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あなたの主体性を害する危険性があります、という警告文をSNSに付け加えるべき

たとえばタバコのパッケージには以下のような文章を大きく表記しなくてはいけない、という規定がある(Wikipediaより)

たばこの煙は、あなただけでなく、周りの人が肺がん、心筋梗塞など虚血性心疾患、脳卒中になる危険性も高めます。

あなたや周囲の健康を害する可能性があります、という表記なくして煙草を売ってはいけない――果たしてこの文面を模様以上のなにかだと思って毎日タバコの箱を開けている人がどれだけいるだろうか、という疑問はさておき――こう書いてあることはある程度の抑制というか、社会的にはタバコの害をしっかりと理解している、という方針を示すことにはなっている。

私はSNSにも同様の警告文を示すべきだと思う。


たとえば、こういったことは誰にも思い当たる節があるのではないだろうか。

・なにか目的があってスマホを開いたはずなのに、気づいたらインスタグラムを眺めている。
・マップを開こうと思って行先を調べた後、その倍以上の時間をtwitterに費やしている。
・興味のあるリール動画(ショート動画)を再生したはずが、気づくと本来興味もないような動画を連続で1時間以上再生している。
・スマホのブラウザアプリでまじめに調べ物をしていたはずなのに、とつぜん画面に滑り込んできた漫画の広告をタップしてしまい、数巻分読んでしまっていた。

最近になって、Twitter(Xという言い方は嫌いだ。なにかある種のネガティブなイメージを必死になって隠蔽しようとしているように感じる)は「おすすめ」の欄を先行して見せ、本人がフォローしているアカウントのみを見せる「フォロー」の欄を見づらくしている。

また、これは今ではインターネットのどこにいても同じことだが、私たちが検索した結果から私たちの興味・関心を探り当て、こちらから情報にアクセスする前に向こうから広告やネット記事を押しつけてくるようになっている。

SNSを持つ企業にとって、今やなによりも大切なものは利用者のアテンション(注意・関心)だ。できるかぎりひとつの場に縛り付け、動画を再生させ、広告をクリックさせ、多くの富を得る。

アテンション・エコノミー(注意経済)と呼ばれるこの経済活動のなかで、私たちは何も金銭を費やすことなく娯楽を享受できる一方、明らかに大きな犠牲を支払っている。

それは主体性である。

たとえば、私たちはSNSにアクセスすることで、本当に幸せになれたのだろうか。SNSを通して知った情報――おすすめのゲーム、ファッション、グルメ、スイーツ、もっと言ってしまえばLGBTQなどマイノリティへの「寛大な受容の心」は、私たちが望んで育んだものだろうか?

もちろん、最後のマイノリティに関する関心は非常に重要なものであり、今後も人々が政府・企業の動向については目を向け続けるべきものである。――しかし、その根幹にある問題意識は、実は「みんながそう思っているから、自分もそう思わなくてはいけない」という同調の意識ではなかったか?

みんなと同じ流行を追う感覚で、マイノリティの人々への「寛大な受容の心」を持ってしまってはいないか? そこに人権というもの自体への意識や省察はあるのか? マイノリティの人々が声を上げるための権利と、私たちが聴くという義務は、本当にいま、イコールの関係で結ばれているのか?

自分たちの領域を侵犯されない限りは「寛大な受容の心」を示し続けるという傲慢な生き物ではないのか?

話が逸れるのでここまでにするが、私が言いたいのはこういうことだ。

私たちは気付かないうち、「自分で選び取る」という人生や思想の根幹にあるべき「主体性そのもの」をテンション・エコノミーに支払い続けてきたのではないか。

なぜ英語の勉強=TOEICなのか? なぜスマートフォンを持つならiphoneでなければいけないのか? なぜ自民党が嫌いなのか? なぜ中国政府を憎むのか? なぜ台湾に行かなくてはいけない気がしているのか? なぜちいかわを愛好するのか? なぜマイノリティに理解を示しているのか? なぜあなたは毎日特に理由もないのにTwitterを開いては閉じ、また開いては自分の発言に対して他者からの評価がついているかどうかに一日の大半の時間を費やし、スクロールし続けているのか?

