2010年代の日本のバー事情
バー巡りのお話をする前に、まず、2013年当時の日本のバー事情についてご説明しましょう。
2010年代は日本のバーテンダーが世界を席巻した時代でした。
みなさんはカクテルコンペティションというものをご存知でしょうか?
世界各地から国内大会を勝ち抜いたバーテンダーが集い、それぞれの技術や作法、エンターテインメント性を競い合うというもので、カクテル文化を発展させようという目的のもと、世界的な種類メーカーの主催により実施されています。
酒類メーカーの数だけコンペがあると言っても過言ではないほど、さまざまなスタイルのコンペティションが存在します。
たとえば、2009年にスタートした「ディアジオワールドクラス」。
世界180カ国以上で酒類ブランドを展開するディアジオ社が開催する、世界最大規模を誇るコンペティションとあって、現在でも多くのバーテンダーや関係者の注目を集めています。
日本人バーテンダーといえば正確なバーテンディングと繊細な感性が評価されていましたが、パフォーマンスにおけるエンターテインメント性に欠けると指摘されることが少なくありませんでした。
それが、2010年代に入ると日本人バーテンダーがそれらの表彰台に名を連ねるようになります。
丁寧かつ確実なプレゼンテーションが、“おもてなしの心あふれる仕事ぶり”=“ジャパニーズ・バーテンディング”として高く評価されるようになったのです。
前述の「ディアジオワールドクラス」では、2011年に大竹学さん(現・「パレスホテル東京」内「ロイヤルバー」、「ザ・パレスラウンジ」マネージャー)が世界の頂点に立ち、ジャパニーズ・バーテンディングのムーブメントを後押ししました。
それに伴い、日本人バーテンダーが愛用するバーツールも、世界中のバーテンダーから注目を集めるようになっていました。
というのも、当時、低音調理器や遠心分離機といった、バー業界では目新しい道具を取り入れたカクテルが次々と生み出され、「ミクソロジー」がもてはやされるようになっていたのです。
道具に起因するカクテル・イノベーションが起こり、「ディアジオワールドクラス」のような世界規模のコンペティションで表彰台を狙うバーテンダーたちの間では、「最新の道具を取り入れて、これまでになかった新しいカクテルを作り出す」というモチベーションが共有されていました。
続く