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『肉』~『文体の舵をとれ』練習問題①文はうきうきと 問1~

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じゅうじゅうと熱せられた鉄板が唸るように肉の表面に火を通していく。こりゃたまらんと肉の内から溢れた油が湯だってばちばちと音を立てる。油の海はその熱を持って、肉の端や玉ねぎの端を侵食し返して、焦げの大地を方々に築きながら、鉄板全体を熱狂の渦へと巻き込んでいくのだ。
家族は昔の思い出を歓談しながらも、鉄板の上で蠢く熱気と狂乱の中で、肉肉しい肉がその幼く赤い面構えから脂ぎった一人前に育つのを心待ちにしていた。「昔の家に柿の木があったのを覚えてる」と問う父の視線はホットプレートの端に置かれたカルビ肉の様子を常に伺っている。父は自分の胃の調子と缶に残ったビールがあと何口分かを計算し、牛の白い脂近くに赤が残っているのを気にしているのだ。「忘れるわけないやん」と宣う長男の箸が、父の視線を横切って、彼のいとし子を堂々とさらっていく。箸はカルビ肉を長男の皿に連れ帰り、ゴマの浮いたエバラの海にふわりと着地させた。箸は次に迷うことなく、ネギキムチを数本つまんで、カルビ肉の上に乗せる。withサンチュか否かを迷う素振りすらなく、長男はカルビのネギキムチ巻きを口の中へダイレクトインさせた。熱、熱、熱、油、油、油、肉、肉、肉、ねぎの青さ、辛みがうまみに絡み、ゴマとニンニクのたれと混然一体となった味が舌も脳もバカにして、長男を「うめえええ」と唸らせた。箸は休む暇なく、新米を長男の口へと運搬する。肉の油の残る口で米を一口、二口、三口を食む。ライバルに肉を寝取られた父はカクテキをつまみにビールを一口。母が「ホルモンも行く」と言って、マルチョウのラップを剝がす。誰の食欲もまだ止まる様子がない。


『文体の舵をとれ』という本の課題に沿って書いた文です。
課題個所は練習問題①文はうきうきと 問1。
楽しんで書くという課題だったので肉食いてえと思いながら書きました。
はてな匿名ダイアリーに投稿してみたけど、特に反応がもらえなかったのでこちらに投稿しなおしています。
感想やご表現のご指摘等をいただけたら幸いです。

#小説 #文体の舵をとれ #問1 #文はうきうきと



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Mr_noise
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