答えはあなたの注意・関心がそのまま企業の利益になるからだ。

そのための努力を企業は惜しまない。
あなたの時間をできるかぎり奪い、できる限り視線をSNSに固定し、できる限り購買意欲や思想を都合の良い方向へと持って行こうとする。スマートフォンのロックを解除してアプリを開けば、なにか良いことが待っているに違いない――そう思わせるプロの集団なのだ。

私はSNSを含むインターネットそのものの利用を批判したいわけではない。それらには有益な面もあるし、実際人と人をつなげてくれる。悪いことばかりではないのだ。少なくともスマートフォンでの利用をやめれば、いつでもどこでも開いて利用してしまうことによる悪影響は減らすことができる。

というとき、私は酒やタバコについての文言を思いだすのだ。

・あなたや周囲の人の健康を損なう恐れがあります。

この文言を付与するまでに、どれだけの時間と健康が損なわれたのだろうか。もちろん、悪いことばかりではない。扱い方を心得る人にとって、それは有益に働き、害は少ない。たとえば気分転換やストレス解消に、メンソールの1mgのタバコを月に一度だけ吸うことの害など一日2箱も消費するヘビースモーカーに比べたらかわいいものだ。

SNSにも同様の規定を敷くべきだ。
企業はとてつもなく偽善的なスマイルでこういっている。

「いつでもあなたに面白いものを提供します。もちろん無料です」

スマイルの裏にはこう書かれている。

「ユーザーの時間をできるだけ奪い、他のSNSに目を向けさせるな」

タバコを吸うことは男らしくて恰好いい、と映画スターを広告に起用することで繰り返しアピールし続けたタバコ企業とやっていることは同じだ。その裏には「依存性も中毒性もあるけれど、できるだけたくさん吸わせて依存させ、たくさん金を吸い上げるべし」という意図がある。「金」が「時間」に変わっただけで、SNS企業のやっていることはなにひとつかわらない。

私たちは健康と同じくらい重要な「主体性」を奪われ、もはや自分が本当に何をしたかったのかすらわからない状況に陥っている。

だから、すべてのSNSはロゴの傍にこう付記すべきだ。

「強い依存性によりあなたの時間を奪い、あなたがあなたらしく生きるための主体性を害する危険性があります」

そうして多くの人が、時間を無駄にまでしてSNSに没頭することの無意味さに気づき、企業が方針を改めてくれればよいと願う。

私たちは私たちの主体性を取り戻さなければいけない。



付記 マジョリティとマイノリティの境について

マイノリティの問題に関しては「知ること」から始めるのは素晴らしいことだと思う。ただその一方で、価値相対主義――「多様性」を重視するという社会はとてつもなく恐ろしいものだ。多様性という言葉には、多様性を破壊するものも含まれる。多様性を認めることは、もちろん重要なことだ……ただし、多様性は利己主義ととても仲が良いということを理解しておかなくてはいけない。

そして多様性を継続することは常に疲労を伴う、ということも。
多くの考え方、多くの生き方が存在しており、すべてが認められるべきだと唱えることはとても…素晴らしいとは言えない。残念ながら。なぜならそれは裏返せば、すべての生き方が間違っているともいえるからだ。つまり、答えなんてどこにもない、という虚無主義につながってしまうのだ。

だから、障がい者を殺害しても平気な顔をしていられるような人間が出てきてしまう。そこには人類全体が無条件で保持すべき倫理が欠けている。

みんなちがってみんないい、は共生の思想ではなく、個人主義の思想だ。そうではなく、みんながちがうのはなぜか? ちがいを扱うにはどうすればいいのか? ということを現実的な側面から考えなければいけない。

そうでないと、日ごろマイノリティへの関心を示しながらも、いざマイノリティの人々が怒りと共にグレーゾーンな声の上げ方をしたりすると「もっと落ち着いて話をしてほしい」などと言い始める。

「怒らずに、落ち着いて話してくれれば理解できるのに」というのは、怒りの閾値に達するまで無視し、存在しないものとして扱ってきた自身への省察に欠けている。「わかるように話してくれ」と言っている時点で、その人は相手よりも高位な立場から発言しているということを忘れてはいけない。

今の時代はマイノリティの人々を自分のこととして捉えているのか――自分もいつかそちらへ行くかもしれないということが、いや、いつか老いれば必ずそちらへ行くということが、理解できているのだろうか。本来マイノリティとマジョリティの境目などはなく、自由資本主義経済という加速し続ける社会のなかでは、誰でも振り落とされ、弱者になる可能性を持っているということを、本当に分かっているのだろうか?

ウーマン・リブ活動家の米津知子は「モナ・リザスプレー事件」の判決後に3200円を徴収された際、3200枚の1円玉で支払った。どれだけ拒まれても支払い、職員に数えさせたという。

「私たち一人一人の価値は等しく1円だ。障がいがあろうと、社会で疎外されようと、価値は等しく1円なのだ。その1円を、1枚ずつ丁寧に扱い、数えてほしい」

米津知子は暗にそう言いたかったのではないかと、行き過ぎた読みとり方だろうけれども、私は思ってしまう。特に、共生について考えるとき、このエピソードは私のなかでよく思い起こされる。

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