現代の学校教育が抱える課題 - システム2の思考力を育む機会の不足
現代の学校教育システムには、生徒たちの深い思考力や柔軟な思考を育む上で、いくつかの課題があります。これらの課題を理解するために、心理学や哲学の概念を用いて説明してみましょう。
1. 「エポケー」の欠如 - 判断保留の難しさ
「エポケー」とは、古代ギリシャの哲学者たちが提唱した概念で、判断を一時的に保留し、様々な可能性を探る態度を指します。しかし、現在の学校教育では:
- 正解が常に用意されており、生徒たちはそれをすぐに受け入れることを求められがちです。
- 問題が起きた際も、じっくり考える時間を取らずに、即座に結論や処罰が下されることが多いです。
この状況では、生徒たちが「エポケー」の姿勢を身につけ、多角的な視点で物事を考える機会が制限されてしまいます。
2. 「ネガティブケイパビリティ」を育む環境の不足
英国の詩人ジョン・キーツが提唱した「ネガティブケイパビリティ」は、不確実な状況や矛盾に耐え、性急に結論を出さずに探求し続ける能力を指します。学校教育において:
- 明確な答えや即座の解決策を求める傾向が強く、「分からない」状態を許容する雰囲気が乏しいです。
- 時間割の制約により、一つのテーマについてじっくり考え抜く機会が限られています。
このような環境では、「ネガティブケイパビリティ」を育む土壌が十分に整っていないと言えるでしょう。
3. カーネマンの「システム1」と「システム2」のバランス崩壊
心理学者ダニエル・カーネマンは、人間の思考プロセスを「システム1」(直感的、自動的な思考)と「システム2」(意識的、論理的な思考)に分類しました。現在の学校教育では:
- 短い授業時間と詰め込み式の学習により、直感的な「システム1」に頼りがちになっています。
- じっくり考え、分析する「システム2」を活用する機会が不足しています。
結果として、表面的な理解や機械的な問題解決に偏り、深い思考や創造的な発想が育ちにくい環境となっています。
これからの教育に求められるもの
これらの課題を克服し、より豊かな学びの環境を作るためには:
1. 「エポケー」の姿勢を育む:
- オープンエンドな問いかけを増やし、多様な答えを認める授業設計
- 問題に対して即座に結論を出さず、多角的に考察する習慣づけ
2. 「ネガティブケイパビリティ」を養う:
- 不確実性や曖昧さを含む課題に取り組む機会の提供
- 「分からない」ことを恐れず、粘り強く探究する姿勢の奨励
3. 「システム1」と「システム2」のバランスを取る:
- じっくり考える時間を確保した授業設計
- グループディスカッションや協働学習を通じた深い思考の促進
これらの取り組みを通じて、生徒たちが主体的に考え、学び、成長できる教育環境を整えることが、現代社会が求める柔軟な思考力と創造性を育む鍵となるでしょう。
野中恒宏
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