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さんずろ家

 大槌にいた一年はグルメな一年だった。それまであまり食への関心が強いほうではなかったが、大槌にいるのは一年と決まっていたから、東京では味わえないものを食べようと積極的だった。

 最初の邂逅はホヤ。東京では見たことすらなかったが、岩手ではほぼすべての居酒屋で出てくるといっても過言ではないメジャーな珍味(?)だ。なんでも足が早いから三陸で獲れたホヤは東京で食べられないのだとか。赴任してすぐ連れて行ってもらった居酒屋で食べた。ぷりぷりの触感と舌に残る独特の苦み。好き嫌いがわかれるというが、わたしは一口で惚れた。日本酒によく合う。幸運なのは、スーパーで売られる殻つきのホヤを見る前に刺身を食べたこと。刺身も初めて見たときはなんだこれとおもったが、その身を包んでいる殻がなんといってもグロテスクなのだ。ドラゴンボールに出てくるドドリアのようだという人がいたけど、色は違うがまさにそんな感じ。食べる前に見ていたらちょっと遠慮したかもれない。そういえば初めてホヤを食べたとき、食べてすぐ水を飲むと甘く感じるよといわれてやってみた。確かにただの水が甘く感じられたのだが、あれはなんだったのか。

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