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人をバカにする奴ってのは

おれのほうが、こいつよりも上だ。
それを示したい。こいつにも、わからせたい。
……そんなふうに思ったことはないだろうか。
ちなみにぼくは、よくあります。

たぶん、多かれ少なかれ、誰の中にもあると思うよ。そういう気持ちは。
そういう気持ちを持っていること自体は、普通のことなんじゃないか。まあ仕方ないよ。
ただ、そんなのを向けられるほうは、たまったもんじゃないよな。

こう考えてみよう。
100点満点のテストで5点をとったクラスメイトがいるとする。
あなたは、そのクラスメイトに「勝った! おれのほうが点数、いいぜ!」と言いたくなるだろうか?
あなたの点数によって変わってくるのじゃないだろうか。
もしあなたが10点かそこらだったら、「勝った!」と言い出すかもしれない。
でも60点くらいとっていたら、わざわざそんなこと言わないだろう(ただこの場合、50点をとった人に対して、「おれの勝ちだ!」とか言い出す可能性はあるが)。

人をバカにしたり、マウントをとろうというような奴っていうのは、自信がないんだよ。不安なんだよ。
だから、自分より下だと思える存在(もちろん、主観的にそう決めつけているだけ)を見つけて、安心したい。
相手にもそれを認めさせれば、なお可。
だからいちいち、「おれの勝ちだ!」「おれのほうが上だ!」と言ってくる。
不安であればあるほど、その傾向が強くなる。
だって、自分が優れていると思っているのなら、わざわざ人をバカにする必要などないのだ。
テストでいい点をとった人は、悪い点をとった人に、わざわざ勝利宣言しないでしょ。いちいち勝利宣言したがる人は、あまり点のよくない人なんだ。
自分の能力があまり高くないってことが、わかってる人なんだ。

例を出すのもつらいことだが、ぼくは女性にモテない。
ただ、女性と交際したことは皆無ではない。
そういうわけだから、「女性とつき合ったことがありません」という人が近くにいたら、ぼくはものすごい上から目線で、求められもしないアドバイスらしきことをして、なけなしの女性経験の自慢をして、悦に入るよ。
もう、目なんか残酷色にぎらっぎら光らせてね。ひどい悪人面になってるよ。
何も自分のことを、そんなに悪し様に言わなくても……と思われるかもしれないが、これ、露悪趣味とかではなくて、事実です。実際、こういう態度を何回か、とっております。
ぼくは、モテないっていうことに、強烈なコンプレックスがあるんだよ。こんなぼくでも、自分がダメじゃないと思いたい。手っ取り早いのは、自分より下がいると認識することだ。できれば自分より下の人から、「大山さん、すごいですねえ。さすが、交際経験のある人は違うなあ」と思われたい。
そんなぼくが、ぼくよりも恋愛経験に乏しい人を見つけたら、何がそんなにうれしいのかというほどの勝ち誇った顔で、貴族か大臣のつもりかのような偉そうな話し方で、その人にいろいろと言うだろう。
なんとも恥ずかしいことである。
だって、激レアなチャンスなんだから。ここでマウントをとっておかないと、ほかにとれる機会がほとんどないんだ。一生分のマウントをとっておかないといけない。心ゆくまで。
……恥ずかしいし、しかも、あさましいな。
とにかく、人をバカにしたり、マウントをとったりする奴の心理とは、そういうものだ。
ちょっと極端な例だったかもしれないけどな。

いや、たしかに、そんな奴ばかりじゃないとは、思うんだよ。
人をバカにするからって、コンプレックスまみれの奴ばかりだとは、限らない。
ほかに理由があるのかもしれない。
バカにされるほうの人が、何か原因を作っている場合もあるしな。
でも、いいじゃないか。
あなたをバカにする人の気持ちに寄り添ってあげるのもいいが。
優先すべきは、あなたの心が守られることだ。
だから、思っちゃっていい。
あなたをバカにしたり、何かとマウントをとってこようとする奴は、あなたに対してとても強いコンプレックスを持っている。実は、あなたを認めているのだ。もっと言うと、あなたが怖いのだ。
そう思ってしまおう。あなたの精神衛生は、少しはマシになるはずだ。

ぼくも、恋愛経験の関係でマウントをとる話をしたが、マウントをとられることもよくある。そりゃそうだな。モテないんだから。
実際のぼくを見れば、わかってしまうかもしれない。ぼくは容姿に恵まれず、背も低く、ファッションにも気を使わない。たぶん、どう見てもモテそうに思えない。しかも、今やいい年齢だしね。
世の中のモテない連中は、ぼくを見ると思うらしい。「こいつよりも自分がモテないなんて、そこまで惨めな思いをしたくない」と。
だからこいつら、絶対に自分が下だとは認めないし、ぼくに対して「大山よ、おまえはおれより下だ」と思わせようとする。
考えることは、同じだな。あきれるほどに。ぼくが言えることじゃないかもしれないけどさ。

