Review-#026 『ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best』

The First and The Best


 『Heart Of Gold』以来となる音楽ジャンルでのレビュー(という名の雑談)となったわけだが、案の定konozamaを喰らった。えぇ、知っていましたともさ。
 4ヶ月ほど前に聖地・佐賀にて発表があり、「これは手に入れなくては、でも手に入れるにしてもどこで予約しようかなぁ」と情報を待って、んで法人別特典とかメーカー特典とかが出揃ったところで、「絵コンテデータ気になるし、いつものamazonでいくか」と決めたのが2ヶ月程前だったような。

 持っとらんかった結果、届いたのが3日遅れの土曜日。偶然にもリリィの命日でした。まぁ予約したのにまだ届いとらんという人もいるそうなので、やきもきしている時間が短いだけ有難いのかも分からないけれどさ…。『DEATH STRANDING』は発売日当日に来たというのに。あと日本郵便、あなた持ち出してからが長いよー。こちとらずぅっと待機してたのよ?

 でも待った甲斐があったというもの。今回は「うわそら」の方でも取り上げることを惜しまなくなってきた、アニメ『ゾンビランドサガ』のボーカルソング集である『ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best』を全曲聴いた感想を、アニメ本編や各メディアのインタビュー記事の内容を交えつつ思いのままに書いていく。
 スクロールバーを見て分かる通り、かなり長くなっている。いっぺんに読むのは大変だと思うので、目次を使ってちょいちょい読んでいただければ。

 フランシュシュの楽曲が評価されている要因は、クオリティの高いサウンドは勿論、前向きになれる熱く、優しく、時に激しさが込み上げる歌詞でもあり、そして楽曲とストーリーとの密接した「繋がり」でもある、と私は考えている。
 『The Best』を聴く時、私は本編のエピソードを思い浮かべずにはいられない。彼女たちの身に何が起きたのか。彼女たちが何を考え、何に悩み、何とぶつかり、何を以て乗り越えてきたのか。1年前にそれを観ていたからこそ、サウンドはより心を震わせるものになるし、歌詞の重みが一層増すように感じられるのである。

 つまり何が言いたいかというと、各楽曲を紹介するにあたって作品のネタバレをしないわけにもいかないよね、ということである。そもそも「フランシュシュ」とタイトルにある時点で相当なネタバレだと思うし。
 なので、ここからは「お前らもう本編観てるだろ」という前提のもとで進めていきますよ。そりゃあ単体で聴いてもイイ曲ばかりだし、楽曲から佐賀に入るというのもイイ切っ掛けになるとは考えているけど、折角なら本編を観た後の方がより感慨に浸れるよ、といちファンとしては思うのよ。

 とまぁ、前置きで1,000文字行ってしまったのでそろそろ始めます。
 過去に『ゾンサガ』関連で色々記事上げているけど、こちらと合わせて読んでみてもいいかもしれない。

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商品情報

ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best 
(エイベックス・ピクチャーズ・2019年11月27日発売)

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アーティスト名:フランシュシュ
定価:【1CD+1Blu-ray】 5,500円+税
   【ダウンロード通常音源】 2,444円
   【ダウンロードハイレゾ音源】 3,361円
(購入可能なサイト、配信サービスはこちらから確認してね)

<☟どんな感じの曲か、ちょこっと聴いてみる?>

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楽曲(とそれにまつわるエピソード)紹介

ハズレ無しのゾンビィソングが生きる喜びを教えてくれる


 『ゾンサガ』の劇中で使われた歌(ゾンビィソング)は、これまでは円盤の特典CDでしか聴くことが出来なかったのだが、『The Best』ではそれらも全て収録されている。

 なぁんだ、そしたら円盤を購入した旨味が掠め取られちゃってるじゃないか、って考える人もいるとは思う。だが、そっくりそのまま収録されているのではなく、ミックスが異なっていることに気付く(個人的にはオケの音がよりクッキリしている…ような気がする)。それぞれの違いを楽しんでみるのもいいだろう。

※〇:既存曲 ☆:新曲 ■:CD初収録曲

【Track 1】ようこそ佐賀へ 

 衝撃的な展開で始まった第一話を象徴する楽曲。BABYMETALもびっくりのデスメタル。でもジャンル的にはヘヴィメタル。どっちにしろ普通のアイドルじゃあやらないであろう曲。唖然としつつも「あれ…この作品、もしかしてこれがやりたかっただけか?」とか思ったのだけれど、まさかここからどっぷりハマるとは想定していなかったよね。

