コント台本『卒業アルバム鑑定士』
戸田(男)
21歳大学生。小中高と中身はインキャだがなんとかスクールカースト上の方の人と仲良くしようと奮闘していた。酒とタバコを覚えた途端急にいきりだすタイプ。
三浦(男)
21歳大学生。戸田の幼なじみ。毎日ヘラヘラ生きていてあまり物事を深く考えない。バイト先の片付け等で自分の場所の片付けが終わったら他の場所の片付けが終わってなくても平気でスマホとかいじり出せるタイプ。
倉持(男)
64歳資産家。なんか金持ち。すっごい努力はした。よく行く居酒屋さんの店員に「あの人羽振り良いけど何してる人なんだろうね。」と噂されるタイプ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
三浦「よし、着いた。ちゃんと持ってきたか?卒業アルバム。」
戸田「うん。それにしても凄いお屋敷だな…。お前に金ないって相談したら『じゃあ卒業アルバム持ってここに来い!』って言われたから来たけどなんで卒業アルバム?」
三浦「まぁまぁ、行けば分かるから!」
戸田「はぁ…。」
三浦、戸田、お屋敷に入っていく
暗転
明転、倉持がイスに座っている
三浦、戸田、入ってくる
三浦「お邪魔しま~す。あ、倉持さん!」
倉持「やぁ、久しぶりだね。」
三浦「その節はどうも。あ、こいつが今日会わせたかった…」
戸田「戸田です。」
倉持「君か。さぁ、どうぞそちらへ。」
三浦、戸田、イスに座る
戸田「えーと、この人は…?」
三浦「あぁ、この人は倉持さん。有名な資産家でここ最近は卒業アルバム鑑定士としても活動してるんだ!」
戸田「卒業アルバム鑑定士?なにそれ。」
三浦「卒業アルバムを鑑定して値段を付けてそれを買い取ってくれるんだよ!な!だから今のお前にピッタリって訳!」
戸田「なんでそんな事してんの?(笑) どういう趣味なの…?」
三浦「まぁまぁ、後で話すよ。」
倉持「さぁ、早速君のアンティークを見せてくれないか?」
戸田「おいこの人卒業アルバムの事アンティークって言ってるぞ?」
三浦「オシャレだよな!」
戸田「おしゃ…?(首をかしげる)まぁ良いや。はい、これです…。(卒業アルバムを倉持に渡す)」
倉持「ふむふむ、状態は良いね。えーと君は…」
戸田「(自分の写真を指差しながら)あ、これです。」
倉持「おお!しっかりと『陰キャラ』じゃないか!」
戸田「…え?」
倉持「これは期待できそうだ!ふむふむ…。お、このクラスの集合写真で見切れてるのは君かね?」
戸田「あ、はい。周りのイケイケの奴らに押されてそこで撮ることになっちゃいました…。」
倉持「素晴らしいじゃないか!!高まるなぁ…!」
戸田「は?」
三浦「あぁこの人はな、資産家として大成功してもう富も名誉も全てを手に入れたんだ。そうなった時に何がしたいか自分の心に問いかけたんだって。そしたら『人の報われない様を見るためにお金を使いたい!』ってなったんだって!」
戸田「いや、普通逆じゃない?(笑) 普通よく聞くお金持ちってさ、『人を幸せにする為にお金を使いたいんだ!』って言うじゃん。それなのになにこの人。性格わる。」
三浦「だからこの人に学生時代パッとしなかった奴の卒業アルバムを持っていくと高値で買い取ってくれるの!だから、お前を誘ったの!」
戸田「お前、僕の事『学生時代パッとしなかった奴』ってカテゴライズしてんの…?」
三浦「まぁまぁ!これはもしかしたら凄い値が出るかもよ!」
戸田「はぁ…。」
倉持「良いね良いね。どれも見切れている!一枚も君が真ん中に写ってる写真はないじゃないか!君は…何部だったのかな?」
戸田「あぁ、ソフトテニス部です。」
倉持「あー、男子でソフトテニス部!一番微妙で良いね!」
戸田「学校によるだろ。」
倉持「おぉ!これは…。部活の集合写真で誰も賞状やトロフィーを持ってないじゃないか!」
戸田「まぁ、皆弱くて…。万年一回戦敗けでした。」
倉持「くぅぅぅぅ!そそられるねぇ!(激しく電卓を叩く)」
三浦「運動音痴で良かったな!」
戸田「うるせぇよ。」
倉持「君、学生時代彼女とかは居た事あるのかね?」
戸田「あ…、まぁ一応…はい。」
倉持「どの子だ?」
戸田「(写真を指差しながら)この子です。」
倉持「む?可愛いじゃないか。減額だな…。(電卓を弱々しく叩く)」