実例を挙げよう。
ある人と恋愛経験の話をしたことがある。
ぼくは自分の数少ない経験を話した。
その人は「彼女さんの家に行ったりしたんですか?」と聞いてきた。
その彼女とは、お互いの家に行ったことがなかったので、正直に答えた。するとその人、にやりと笑って何回かうなずいていた。「ああ、なるほど。そういうことね」という心の声が聞こえてくるようだった。何だろうな、とは思ったのだが。
それからも少し恋愛の話を続けたのだが、途中で彼はこう発言したのだ。
「いいですか大山さん、女とつき合った経験のある身から言うとですねえ」
耳を疑った。
ぼくは女性とつき合った経験があると言ったではないか。
こいつ、話を聞いてやがらねえのかと。
そこでさっきの、彼の「なるほどね」のような笑みを思い出した。
こいつの基準では、家に行ったことがないと恋人じゃないのだ。
おそらく、これは彼が常々思っている基準というわけでもない。
ぼくが交際経験があるというのを否定したくて、この場での基準をでっち上げたのだろう。
何でもよかったのだ。「肉体関係は?」「ご両親に紹介は?」「同棲した?」とか何とか。今回は、たまたま家に行ったことがないというところで引っかかったので、それを利用して、「おまえは交際などしておらんのだ」と示したかったのだろう。
「いや、それ、つき合っているうちに入りませんよ」と直接言うのも角が立つから、暗に示すという程度にとどめたのだろうが。

高確率で、いや、ほぼ間違いないと思うが、この人もモテない。
この人自身、それがコンプレックスだ。
だから、あからさまにモテなさそうなぼくよりは、まだ少しでもモテると実感できていないと、自尊心を保てないのだろう。
なんて迷惑な自尊心だ……ぼくが言えることじゃないかもしれないが。
いやいや、ぼくだからこそ言えるんだよ。同じコンプレックスを持っている者として、その気持ちがよくわかるからだ。
モテないからこそ、自分よりモテない奴を見つけて、あるいは自分よりモテないことにして、安心感を得なければならないのだ。

モテる奴は、言うことがまた違うよ。
彼らの言うのは、こうだ。
「どうして彼女を作らないんだ?」とか。
「彼女の1人や2人くらい、いたことあるよね?」とか。
なんか、思い出すと悲しくなってくるが。
こういうの、言われたことがある人、けっこういるんじゃないか?
モテる彼らは、それほど苦労しなくても彼女を作ることができる。
(いや、モテる人だって頑張ってるんだよ……と言う人もいるだろうが、苦労しているかいないかの二択の話ではない。モテる人とぼくたちでは、苦労の度合いが比較にならないほど違うのだ)
だから、恋人くらいいてあたりまえという感覚に近い。モテないなんていう状態がわからないのだろう。
そんなわけで、恋人がいない人を見ると、作ろうとしていないのだと勝手に思ってしまう。それで、純粋に不思議に思うんだろうね。
……モテない男による、ただの憶測でございますよ。
ただ、言いたいのは、恋愛テストで100点取れるような人たちが、5点くらいのぼくらに対してマウントをとろうとか、まず思わないということだ。

もう一度言う。
あなたをバカにしたり、マウントをとろうというような奴は、弱虫だ。あなたのことが怖くてたまらないのだ。
そう思ってしまってよかろう。
そしてこいつら、自らの行為によって、
「おれは人をバカにしないと自尊心を保てない、ダメ人間だ! しかもおれは、自尊心を保つためなら、人の気持ちを踏みにじる嫌な奴なのさ! そんなおれは、おまえにコンプレックスを持っている! おまえが怖い!」
と、宣言しているようなものだ。しかもそれに気づいてない。
なんと滑稽な。
滑稽だから、そのままにしておくのも一興だ。

もちろんぼくたちも、人をバカにしたりマウントをとったりしたい誘惑に駆られるときがある。
でも、そうならないように気をつけよう。
自尊心を保ちたいなら、自分の愚かさをさらすようなまねをするよりも、自分を高める努力をするほうが、よほど建設的だ。

コンプレックスを持っていることは、何も悪いことじゃない。
弱いところがあるのは、何も間違ったことじゃない。
「強さっていうのは、自分の弱さと向き合えることだ」と、以前読んだ本に書いてあった。そのとおりだと思う。
だからさ、自分の弱さを認めよう。少なくとも、人を傷つけてまで自尊心を保とうとする人間にはならないようにしよう。
いいんだよ、それで。
……なあんて、まあ、自分に言い聞かせてるんだけどね。

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