメントと仙骨での回旋を生じます。左右の仙腸関節の可動性が同じ不安定性がない場合は、仙腸関節付近での疼痛は生じませんが、この仙骨での回旋が腰椎に波及し、腰椎でも回旋偏位が生じる為、一側の椎間関節に過大なメカニカルストレスが生じ、疼痛を生じます。

一方、仙腸関節の不安定性に左右差がある場合は、不安定側のforce closureの過用もしくは誤用を引き起こし靭帯の過緊張が引き起こされ、靭帯内の自由神経終末が興奮して、痛みが生じます。また靭帯だけでなく代償的な筋収縮により筋スパズムを引き起こし筋に疼痛を生じることもあります。

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その為、これら骨盤の非対称性を出来る限り軽減することが疼痛改善の一つ目のポイントとなります。

 

●global stability muscleの破綻

腰部や骨盤帯の安定性に働くglobal stability muscleとしては胸腰筋膜を介する筋群が挙げられます。筋としては大殿筋、広背筋、多裂筋、内・外腹斜筋などが挙げられます。これらはlocal stability muscleとは異なり運動の負荷やスピードを要する場面において遠心性の制御(減速機能)を有しています。

仙腸関節に対する作用としては特に胸腰筋膜を介した大殿筋と広背筋の制御が特に重要となります。
大殿筋により生じる張力は仙骨を介して対側の胸腰筋膜に伝達されることで仙腸関節が圧迫され、仙腸関節が安定性を得ることが出来ます。

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しかし前述した骨盤の非対称性が生じる場合、よく見られるパターンとして寛骨前傾に伴う、股関節屈筋群(大腿直筋・縫工筋・大腿筋膜張筋)の過緊張により、拮抗筋である大殿筋は抑制され、仙腸関節に対して安定性をもたらすことが困難になり不安定となった仙腸関節に過剰なストレスが生じます。

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またこのストレスに対して代償的に仙腸関節の安定化を図ろうと同側の梨状筋や表層多裂筋もしくは脊柱起立筋が過緊張を引き起こし、筋スパズムや靭帯に対する過緊張を誘発させ疼痛につながります。

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その為、骨盤のアライメントを修正した上で、大殿筋と胸腰筋膜の張力が左右ともに働きやすい状態を作ることが重要となります。


●local stability muscleの破綻

体幹に存在するlocal stability muscleは多裂筋・腹横筋・横隔膜・骨盤底筋群が挙げられ、これらが協調することにより腹腔内圧が高まり腰椎・骨盤帯が安定し、脊柱の抗重力伸展活動が可能となります。

しかしこれらのユニットのうち、どれか一つの筋が機能低下に陥ることによりlocal stability systemは上手く働きません。そのような状態では腹腔内圧が高まらず、脊柱の抗重力伸展保持に対してglobal muscleを代償的に働かせる為、腰椎の過剰な前弯が見られたり、上部体幹の後方偏位に伴う、骨盤の後傾などが見られます。

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実際、仙腸関節痛などの骨盤輪不安定を呈する患者では、下肢の伸展挙上などの負荷に対して骨盤底筋群と含めた骨盤の安定化を十分に機能出来ない場合、横隔膜を固定的に使用したり、外腹斜筋などのglobal muscleの緊張を高め下位胸郭を固定的に安定を図ろうとする戦略が見られます。
(O'Sullivan PB et al:Altered motor control strategies in subjects with sacroiliac joint pain during the active straight-leg-raise test.Spine 27 P1-8 2002)

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その為、これらlocal stability muscleの機能改善が骨盤の安定化に重要となりますが、腹横筋・多裂筋・横隔膜・骨盤底筋群のうち、どこが特に機能低下を生じているか判断し、アプローチすることが重要です。


ここまでの話をまとめると、仙腸関節障害に対しては

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この3つのポイントを解決することが重要です。

次の章からはまず仙腸関節障害に対する鑑別評価を紹介した後に、これら3つのポイントに対する評価とアプローチをそれぞれ紹介したいと思います。

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