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5年振りの上海雑記

先月、作曲家の澤野弘之さんの上海コンサート、澤野弘之 Live [nZk] in Shanghai 2024のゲストボーカリスト出演のお仕事をいただき、5年振りに上海へ行くことになった。少し飛行機の出発が遅れたため、現地に到着したのはコンサート前日の夜の7時を過ぎた頃。ホテルまではリムジンバスでの移動だった。ハイウェイから見える上海の夜。3回目の上海に来て感じるのは建物の形のユニークさである。ビルやマンションを見ているだけでも飽きない。古い洋風建築のものからモダンな建物、そして中国古来の建造物などが共存しているところが独特で面白い。また、古い建物や道路などに見える汚れや埃も歴史を感じさせる。ハイウェイが街を網羅していて、日本でいうところのタワマンよりもはるかに高い高層マンション群がそこら中に見えた。その数の多さだけで中国の人口の多さが窺える。目に付く車も変わったデザインのものが多く、ナンバープレートの大きさ、そこに書いてある文字や数字の形も新鮮に見えた。そんなちょっとしたことが上海に来ていることをさらに実感させる。今回で3回目の上海なのだが、毎回来るたびに街の印象が違うように感じる。とはいえ、前回に来た時は5年前だからなのかもしれない。


公演1日目

前日はコンサートの初日に備えて早めにベッドへ入った。支度を終えた後、バスで会場へと向かう。到着すると荷物のチェックがあり日本とは違う雰囲気を味わった。この日はとにかく初日の本番を外したくないという思いから、楽屋で出来る限り集中して本番に臨んだ。スタッフの方が舞台までの道のりを懐中電灯で照らしてくれ、無事にステージ袖にたどり着く。観客の声を袖からも体感することができて、上海のお客さんに向かって歌うことを全身で実感する。まさにこれがライブの醍醐味であり、生きていることを実感する貴重な時である。ついに自分の出番が来てステージに上がる。お客さんの声がさらに自分を高みに上げてくれる。ステージ上から見える観客席はまるで天国のように輝いて見えた。この日、こうしてまた上海の地で歌うことができたことは本当に感慨深かった。

終演後、ホテルに帰り着いた時はかなり疲労していた。コンサートが終わったばかりで興奮状態のためかすぐに眠ることができない。本当は明日に備えて寝たいのだが、ホテルにあるテレビをつけた。中国のテレビ番組を見てなんとか眠くなるまで待つことにした。海外に来ると地元のテレビコマーシャルなどを見るのも楽しみの一つである。言葉がわからないからこそ「これはどんな内容なのだろうか?」と推測しながら見るのもまた面白い。

翌日の朝は目覚ましが鳴る前に自然と目が覚めた。久しぶりに日本を離れてホテルにいると、自分でも意外なことに気がついたりする。普段は多くの情報やストレスの中で生活していて精神的に疲れることも多いのだが、ホテルの部屋で一人きりで静寂に包まれてみると、心の雑念が消え、しばらくぶりに心からリラックスできている。どうやら自分にはこのような空間が必要だったのかもしれない。ホテルの窓から見える上海のビル群と街並みを見下ろしてみた。加湿器の静かな音だけが聞こえる。この静けさがとても新鮮でそれが自分にとっては最高の贅沢であるということに改めて気がついた。これからは意識的に日々の生活の中で静寂の状態を作らなければと思う。


公演2日目

この日は、乾燥していたせいか喉の調子があまり良くなかった。コンサート会場に到着するとすでにバンドリハーサルが始まっていて低音が楽屋まで聞こえてくる。

「リハーサルでうまく声が出るだろうか?」
「本番でも歌い切る事ができるだろうか?」

と常に色んな不安が頭をよぎる。気を間際らわすために、のど飴をいくつも舐めて喉を潤そうとするのだが自分をコントロールすることが難しい。沢山のペットボトルが用意されていたのだが、多分1日に10本ぐらい飲んでいたんじゃないだろうか?とにかくステージをうまくこなせるだろうか?という思いに駆られて色んな事が疎かになる。持ってきた衣装は大丈夫だろうか?まだバンダナはあるか?そんな時に、衣装のズボンをはいた時、ベルトループにベルトが入らないことに気がついた。音響さんからするとワイヤレスマイクの機材をベルトループにつける事ができない。こんな些細な事が積み重なると段々と不安になってくる。楽屋では声出しをして何度も不安な部分を確認するのだが、やればやるほど心配になってくる。リハーサルである程度声を出すとそれが少しずつ解消されたり、かと思うとまた不安になったりと、とにかくジェットコースターに乗っているように短い間に気分がコロコロと変わる。

それでも、本番が来てステージに上がりたくさんのお客さんの声が聞こえてくると、こちらもそれに奮い立たされる。そしてさらにパフォーマンに気合いが入る。この時いつも思うのは、自分の力だけではなく、来てくれたお客さんから力をもらっているということ。そして多くのスタッフの方々の支えがあってこそ、この場所に自分は立てているということ。このような機会をもらえたこと、会場でたくさんのお客さんの前で歌えたことにこの日は改めて感謝した。そして無事に予定通り2日間のステージを終えることができた。

公演の内容についてはメディアの各種媒体に詳細な記事が出ているので、是非そちらでみなさんにチェックして欲しい。本当に素晴らしいコンサートだった。

今回のコンサートを通じていろんな刺激を受け、さらに前向きな気持ちになることができた。これも上海に来たからこそ得ることができた収穫であると感じている。このコンサートに携わった全てのスタッフ、ミュージシャンの方々に本当に感謝したい。そして、何より足を運んでくれた観客のみなさん。ぜひまた中国のみんなにも会いたいし、中国語が喋れればどんなに楽しいだろうなと思う。

我们希望再次见到大家!!谢谢, 上海!  


打ち上げ追記 

コンサート最終日が終わると、それまでの緊張感が一気に解放感に変わる。出演者とスタッフの方と打ち上げをして、たくさんのプレッシャーから抜け出してやっと上海の街を味わってみたいという心の余裕が生まれてきた。ホテルへ帰るとスタッフさんがさらに飲みに行くという。外へ出ると昼間に見た景色とは違う上海の顔をしていた。ホテル付近のエリアはたくさんのスタイリッシュなバーやブティックなどが立ち並ぶ素敵なところだった。2次会の場所へは先輩ミュージシャンの方と二人で合流しようということになった。スマホで慣れない上海の地図と悪戦苦闘しながらもなんとか歩いてたどり着き、中に入るとすでに中国の現地スタッフの人たちと舞台監督の大先輩はじめ、音響スタッフの方々もいた。着いた途端すぐに次の店に行くことになり、そこから再度みんなで飲む楽しいお酒タイムになった。このような打ち上げでスタッフの方と話をする機会は貴重で、普段は聞けないことや大切なアドバイスをもらえる事が多いので、とても価値ある時間になる事が多い。本当に、久しぶりにこういう場でお酒を酌み交わしながら話せたことが心から嬉しかった。日頃からこのような人たちに支えられて演者はステージに立つことができるのだなということをしみじみと実感した夜だった。

スタッフのみなさん、本当にありがとうございました!




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