 正真正銘、これがフランシュシュ(但し、この段階では正式なグループ名は決まっていなかった)のデビュー曲。メンバーの6/7(?)がまだ目覚めていなかったので、この状態でできるものがあるとすれば、デスボイス&(首が折れてるみたいな)ヘッドバンキング…ぐらいしか無いから、そりゃあデスメタルにもなりますわな。
 伝説の山田たえが唯一歌唱に参加している曲。歌っているといってもデスボイスなので、本アルバムにおいて作詞クレジットが唯一存在しない曲でもあるのだが。どの辺が「ようこそ佐賀へ」なのかは各自考えておくこと。

 ところで配信サイトのアーティスト表記が「グリーンフェイス」になっているけれど、この時はまだ「デス娘(仮)」じゃない? 今となってはもう仮が外れているから、この名義なのかもしれないが。

【Track 2】徒花ネクロマンシー (Album ver.) 

 シングルとして発売された時はさくらの口上が収録されていなかった(その後発売されたサウンドトラックに収録されたバージョンには口上が入っているが、TVサイズになっている)ため、フルバージョンかつ口上入りは『The Best』が初。なおアニメ本編ではSEも付いているが、いずれのCDにも収録されていない。

 第二話から使用されているが、「死んでも夢を叶えたい」から始まる口上といい、アニメ本編のOP映像といい、古き良き特撮をバリバリ意識しているであろうこの曲を聴くと(映像を観ると)、ただでさえ第一話を観て混沌としていた『ゾンサガ』の世界が、(初見では)ますます分からなくなること必至である。

 生のブラスセクションが厚い(熱い)サウンドと、古風でやや難解ながらも生命の力強さ溢れる歌詞が本曲の印象を強くさせている。今でこそ「覚悟を 宿命に突きつけて」は純子(を演じる河瀬茉希女史の興奮する)イケボだとみんな知っているけれど、流れた当初は「覚醒したたえが歌ってるんじゃね?」とか言われていたこともあったっけ。
 サウンドはブリッジ(サビに入る直前のパート)がお気に入り。完全打ち込みだとここまでの迫力を出すのは難しいだろうなぁ(工夫次第でリアルに寄せられるとはいえ)。

 スタッフの「あれやりたいこれやりたい」をギュギュっと詰めたOPも、歌詞やストーリーと照らし合わせながら観てみると、そのうち単なる『超新星フラッシュマン』のパロディか何かに留まらない作品内容そのものを暗示している映像のように観えてくる。

【Track 3】DEAD OR RAP!!! 

 デスメタルの次はヒップホップ。ファーストライブの刺激によってさくら以外のメンバーも目覚め、ようやく第二話からアイドルらしい活動を始められるか…と思いきや、アクシデントにより即興ラップ、とこれまた普通のアイドルらしからぬジャンルでその場を切り抜けることになる。

 さくらとサキの口喧嘩から自然な形でラップに移る所はお見事。ステージ袖から「華麗なボイパ」でサポートする幸太郎と、おそらくラップ文化が存在しない時代の人であるゆうぎりの三味線がラップバトルを盛り上げている。ちなみに実際のビートボックスを担当しているDaichi氏は福岡県出身。惜しい、あとちょっと。

 生前の記憶がある故か、当初ゾンビランドサガプロジェクトに懐疑的で反発していたサキ(と愛と純子)と、生前の記憶を失くしながらも、プロジェクトに希望を見出しアイドル活動に打ち込もうとするさくら。ふたりの対比とそこから生まれる応酬が歌詞に強く表れている(上に観客のじいちゃんばあちゃんに飛び火している)し、物語の終盤を思い起こしながらこの曲を聴くと、また違った印象を受けるのである。

 でもよくまぁ、「前に進むしかねえ! じゃなきゃ生きる屍(しかばね)!」とか、韻を踏みつつメッセージ性の強いリリックを即興で思いつけるなぁ…。記憶はなくとも、秀才たるさくらはその辺りも強かったのかもしれない。

