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高齢者が「聞きとれる」テレビ番組を

「先生。最近おばあちゃん、耳が遠くなって。」
外来でよくある相談である。
娘さんの横で、会話をあきらめぼんやり座っている彼女に向って、ゆっくり、はっきり、シンプルな言葉を選んで話しかけると、やがて目が合い「先生の声、聴きやすいわ」とにっこり。そして会話が始まる。

高齢者は爆音でテレビを見ていることが多い。家族はそれを見て、聴力が低下したと判断し、補聴器を買いに行かせる。補聴器を付けても状況は変わらない。「補聴器が合わない」といった愚痴をよく聞く。
もちろん本当に聴力が低下している人はいるが、大半の高齢者は聞こえている。音は聞こえるが「聞き取れない」のだ。

加齢による脳の衰えがすすむと、耳から入る「音」を脳で「言葉」に変換し、言葉の内容を理解するのに時間を要するようになる。
耳から入ってきた「音」が「自分に対する声かけ」と気づくまでに時間もかかる。後ろから声掛けても反応がないのはこのためだ。
高齢者にとって若い人々の会話はテンポが速く、理解が追い付かない。そして彼らは、会話についていくのをあきらめる。

高齢者は、聞こえないのは音が小さいからだと音量を上げて対応しようとする。しかし脳の処理速度は変わらないから、やはり聞き取れない。彼らが会話を理解するためには、話す側が話す速度を落とし、情報量を絞る必要がある。

同じことがテレビ番組にも言える。
現役世代が作る番組は情報量が多く、テンポが早い。
多くの高齢者は自宅でずっとテレビを見ているが、大半はその番組内容を理解できないままテレビを「眺めて」いる。
ストーリーを覚えながら観ることも苦手だ。したがって1分以内に完結する相撲やシンプルな歌番組、ストーリーが容易に予想できる時代劇を好んで見るようになる。

往診先でそんな彼らを見ながら、高齢者が楽しめる目線で作られた高齢者専用チャンネルがあれば良いのに、と思う。
彼らは若者よりずっと長時間、テレビを見ている。家族は相手にしてくれないと、テレビがお友達になっている。
彼らは脳の衰えを感じながらも、楽しみたいし色んなことを知りたい。
彼らの知的好奇心をくすぐるような内容を、彼らがついていけるスピードで展開すれば、彼らもテレビをもっと楽しめるのでは。
それは若者にとってはまどろっこしい番組になるかもしれない。でも喜ぶ高齢者はたくさんいるはず。
そんなことを考えながら往診している。

鳥の耳は、飛ぶよう進化する過程で耳たぶを失った。
目の後ろの小さな穴が彼らの耳だ。頭蓋骨全体で音の振動をとらえ、360度からの音を感じとることができるというからすごい。
手賀沼でみかけたコブハクチョウの目の後ろにあるくぼみを見つけ、あそこで聞いているのかとまじまじ見つめていた。(コブハクチョウから露骨に嫌な顔をされた)

それにしても手賀沼の白鳥さん、人慣れしすぎ。