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「ぶざまな」生き方を愛せるか?

毎日、オンラインとオフラインで様々な人たちと出会っていると、「自分はぶざまだなぁ」と感じる瞬間が少なからずあります。

私は子どもの頃、今以上に引っ込み思案であり、なるべく本当の自分を隠しながら生きていた記憶があります。何か本当の自分を無様だとか、かっこ悪いとかそんなふうに感じており、なんとなく仮面をかぶって演技をしながら生きてるような感じだったように思います。

そんな自分のぶざまさを隠して生きていた真っ只中であった大学生時代、私は下宿先で初めて映画「男はつらいよ」を見たのです。それまで、名前は聞いたことがあったのですが、実際に見たことがなく、いざ見てみると、自分がものすごくのめり込んでいることに気が付きました。

もちろん、寅さんのキャラクターに腹を抱えて笑ったり、ストーリーに感動したりした事はもちろんですが、それ以上に自分の中に深い理由があったのだと言う事に昨日気がついたのです。

オンラインの仲間たちと寅さんについて、色々と語っていたところ、実は寅さんは自分なのだと言うことに気がついたのです。ご存知の方も多いと思いますが、寅さんは毎回のエピソードの中で女性から必ずフラれます。それを48回以上繰り返しています。私も、学生時代少なからずふられたことがあるので、そこを自分は寅さんと重ねているんだと思っていました。

しかし、寅さんの中に見出した自分とは振られている自分ではなく、ぶざまな自分だったのです。寅さんは映画の中で、振られること以外にも様々なぶざまな生き方を人々にさらしながら生きています。学校を中退し、家出をして放浪の旅に出て、ヤクザ世界に足を踏み出した寅さんは、自分自身のことをカタギの人間とは思っておらず、その境遇からして、世間的には無様というか、みっともないというか、隠しておきたいことだったのかもしれません。そして、世間的な常識が全くわからない寅さんは、故郷の柴又だけではなく、旅先でも様々な無様さや、格好悪さや、みじめさをさらけ出します。

現実の世界では、こうした人間は仲間外れにされると思います。人々はこうした人間とできるだけ関わろうとせず、距離を置いたり、何か関わりが生じるとそこで対立が生まれたりすることも珍しくないでしょう。

しかし、寅さんの周りには不思議と多くの人々が集まってきます。人々は、寅さんを避けるどころか、寅さんとともに大いに笑い、癒され、生きる元気を取り戻していくのです。ある人間のぶざまさやかっこ悪さが多くの人々を結びつけ、生きるエネルギーを上昇させているのです。これは、現実世界ではなかなか感じにくい世界です。

もちろん、映画の中でも寅さんは柴又の人たちとぶつかったり喧嘩をしたりする事もしょっちゅうあります。特に、おいちゃんは寅さんに対して「情けないねぇ」とか、「バカだねぇ」とか、愚痴をいっぱい言うのですが、そうすると寅さんはいつも決まって「そんなことはわかっているよ。でも、そうなんだからしょうがないじゃないか。それを言っちゃおしめえよ」という趣旨のことを言ってまた旅に出ていくのです。しかし、興味深いのは、寅さんが出て行った後、柴又の人たちは内省し、もう一度寅さんとつながろうと思うのです。顔を合わせている時は喧嘩をしたりするけれども、実は深いところで、寅さんの中に自分自身を見出しており、寅さんを実は愛していると言うことを発見するわけです。

つまり、ぶざまさは誰の中にもあるのであり、それは様々な形を通して表に出ていると言うことであります。したがって、他人の無様さやかっこ悪さやみっともなさに感情的に反応したとしたら、それは同時に自分の中にもあるぶざまさやカッコ悪さやみっともなさに反応していると言うことなのです。

言い方を変えれば、それまでの人生の中で愛してこなかった自分の側面を発見していると言うことなのだと思います。

さらに言えば、社会的な常識や社会通念からレッテルを貼れば「ぶざま」「みっともない」「格好悪い」ということになりますが、その本質は、唯一無二のその人の個性だと言うことになります。そして、その個性が示している凹凸は他の人たちと違う形をしているんだと思います。その凹凸を心の底から抱きしめて愛して感謝できたときに、それはもう「ぶざま」でもないし、「みっともないもの」でもないし、「格好悪いもの」でもなくなり、光輝く個性になるんだと思います。

メンタルモデルの中には「欠陥欠損モデル」というのがあります。これは、世間一般と比べて自分には何かが欠けている、何かが足りないと言う不安が常にベースにあるモデルのようです。私は、寅さんが体現しているのはこのモデルではないかと思っています。

そして、この「欠陥欠損モデル」が本当は目指したい世界は、「凸凹のままで人は完全で、誰もがどこにいても内側に何があっても、ありのままに存在して生きていられる世界」(由佐美加子著「ザ•メンタルモデル」)ということです。私は、映画「男はつらいよ」で表現されようとしている世界が、まさしくこの世界ではないかと思ったのです。

「自分の凹凸をもっと愛してあげなよ」

そんな寅さんの声が聞こえてきそうです。

オーストラリアより愛と感謝を込めて。
野中恒宏

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