【Track 4】目覚めRETURNER 

 このままイロモノ路線で突っ走る…わけではなく、至ってストレートなアイドル活動もやりますよ、と提示したのが第三話。ようやくグループ名が「フランシュシュ」に決まったものの、素人の方が多い彼女たちのスタートは決して芳しいものでは無かった。

 唐津駅前のゲリラライブは音程が外れている、ダンスのフォーメーションが崩れる、歌詞が飛ぶ…と苦々しさが残る結果(この時のバージョンは通称「下手めRETURNER」と言われているとか)となった。しかしながらこれが切っ掛けでメンバー全体の結束は少しずつ強くなっていき、続く第四話では練習(とサガンシップZ)を重ねた結果パフォーマンスの完成度が大きく向上している。
 作中ではバージョン違い(後述)を含めて3回使用されており、フランシュシュの成長を描いた曲として記憶に残る作品である。

 『ようこそ佐賀へ』や『DEAD OR RAP!!!』よりかはアイドルらしいエレクトロな曲調・歌詞だが、コロコロと変わるプログレな展開であり挑戦的。以降の曲もそうだが1つの曲に様々な顔を見せる、これがフランシュシュの楽曲の特徴ではないかと私は考えている。
 ちなみに、映像化されていないのだが間奏部分ではたえが「ある動き」をしていて、面白かわいい姿になっているんだとか。監督が「どこかで活かしたい」と言っているので、今後に期待しよう(暗黒微笑)。

【Track 5】ドライブイン鳥(フランシュシュver.) 

 現在のところ唯一のカバーソング。佐賀フィーチャー回の第五話にて、「超有名企業」として登場した「ドライブイン鳥」のテーマ曲。原曲との大きな違いは「3はサラダで、4(よい)健康」の部分のハモり。愛の提案で加えられたものだが、高音と低音のバランスが良いフランシュシュにとってはグッドなアイデアである。

 これが原曲。フランシュシュも劇中で踊っているよ。

 でもいきなり毛色の違う、しかも30秒もない曲が挟まれていたら「え、何か唐突に広告始まった!?」ってビックリしちゃうかも。いやまぁ、円盤第2巻の特典CDはいきなりこの曲から始まったんだけれどさ。
 ここでたえがニワトリの鳴き声をラーニング。その後たえはコッコさんの人として認知されるようになり(?)、観客に自身の持ちネタとして演技するというサービス精神を見せるようになる。いやぁ、三石さんモノマネ上手い。

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【Track 6】アツクナレ 

 疾走感のあるギターサウンドが特徴のナンバーは、第七話の佐賀ロックフェスティバルにて、雷雨の中披露された。過去の、それも死因となったトラウマを引き摺り、うまく歌えない愛。純子がフォローを入れると、テンポが速くなり、曲調もガラッと変わる。ストーリーと曲とのリンクを強く感じる。

 「命令形タイトルシリーズ」(例によって勝手に命名)の1曲目。サビの部分に注目するとLiSAの『Rising Hope』に通じるものがある。歌詞の内容は、時代の違いから対立したこともあったが「望んだ自分」に向かって突き進もうとする純子と愛を想起させる…
 って思うじゃん。どうしよう。サイコミのコミカライズ版の所為で「湯豆腐のテーマ」に書き換えられそうになってるんですけど。

 純子と愛メインの曲なのだが、どちらかというと純子の印象が強いかなと思う(愛は『目覚めRETURNER』のイメージ)。「耐えきれないの」や「世界に歌声響かせ」での低音ボイスが耳に残る。
 あと「雷あっちいけキック」(「耐えきれないの」の後の足を高く蹴るダンスの部分)。名前が可愛いというのもあるけれど、こう名付けられているぐらい純子と愛の関係性の変化を表現しているように見えて、気に入っているシーンでもある。

 純子のフォローによって、歌いきることができた愛。曲の終わりと共に、フランシュシュに雷が襲い掛かるが…。

【Track 7】目覚めRETURNER (Electric Returner) 

 多分、第七話を視聴した大半の人が「その発想は無かった」と思ったであろう『目覚めRETURNER』のバージョン違い…なんだけれど、実はこちらが先に作られていたんだとか。元々佐賀ロックで流すことを前提としていたのだが、制作スタッフが気に入ったため通常バージョンの方が先に使われることになったそうだ。

