超能力者の男女
都内某所にポツリとたたずむ、レトロな喫茶店。
不思議とここには、超能力者たちが集まってくる。
しかし今日はあいにくの雨。
どうやら客足が伸びていないようだ。
マスターも客席のソファにごろりと横になって熟睡していた。
その時、ドアに付けられたベルが音を立てた。
カラン、カラン、カラン、カラン
マスターがゆっくりと体を起こす。
入り口から現れたのは、いかにも会社員といった格好をした若い男女の客。
「お好きな席へどうぞ」。
マスターは2人のお手ふきを取りにカウンターへ向かった。
若い男女は席に着くなり、テレパシーでやりとりを始めた。
(ここ。初めて来たけど、古くて汚い店だな)と、男。
女も(これじゃあ、取引先の打ち合わせには使えないよね。あのマスターもよれよれの服を着ているし、タバコ臭いもん)と答える。
「ご注文は何にしましょう?」
マスターがお手ふきを渡して注文をメモする。
「ホットコーヒーで」と、男。
「私も同じもので」と、女。
若い男女は、その後もテレパシーで会話を続けた。
男(今日はどうする?会社戻る?)
女(戻らなくていいでしょ。直帰しようよ)
男(だよな。今日、家で映画みない?)
女(いいよ、何にする?)
男(じゃあ、あの流行ったアニメにしようか)
女(いいね。じゃあこれ飲んだらすぐに出ようか)
誰も会話をしない店内には、BGMの古い洋楽がかすかに響く。
コーヒーを飲み終えた男女が、席を立つ。
その時、男がハッとした表情を見せる。
(やばい。俺、会社にサイフ忘れたわ)
女も戸惑う。
(え。私も・・・お金おろさないとサイフに入ってないよ)
男は、ふふっと笑いながら
(大丈夫。サイフを瞬間移動でこっちに送るよ)
女も無言でうなづく。
(超能力って、やっぱり便利よね。最高)
レジの前で待っていたマスターが2人に尋ねる。
「お会計は現金ですか?」
男は「現金で」と答えると、マスターの目の前で手のひらを上に向けた。
すると、何もなかった空中にサイフが現れ、男の手の上にポトリと落ちた。
それを見たマスターは驚くでもなく、男から手渡された現金を受け取り、「ありがとうございました」と客を見送った。
再び、ガランとした店内。
マスターは受け取ったお札をレジにしまいながら、レジの横に置いた電子マネーの支払い端末に目をやった。
「ったく。テレパシーも支払いも、スマホがあれば十分だろう・・・」。
マスターはそう愚痴をこぼして、再びソファに寝転ぶ。
「次に客が来るのは・・・。30分後だな・・・」
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