【読書感想文】代々木怪談ーノベルアップ+ー夏の夜の怪談コンテスト傑作選ー

 小説サイト「ノベルアップ+」で開催された短編ホラー小説コンテストに投稿された傑作の怪談たちがまとめられた一冊でした。

 帯には「恐怖と幻想の18篇」という言葉に、実話怪談と創作怪談を越えたホラーにわくわくしました!

 

  このコンテストには「朗読可部門」「朗読不可部門」がそれぞれあります。
 「朗読可部門」では、YouTubeチャンネル「怖い話 怪談 朗読」での朗読動画化を検討してもらえるという夢のあるコンテストです。

 来年はこの代々木怪談の第二弾が刊行予定とのことなのでとても楽しみ感がある一冊になりました!

 そんな夢と希望がつまったホラー小説『代々木怪談』!
 いろんなお話がつめこまれているので、一冊で怪談というジャンルはかなり幅広いんだなと感じさせてくれました。

 お話の伏線があると思いますので、ご注意ください。

感想文

畏の章『虚構の部屋』
 心霊スポットに行った主人公が自身の体験した心霊体験を語るという内容。最後の部分でその体験がさらに不気味に思えてくる。心霊ジャンルだけじゃない世界系な怖さも感じました。 

畏の章『留守番百物語』
 スマートフォンが普及した今だからこそ起きる怪異だな、と思いました。怪談の定番であるあるな『見るたびに人物が近づいてくる』ような感覚、ス マホ使用者としての『ギガがない』みたいな不安感も面白かったです。

畏の章『神社の縁日』
 地元に帰るたびに友人から聞かされる怪談話。怪談の内容は体験したら怖そうと思うものの不思議なお話な印象でした。地元に帰って怪談を聞くたびに怖さを増していく進行形な怖い話でした。

畏の章『八脚、九重、十指』
 不気味な双子と彼岸花。大きな屋敷、中庭に咲き誇る彼岸花と双子たちを想像すると連綿と続く長い歴史が背後にありそうな空気を感じました。
 ただそこにいるだけで不気味に感じられる、という主人公の感覚にひっぱられるようでとてもひんやりとした空気を感じました。

畏の章『緑のブラウス』
 怪談の怖さのジャンルに『伝播』するものがあります。ビジュアル的な怖さもありながら、理不尽に周辺に降りかかっていく災厄の後味の悪さが最高です。

畏の章『継承』
 人の営みをどこかあたたかな雰囲気で語る世界観が不思議なお話でした。継承されたものが何なのかは分からない、ただ歴史を知るものはなく『そこにあるもの』。他人から見たらそれは普通ではなかった、というあり方がとてもリアルだなと思いました。

狂の章『壁の心臓』
 壁に現れた顔。心霊かはたまた幻覚か、そのはざまにある怪異の不気味さ。もし自分が同じような体験をしたとして壁の顔を幻覚だと割り切ることはできないだろうと思いました。幽霊はどこにいるのか、とても興味深いお話でした!

狂の章『肉の鏡』
 鏡はそこにあるものを反射する。自分が相手のすべてをコントロールしたいと思ったとき、その向こうに見ているのは自分なのかもしれないと思いました。人は鏡だ、という言葉がすごく怖くなるお話です。

狂の章『くる、くる、くる』
 魅惑の絵画、その中に住まう怪異。封印が解かれた、という印象もありました。関わったら最後どこまでも追ってくる。そんな怖さがあり主人公の無力感によってさらに怪物の不気味さが増していきました。

狂の章『みんなで怪談を楽しむ本』
 「みんなでたのしもう」その『みんな』って誰? な問答は子供がゲームを欲しがった時の親の反応あるあるですね。主人公の反応も人間が怖い系の怖さもありましたが、『怪談の終わらせ方』という言葉を見て百物語くらいしか終わりないんじゃないか?という怪談好きだからこその怖さも感じました。

狂の章『闇バイト』
 「上手く説明できない」というセリフからつながる『絶対に関わってはいけない怪異を出会ってしまった』ことを感じさせるたとえがすごい納得感と不気味さがあります。一時のお金で大きなものを失う怖さが面白かったです。

狂の章『留守番百物語』
 一行日記のように日常やホラー体験が続いていく。ささいな頼み事から世にも奇妙な世界に迷い込んでしまった感覚になる。一日目から百日目までのループ感がたんたんと起きていく日常をより不気味にしてくれます。

邪の章『家族ごっこ』
 怪異がつなぐいびつな関係。呪いの品よりも人間の業がかいま見えて面白かったです。本物ではないとわかっていながら、その場しのぎであるかもしれないと思いながらもつかの間の幸せを噛みしめるのも人間。そしてラストでさらにプラス業されて面白かったです。

邪の章『蚯蚓屋敷』
 子供がいたずらのつもりでやったことから屋敷の秘密が暴かれてしまいました。ビジュアルの気持ち悪さ、密集する虫への気持ち悪さもあります。怪異が起きたその後は代々木怪談の中でもほっと休憩できるスポットです。

邪の章『揺れる紐』
 人間が怖い話&後味が悪い話&心霊的な怖い話でした。とはいえ霊を見た子供からすると怖いではなく不思議な感じになるのでしょうが、それすらもゾワッとします。

邪の章『雛迎え』
 田舎の奇習、内容とそれを信じ切る地元の人たちに対する怖さもあります。その様子から神様は本当にいるんじゃないかと思わせてくる狂気、儀式を回避しようとしてもせまりくる邪悪さがたまりません。

邪の章『幽霊なんか怖くない』
 なぜ主人公と友人たちが幽霊にまとわりつかれるようになったのか、幽霊のせいで日常におびえる友人たち、怪異の断片に出会ってもけろっとしている主人公。『幽霊なんか怖くない』と言っているうちに待ち受けるものにハッとしました。

邪の章『深泥池で会いましょう』
 身近な人と死によって離れ離れになってしまう悲しさ。もう一度、愛する人の魂と会えるという希望に満ちあふれた池でした。安らかな願いのこもった池で主人公が会っていたものにゾワっとします。希望が打ち砕かれていく感じも悲しさが強くなっていきました。


 どれも魅力的で創造力にあふれる恐ろしい作品ばかりでした!!
 気の抜けるような作者あとがきに映画のエンドロールを見ているような気持ちになります!!

 そして待ちに待った怪談コンテスト2024!!!
 特別選考員の方々のメッセージも『怪談』とは一体なんなんだろうか、どうしてこんなに心が惹かれるのだろうか、と思わせてくれます。

 新たな怪異が生まれる源泉かもしれないノベプラの怪談コンテスト! とても楽しみですね!