 雷が落ちても、「私たち、ゾンビィですから」全然大丈夫。ちょっと光って、ケロケロボイスになって、おまけにレーザービームを放てるようになったぐらいで、彼女たちの身に何の異常もない。いやいやいや。
 アクシデントすら常人離れの演出に変えられるのは、ゾンビィであるフランシュシュの強み。成長を体現する『目覚めRETURNER』に新たな要素が入ったことで、彼女たち自身のものとは別の、ゾンビィとしての「可能性」をも提示した楽曲として、より深みをもたらしたといえよう。

 そりゃあデスおじじゃなくても「よか…」ってなるわな。この後にさくらが感極まって泣き出してしまうのだけれど、ここの描写が以降の展開について考えさせるつくりになってるのよね。

【Track 8】To My Dearest 

 またギャグ回かと思いきや実はかなりハートウォーミングなお話でした、という第八話で歌われたバラードナンバーは、リリィがパピーに向けて自身の想いを込めた歌詞が特徴的である。一言一句が家族に対する愛に溢れており、切なさも滲み出ている。
 詰め込みに詰め込んで、語るように歌う歌詞。ミュージカル調になっているが、この曲は何のアーティストがモチーフになっているかというと、佐賀まさし…じゃなくて、さだまさお…でもない、さだまさし氏である。

 やっぱりね、この曲を語るにあたって映像は外せないと思うの。だってサビ後半の部分で思い出ボムかましてくるんだもの。そこの部分の歌詞が「いつの日も 会いたいよ 会いたいよ そんな気持ち 消えないけれど 大丈夫」だもの。パピーがライブに駆けつけてきてくれても、一度死んだ以上二度とリリィとして逢うことが叶わないんだもの。反則にも程があるだろうよ、うるうるのうるだよ。

 あと、サビでリリィがさくらと目が合った時にはにかむシーンがあるのね。アレはリリィのモーションアクターを担当する高梨 莉(たかなし りり)女史が、実際にダンスの撮影中にとった仕草を採用したものだそうで。アニメでは間奏で観客に向かってメッセージを伝えた後のタイミングだから、また違った風に解釈できるかも。そうそう、莉さんは来年の3月に上演される舞台版『ゾンサガ』にもリリィ役で出演しますよ。

 当然のようにビームを出してんの、シュール極まりない。

【Track 9】佐賀事変 

 先々月の絨毯爆撃にて投下されたゆうぎりセンター曲。『To My Dearest』まで(『光へ』を除いて)使用された順に収録されていることを考えると、もしかしてこの曲が壱期の中で使う機会があったとするならば、ここだったのかねぇ? なんて勘ぐってみる。うんにゃ、構想を練り始めたのは最終回前なので、そういうことではないというのは分かっているけれど。

 最初「タイトル的にも東京事変(椎名林檎)がモチーフになってるのかな?」って思ったのだけれど、どうやら日本のアーティストではないそうなのね。うぅむ、海外? 海外となると広いしなぁ、何だろうなぁ…と色々調べたところ、



 あぁ、なるほど。これか。曲調も演出もコレが元ネタだったのかぁ。

 浜崎あゆみ女史やEXILEなど、様々なアーティストに楽曲を提供している原一博氏が参加したこの曲は、生のホーンセクションによるお洒落なビッグバンド・ジャズ。予想が当たった人はどのぐらいいるのかな。ゆうぎり演じる衣川里佳女史の声量と色気を兼ね備えたボーカルに思わず息を呑む。

 テーマは「女の情念」。「赤い 鮮血で結ばれたい」「止めて 心中願望 洗いたい」といった、(病的と言えるほどに)誰かに恋い焦がれているような歌詞は、フランシュシュの楽曲として見ると異質。「佐賀」事変なので2つの地名「三瀬峠」「俵坂」が登場するが、それぞれ福岡、長崎と佐賀との県境に位置する。そこを越えて「地獄だって会いに来て」って、ゆうぎり姐さん…あなた生前に一体何があったんですか。

 「本編の中にヒントがある」とのことだが…やっぱり、あそこかなぁ? 最初はてっきり、第八話にてゆうぎり姐さんが三味線で弾き語りしているカットがあったから(曲調的に)それかなと思ったのだけれど、そうじゃなかったようで(でも三味線ソロのある楽曲は聴いてみたい)。

