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上演脚本『美々礼賛』

はじめに

このnoteは、2022年6月18日、19日に行われる演劇公演、Mr.daydreamer 番外公演『美々礼賛』の上演脚本です。
公演情報はこちら

デイドリ恒例(?)の「脚本の前売り」となります。
序盤は無料で読めますので、雰囲気だけ知りたい方もぜひお楽しみください!

本番まで脚本の内容を知らずに楽しみたい方は、公演後にご購入いただくことも可能です!(noteで全編ご購入いただいた方も、ネタバレNGの方にはご配慮いただけるとうれしいです)

それでは、ぜひ、上演脚本『美々礼賛』をお楽しみください!

※著作権は作者に帰属します。許可のない複製・上演等はご遠慮ください。また、上演希望の方は、mr000daydreamer@gmail.comまでご連絡ください。
※「前売り」のため、本番までに脚本の内容が変更されることがあります。その変化もあわせてお楽しみください。

(以下、脚本です)

上演脚本『美々礼賛』

Written by: Ryuki Ueno

【登場人物】
・人1 (斉藤風央花)
・人2 (沢見さわ)
・蛇   (古川智恵子)
・語部  (渡吏深舟)


これは、現代へ捧げる物語である。

そこは、箱庭のようである。

人は二人で遊び歌(でんでらりゅうば・アルプス一万尺など)で遊んでいる。
蛇は、遊びに入れず、その様子を見ている。

語部:もうまもなく、始まります。今のうちに、御用をお済ませ下さい。お手洗いはよろしいですか?お連れ様はお戻りですか?……よろしいでしょうか?さて、この度ご覧頂きますのは、美々礼賛というお話でございます。美々という言葉、なかなか馴染みがない言葉かと思います。通常「美々しい」という形容詞として使われます。華々しく美しいといった意味です。礼賛は、褒め称えるといった意味ですから、言葉として成り立っていないのではないか?と指摘されるかもしれません。ただ、形容詞は名詞的用法で用いることが可能ですから、「美々しさ礼賛」と読み取って頂いて、なんとかそのご指摘を飲み込んで頂ければと。

地鳴りのような音楽。
腑が揺れる。
舞台に日光が差す。
夜明けである。

語部:考えてみれば、言葉を飲み込むというのは、非常に難しいことを要求しているように思います。一度、形になった言葉を、そのまま喉の奥に押し込んで胃に入れるわけですから、喉から胃にかけて不快感が襲います。咀嚼すれば良いのでしょうが、言葉を飲み込む状況において、その余裕を持てるか怪しい。

舞台後方に桜の木。
薄寒い春風に揺られている。
蕾が膨らんでいる。

蛇が衣服をはだけながら駆け巡り、無邪気な笑い声が響き渡る。
風が吹き荒ぶ。

語部:飲み込むといえば、私は蛇を思い浮かべます。獲物を丸々飲み込んでも平気な顔。蛇にとっては、言葉を飲み込むことも容易なのかもしれません。口縄、とも呼ばれますからね。口に縄をかけられて、言葉を飲み込むしかなかったのでしょうか。或いは、朽縄、言葉を飲み込んだまま、朽ちていったのかも。

水が滴る、或いは水遊びでもしているような音。
瑞々しく、生命を育む水の音。

語部:言葉を飲み込み続けた蛇の腹。裂いてみたら、何が詰まっているのでしょう。

蛇は、微かに聞こえたらしい。
近寄ってくる気配に胸をときめかせ、それでいて臆病に身を隠す。
それは恋慕にも、哀惜にも、ともすれば憎悪にも見える。

桜の木の下に、女が一人歩いてくる。

人1の掌に、一握の水。
生命を育む水。

人2が彼方から眺めている。
その目線は、人1と重なることはない。

人1は水を桜の木に注ぐ。
ついに桜は、白い花を咲かせる。

人1:咲いた、
三人:咲いた。
花が咲いた。
人1:白い花。
人2:咲いた
三人:咲いた。
人1:私の花が咲いた。
蛇:遂に咲いた。
女の花。
三人:咲かせ、咲いた。
咲かせてみせた。
人1:私の花。
人2:花
三人:花
蛇:花
人2:咲いた
三人:咲いた。
人2:女の花。
咲かぬとも構わぬ花。
三人:咲いて、咲いて。
蛇:やがて散りぬる。
人2:地上の花。
人1:史上の花。
これは吉兆やも。
咲いた花。
あの人も喜んでくれるだろう。
私たちの花。
蛇 咲かせてしまった
めでたき花。
やがて盛り、
錯乱させる。
花が咲いた。
人2:花が咲いた。
地上の花。
花は泡沫。
やがて散りぬる。
人々の花。
蛇:枯れゆく花が咲いた。

蛇は、遠くから二人の様子を眺める。

人1:花が咲きました。
人2:……。
人1:見て頂けました?
人2:見ました。
人1:ね、枯れ木では無かったでしょう?
人2:ええ。
人1:思い出しますね。かつての祭や宴を。
人2:あの日々を?
人1:そうです。酒を酌み交わし、笛や太鼓の音に合わせて、歌い、踊る。
老いも若いも男も女も、
誰も彼もが笑っていたあの日々を。
人2:そんなこともあったかな。
人1:忘れたんですか?
人2:あまりにも昔のこと過ぎて。
人1:そうですか。
人2:ええ。
人1:昔、昔のことでした?
人2:昔、昔のままならば。
人1:昔、昔は終わりました?
人2:花が咲いたので。
人1:花が咲いたので?
人2:ええ。
昔、昔の花
昔、昔の話

花のもとで賑わう、かつての人々の姿。

語部:昔、昔のお話。
今は昔のお話。
この世界には花がありました。
花のもとには人が集まり、
歌い、踊り、語りあかし、
それはそれは楽しい時間でした。

賑わっていたかつての様子は、霧と消える。

人2:昔、昔の話。
昔、昔の花。
咲いてしまった。
人1:咲かせました。
昔、昔の花。
また、あの日々が戻ってきます。
花のもとに人が集まり、
また、あの日々が戻ってきます。
人2:また、人が集まる。
人1:そうです。
きっと、また。
人2:―だけど、花は散るものです。

雨の匂いが漂う。
蛇が歌い始める。
やがて続くように、全員が歌う。

雨がふります 雨がふる

遊びにゆきたし 傘はなし

紅緒(べにお)の木履(かっこ)も
緒(お)が切れた

雨がふります 雨がふる

いやでもお家で 遊びましょう

千代紙(ちよがみ)おりましょう
たたみましょう

雨がふります 雨がふる

けんけん小雉子(こきじ)が
今啼(な)いた

小雉子も寒かろ 寂しかろ

雨がふります 雨がふる

お人形寝かせど まだ止まぬ

お線香花火も みな焚(た)いた

雨がふります 雨がふる

昼もふるふる 夜もふる

雨がふります 雨がふる

♪『雨』作詞:北原白秋/作曲:弘田龍太郎

雨が降っている。
雨音は低く響き、かつての争いの音を思い出させる。

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