三浦「(小声で)言えよ!ちゃんと言えよ!(笑)」
戸田「なんで言わなきゃいけないんだよ!」
三浦「…お金、欲しいんだろ?」
戸田「(諦めた感じで)あの、でもその子とは一週間しか付き合ってないんです。」
倉持「ほぉ?」
戸田「その子、学校で1,2を争うほど顔は可愛かったんですけど周りの友達との罰ゲームで僕と一週間付き合う事になっただけらしくて…」
倉持「おぉ…!(少し身を乗り出して)」
戸田「それで一週間でフラれたんですけど、その後罰ゲームって事を知らないイケイケのサッカー部の奴らが『あんなのがあの子と付き合うのは生意気だ!』ってなって、2年間くらい会うたびにボール当てられてました。」
倉持「最高だぁぁぁぁ!!最高だよ少年!!ちょうど良く恵まれないね!君は!!(よだれが垂れそうになるのを拭きながら電卓を強く叩く)」
三浦「このエピソードを聞く前と聞いた後じゃお前の見え方も変わってくるよな!(笑)」
戸田「お前ホントに友達だよな?」
三浦「でも倉持さん、紛いなりにもこいつそんな可愛い子と付き合ってたんすよ?減額になりません?もっとこう、付き合ってた子がめっちゃブスだった!とかの方が…」
倉持「バカだなぁ少年!!付き合ってた子がとてもブスだったというのも確かに悲惨かもしれない。」
戸田「それも結構失礼よ?」
倉持「しかしそこにはしっかりとした愛があるのだ!でも彼を見たまえ!この『人の愛』などどこにも介入していないエピソード!!よだれが止まらないよ…。」
戸田「人の傷めちゃめちゃえぐってくるじゃないですか。」
三浦「愛されてなくて良かったな!」
戸田「お前が一番悪いんじゃないかと思えてきたよ。」
倉持「はぁはぁ…、さぁもうこんなところかな…。は?!(何かを発見して驚く)」
三浦「倉持さん?!」
倉持、白目を向いて倒れる
三浦「倉持さん!どうしたんですか!」
倉持、寄せ書きが一つだけ書いてあるページを指差して二人に見せる
三浦「これは…、寄せ書きが全然ない!」
戸田「全然ない!!じゃないよ。もうやめて…。」
倉持、ハッとして起き上がる
倉持「あぶないあぶない。昇天しかけてしまったよ。」
戸田「いや、白紙じゃないんですよ?一個書いてあるんですよ?」
倉持「そこが良いのだ。君のこの卒業アルバムを見させて貰ったがね、全て『微妙にエピソードにするには弱いエピソード』なんだ。」
戸田「は?」
倉持「いやね、しっかりと友達が0人とか、付き合った事がないとかなら面白話になるんだが君の学生時代の立ち位置は一番多い中の下なんだ。社会に出て一番面白くない!そこがたまらなく良い!」
戸田「この人ずっっっと僕を傷付けてくるんだけど。(笑)」
三浦「評価されてるって事だよ!」
倉持「こんなに素晴らしい卒業アルバムは久々だ。ありがとう。さぁ、この小切手に好きなだけ金額を書きたまえ。言い値で買い取ろう。」
三浦「言い値?!凄いじゃん!」
戸田「そんな…良いんですか…?」
倉持「良いんだ。僕もね、学生時代は君みたいな中の下の学生だったんだ。それが悔しくてね。たくさん勉強してたくさん努力した。その結果今じゃ同級生の誰よりも金持ちさ。でも全然満たされなかった。そこでこの卒業アルバム鑑定士を始めたんだ。君みたいな子にこれからの生きる原動力を与えたくってね。」
戸田「倉持さん…。」
倉持「さぁ、いくらでも良いぞ!」
戸田「あ、じゃあお金とかもう良いんで…。」
三浦「はぁ?!?!」
戸田「あのぉ…えーと、三人で僕が真ん中の写真撮って良いですか?」
ダニエル・パウターの「Bad Day」が流れる
戸田「僕、その卒業アルバムに写ってる通りホントに写真の真ん中ってのに居たことなくて…、僕なんて端っこでいいやってずっと諦めてたんですけど、僕も変わりたいなって。だからその小さな…、ホントに小さな一歩かもしれないけれどここで笑顔で真ん中で写真を撮って僕も自分の人生の主役になりたいんです。」
倉持「ほぉ。うむ、君ならなれる。君の人生の主役はいつだって君だよ。さぁ、飽きるまで写真を撮ろう。もちろん君が真ん中でね。」
戸田「ありがとうございます!」
三浦「…え?卒業アルバム売ったお金でSwitch買ってくれる約束は?」
戸田「お前はずっとそうだな。」
戸田、倉持、笑う
三浦、戸惑う
三人で仲良く色んな写真を撮りながら徐々暗転
おしまい。