 『The Best』には本曲のMVがBlu-rayに収録されている。先述した通りAmazon特典として絵コンテのデータディスクも付いてきたので、それも観ながら鑑賞。ネオン演出など曲にピッタリと合うお洒落な方向で固めてはいるけれど、ギャグも忘れていない。姐さんといえば…もう言わずとも分かっているだろう。強く生きろさくら

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【Track 10】特攻DANCE ~DAWN OF THE BAD~ 

 第九話にて、ヤンキー漫画宛らの展開(と演出)で過去の清算を行ったサキは、本当の伝説とは何かを知らしめるためにセンターとしてこの曲を披露する。「そうきたか!」と驚かされることの多いゾンビィソングだが、これに関しては例外。予想のど真ん中を突き抜けて爆発炎上する1曲。

 どう聴いてもワンナイトなカーニバルです、本当にありがとうございました。しかし、誰が言ったか「既死團」たるフランシュシュが歌う人間の生き様は、「まんまじゃねーか、これネタ曲やろ」という聴き始めの印象を次第に塗り替えていくことだろう。

 いかにも特攻隊長のサキらしいヤンキーチックな、そして熱くロックな曲調と歌詞。「学もねえ 明日もねえ 華にだきゃなれるぜ」が最高にカッコいい。間奏の語りにも注目。あとサキを演じる田野アサミ女史の歌唱、「ら行」のクセが凄い。すっごい舌を巻いてる。二重の意味で。

 「かっ飛べ 飛べ 飛べ!」の部分で実際にジャンプするなど、難しいことを考えずに全身を使ってノレることもあって、ライブで大きく盛り上がる曲の筆頭となっている。本編でもぴょんぴょんしている愛とゆうぎりがとてもキュートなんだよな…。

【Track 11】ヨミガエレ 

 実は『目覚めRETURNER』よりも先に挿入されていた曲。鯱の門ふれあいコンサートでは本来この曲を披露するはずだったのだが、歌いだしの「絶対」の「ぜ」を歌ったところでアクシデントが発生したので、急遽『DEAD OR RAP!!!』に切り替わったのである。第六話のミニライブのシーンではアウトロの部分が流れていたが、肝心の歌の部分はなかなか聴くことができない状況だった。

 第十二話。再び軽トラに撥ねられたことで、フランシュシュとしての自身の記憶と引き換えに生前の記憶を取り戻したさくらは、努力しても報われないばかりの連続だった「持っとらん」体質のために、熱心だったはずのアイドルへの道を自ら閉ざそうとしてしまう。それでも仲間からの叱咤激励によりアルピノライブに挑むことを決めるものの、自分のみならず周りを不幸に巻き込んでしまうかもしれない…その不安を拭い切れないまま、幕が開く。

 聴いていて「これはラスボス曲だな」と思う。拍子が途中で変化し、(アニメ本編では流れていないのだが)1番と違った曲調で始まる2番といった歌唱難易度の高い曲展開、間奏での荒れ狂うギター、「一度死んだような 顔できないんだ」や「首の皮一枚 繋いだ」といったゾンビィである彼女たちを暗示しながらも、さくらを鼓舞するかのようなメッセージ性の強い歌詞。

 打ち克つべき相手は呪いともいえる不幸体質か、はたまたそんな運命に辟易し心を失くしかけていたさくら自身か。結局、アンラッキーが発動しホールが倒壊するという特大級のアクシデントが発生するが、会場は混乱を極めるどころか、寧ろ一体感に包まれようとしていた。メンバーと観客からお膳立てされたことで、さくらは遂に吹っ切れる。「ヨミガエレ」からの、音楽再生再開。いや~最高っすわ。伸びやかな高音が気持ちいい。

 楽曲こそ初期に制作されたものだが、実際に使われたのは終盤。楽曲面でも、ストーリーにおいても、溜めに溜め込んできたからこそ名曲名シーンとして強く胸に刻まれることになったのだろう。「諦めなければ終わりは 始まりへ変わる」といった所を含めて、まさに壱期における「フランシュシュの集大成」を感じさせる作品である。

【Track 12】FLAGをはためかせろ! 

