嬉しい阿部寛

まえがき
『すべて忘れてしまうから』配信終了記念。
タイトル通りのことを思って書いたけど、下書き保存してやめていた。
5話くらいと言ってるけど書いたのは3話くらいだった。
でもそりゃ公開するよね。こんなんでも。すべて忘れてしまうから

本作品は全10話でした。
気になる会話と味わい深い人物たちと、エンディングに質の良いライブ音楽を楽しめる、心豊かな、もはや贅沢な作品です。軽やかに見てほしい。

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私が思春期に初めて好きになった俳優。
インターネット黎明期の趣を現代に残す、もはや「生ける伝説」と呼びたくなるあの公式サイトを何の違和感もなく閲覧していた時代、というとそれなりの時間経過が伝わるのではないか。この前、久しぶりにサイトに立ち寄ったが、今も変わらずあの装い。インターネットの、もはや人生の寄る辺と言っても過言ではないくらいの安心感を与えてくれた。ある世代以上はたまに眺めると私のように少し心が落ち着くかもしれない。世の中これほどまでに変わらないのはこのサイトくらいなのではとさえ思う。あ、でもいつの間にか海外オファー向けに英語でコンタクトについて書かれた短い文がトップに掲示されていた。いつからだろう。ちょいちょい海外作品出ているし納得ではある。あのサイトが海外の人も惹きつけているのではと思うとワクワクしてしまう。

寛(と呼ばせてください)を好きになったきっかけはドラマのトリック。変でおもしれえけど背が高くて顔が良くて、山田とのはっきり定義しがたい関係もいじらしくたまらなく。調べたら本人も上田に近い人柄と感じ、夢中になってしまった。
ただし好きになるには年齢がかなり離れているので、打ち明けるのが恥ずかしかった記憶がある。とはいえ友人はトリックを見ている人がそこそこいたためハードルを感じなかったような気がする(むしろ寛に限らず推しをしっかり押し付ける時代が長かった。恥の多い人生)。
問題は親だった。思春期もあいまって親バレが恥ずかしかった。でもバレないと実家では追えない。テレビはリビングにしかないし、スマホもサブスクもない時代。明かす手段は匂わせだった。どこまで作戦として企んだか、勝手にバレたかはもう覚えていない。
かつて特命リサーチ200Xという番組があった。確か超常現象やホラーを扱うような番組。寛はそれらの題材を解明する役柄に扮していた(ごろーちゃんも出ていた!)。なぜか家族は毎週日曜日それをつけていたけど、幼い私は真に受け怖がり好まなかった。しかし寛を好きになってからというものの、推しの番組はできるだけチェックしたい。私は彼の貴重なレギュラー番組であるそれを、あるときを境に積極的に見るようになった。その異変に母が気づき、指摘した。
母「何で見るようになったの。怖いって言ってたじゃん」
私「……」
母「阿部ちゃんか」
こんなやりとりがあったように思う。
スマートでも素直でもないが、とにかく一山越えた。これ以降、私は家庭内でも堂々と寛を推せるようになった。

一番のお気に入りはトリックだったが、続編を待ちわびながらも他の作品を見る。お気に入りはドラマなら結婚できない男、映画は自虐の詩、歩いても歩いても、海よりも深く。道元の冒険などの舞台も観に行った。
2014年にはトリックシリーズ最後の映画が公開。思春期に多大なる影響を受けた作品との別れはさみしかったが、繰り返しを感じさせる展開、上田の感無量のドアップで有終の美を飾った。上田と山田は今日もどこかで生きている。

それから数年、他にも推しがいるのと、日曜9時系の作品はあまり好めず(出世はうれしい!売れた!)、しばらく寛からは遠ざかっていた。
しかし最近久しぶりに「嬉しい寛だ」と思えるドラマが始まった。
タイトルは「すべて忘れてしまうから」。
寛の役はうだつのあがらない作家。ある日を境に彼女が行方不明になる。必死になって探すと思いきや、そうではない。行きつけのバーにやってくる彼女の関係者と交流しながら彼の知らない彼女の姿や消息をつかんだり、つかまなかったりーーという話。日常にミステリーが混じってきちゃった、くらいの塩梅。全何話かわからないが、ディズニープラスで現在5話まで配信されている。
まず作品として魅力的。レトロな雰囲気の映像、エンディングは毎回違うアーティストが登場。バーや喫茶店など味のあるロケーション。しかも行きつけのバーで働くのはCHARAにクドカン。ストレートよりもちょい変化球を好むならくすぐられちゃう世界観。そしてそれが丁寧に作り上げられていると感じる。
話も面白い。寛の役が人付き合いに無頓着ゆえの示唆的な展開・セリフもあり、こちらの日常に照らし合わせて考えたくなる。

作品としての質の良さも嬉しいけれど、見れて嬉しい寛がいる。
好きだったトリック・是枝作品に出ている寛に近い。
ちょっと変。
ちょっとだから派手じゃないし、周りを圧倒しない。圧倒しててもどこか世界は小さいし、どちらかというと翻弄されたり巻き込まれがち。
ごちゃごちゃ、いや、それよりもミニマムにこちゃこちゃっと悩む。
あれだけでかい体でこちゃこちゃ。でも声や顔の見栄えがいい。
愛らしい以外の何者でもない。歳を重ねて色気も増しているように思う。
豪快変人おじさんもベクトルとしては嫌いじゃないけど、これくらいがずっと見ていたくなる。

この作品を通して、寛のじわじわとした魅力を再び感じる日々。
これからもこういう作品に愛されてほしいし、出てほしいなと願う。

本作は原作があるらしいが読んでいないのでこれからどうなるか楽しみ。
全何話だかわからないけど、毎週水曜日配信。
ディズニープラス契約者はぜひ。拾われた男も!そして拾われた男のように民放で流れるといいな!

#阿部寛 #すべて忘れてしまうから #ドラマ

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