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大槌町役場

 阿部次郎が役場に着いたとき、火は消し止められていましたが、まだ木のくすぶった匂いが辺りを覆っていました。炭になった木がぱちぱちと音を立てています。じきに消防と警察による実況見分が始まるはずですが、関係者は一度引き上げたのか、規制線の中には誰もいませんでした。

 役場庁舎は昨夜未明、火鉢に残っていた炭火が書類に燃えうつり、またたく間に炎上しました。好天続きの乾いた風にあおられて、火は隣の小学校と保育所にも燃え広がり、辺りをことごとく焼き尽くしてしまったのです。

 大槌町役場総務課総務広聴班に在籍する次郎の役目は、焼け焦げてしまった役場庁舎と実況見分の様子を写真に収め、記録に残すことでした。

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