 ピンチから一発逆転のチャンスに変え、さくらはフランシュシュとしての記憶をも取り戻した。アンコールで歌われたこの曲はここまでの楽曲と比較すると、制作した浅利進吾氏(『ヨミガエレ』でも作曲及び編曲を担当している)が実在するアイドルグループに多数楽曲を手掛けていることもあってか、割と色んな所で聴けそうなポップなアイドル曲に仕上がっている。

 コンセプトは「フランシュシュの明るい持ち曲の中のひとつ」なのだとか。まだ我々が聴けていないだけで、フランシュシュにはもっと多くの曲が存在しているであろう、その中で「最後に歌う」のであれば、こういった曲なのだろう、と。

 可愛らしい振付に、「フレ! フレ! 振れー! Let's go!」といった(タイトルの"FLAG"と掛けた)人生の応援歌。オーソドックスな曲調、展開ではあるが、それだけに身に沁みる。QUEENの『We Will Rock You』のリズムで歌われる落ちサビが良い。個人的にはフランシュシュの楽曲の中でも特に好み。
 何気にサキの「どこからともなく来てる」の「る」の前に少し含まれている巻き舌というか小っちゃい「ン」が印象的。頭に残る。

【Track 13】輝いて 

 日清カレーメシとのコラボによって生まれた、もう一つの新曲。先に替え歌の方が公開&CD化されたことによって、うっかりヘビロテしちゃったファンの皆様のカレー臭が取れない事態発生。前々から恐れられていた(?)ことが現実に。

 かくいう私も未だにジャスティスが抜け切れていない。いや、いい曲なんだ。『グレイテスト・ショーマン』の"This Is Me"を想起させるサウンドに、「逃げ出しても どう足掻いても 這い回っても 世界の真ん中 だから 不完全体で 進め」といった歌詞がグッと来るんだ。…来るんだけれど液体感が消えてくれないの! 超簡単にカレーメシくんが邪魔してくるの!
 もしこれからフランシュシュの楽曲を聴こうと思っている方は、先にこちらの通常ver.を聴いてからカレーメシver.を聴くことを強くおすすめします。一度聴き入ったら抜け出せなくなるぞ~。

 そりゃあ衣川さんも「少し物足りなくなった」って言うわけだよ。カレーメシの作り方講座&プロパガンダ的歌詞のインパクトがデカいもん。歌詞が完全に別物というわけではなく、一部共通している所もあるんだけれど、まさか「喰え」の部分が一致しているとは思わないじゃん。

 歌詞から受ける印象は『徒花ネクロマンシー』に近い。作詞を担当した古屋真氏自身も、『ヨミガエレ』や『徒花ネクロマンシー』よりも原始的な生存讃歌の歌詞にするよう意識したと語っている。いや、勿論オリジナル版の話よ?

【Track 14】光へ 

 浄化ED。元々合唱曲にするわけではなかったのだが、打ち合わせでなんとなく卒業の話が出たことでそっちに向かっていった結果、このような楽曲になったとのこと。
 『徒花ネクロマンシー』に先駆けて第一話から使われた本曲、本編の破天荒さからは考えられない暖かなピアノのメロディに、リアルタイムで追っていた時は「これ最後みんな成仏して終わるとかじゃないよね? 大丈夫だよね??」って勝手に不安に思っていたりして。

 フランシュシュがいいなぁと思う理由は、やはり歌声のバランスが取れているという所にあるのね。高低もそうだし、声色もそう。厚く広く、纏まりながらそれでいて打ち消し合わない。だからこういったハモるパートの多い曲は(音数が少ないこともあって)フランシュシュの魅力を実感しやすい。

 『輝いて』から繋がる、旅立ちの歌。この曲順が何を意味するか…まぁ深読みのしすぎかもしれないけれど、インタビューでは音楽プロデューサーの佐藤宏次氏が「いつかの未来」のフランシュシュをイメージした曲としている。
 結局どこの学校も今年の卒業式で使わなかったのかなぁ。頑張れ宣伝担当。『ファイナルファンタジーIV』の『愛のテーマ』だって音楽の教科書に採用されたんだ、ゲーム音楽でもアニメ音楽でも良いものは良いからチャンスはきっとあるぞ。

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【Track 15】FANTASTIC LOVERS 

 Track14までは"Franchouchou SIDE"だったが、ここからは"Other SIDE"ということで、フランシュシュとは別のアーティストによる楽曲が続く。
 『FANTASTIC LOVERS』は、生前愛が鋼鉄アイドル「アイアンフリル」の不動のセンターとして活躍していた頃の作品で、「モーニング娘。」などのハロプロを意識した曲調と歌詞になっている。「世界がうらやむような大恋愛」とかまさにそれ。

 第一話冒頭でさくらのパソコンにチラッと表示されていた映像は2007年の武道館ライブ。本編を追っていくと、『ゾンサガ』という物語を作った「すべての始まり」としての曲のようにも映る。
 でもなぁ。推しが武道館行った後に自分も推しも死ぬ、ってのはなぁ…。運命は時に残酷。「電流が走ったの」という歌詞も、愛の運命を知る者からすると全く別の意味に聴こえてくる。

 余談だが、グッズの2019年(4月はじまり)カレンダーには、『FANTASTIC LOVERS』のシングルCDを手にしているさくらと、それを気恥ずかしそうにしている愛の姿が。フランシュシュとは別個の自分の作品となるとやはり照れが入るものなのだろうか。
 さくらも記憶が完全に戻って、自分の推しが傍にいる幸せを噛みしめていることだろう。その辺のエピソードも気になるところ。

【Track 16】ゼリーフィッシュ 

 こちらは現アイアンフリルによる楽曲。メンバーはすっかりと入れ替わっていて、2018年現在のセンターはそらまること徳井青空女史が演じる詩織(しおり)。しおりぃぃー!!!
 『FANTASTIC LOVERS』がハロプロを意識したとするならば、『ゼリーフィッシュ』はAKS系を意識しているといえる。曲のタッチとしては2018年、というわけではなく2010年前後の音楽のよう(2010年の『ポニーテールとシュシュ』が近いか)に聴こえるのだけれど、この2曲でやろうとしていることは「時代の対比」。

 佐藤氏曰く、「アイアンフリルのプロデューサー陣は今も昔も変わっていない(作詞を同じ唐沢美帆女史が担当し、コーラスを歌っているプロの方も一緒)」とのこと。じっくりと聴き比べて、時代の象徴の変化を感じたい。

 この曲は第七話の佐賀ロックで披露されている。旧メンバーである愛含めて、フランシュシュは確かにアイアンフリルの歌を聴き、ダンスを目に焼き付けていた。悲劇を乗り越え、変遷を遂げながらも、今もなおミリオンヒットを飛ばし続けている国民的アイドルの実力。
 今はまだ佐賀のご当地アイドルという立ち位置だとしても、やがては正面を切って、越えなくてはならない瞬間が訪れるのかもしれない。弐期はどうなるんだろうね。

【Track 17】サガ・アーケードラップ 

 女の子の声を聴き続けていたところにいきなり野郎共の声が入ってきて驚いた方もいるかもしれないが、夜中に商店街をうろついていると野生のモブラッパーたちが現れるのが佐賀の日常らしい。

 巻き戻って第二話、ゾンビランドプロジェクトを受け入れることができない愛と純子、彼女たちを引き留めようとするさくらの3人をナンパしようとラップしながら近づくサガ・アーケードラッパーズ。モブラッパーの癖してよく動くんだ、ここのシーン。ちなみにラッパーを担当した武内駿輔氏、木村昴氏、宮城一貴氏は全員ラップに精通しており、本曲も彼らの声によるもの。チキチキヴォーがツボに入る。

 警察官Aもラップしながら彼らを止めるが、ゾンビィ肌の彼女を視ちゃったことで、(第一話に引き続きまたもや)発砲する騒ぎに発展。恐怖体験以外の何ものでもないのだが、これが『DEAD OR RAP!!!』の壮大な前フリになるとは…。

【Track 18】To My Dearest ~Lily's practice singing~ 

 『To My Dearest』はフランシュシュの楽曲だが、本曲は星川リリィ名義なのでこちらのサイドに収録されている。第八話で『TMD』を制作、練習しているフランシュシュのシーンで流れているピアノソロに、リリィの歌声を乗せたもの。
 "Lily's practice singing"とあるように、リリィが『TMD』を練習しているシーンが思い浮かぶが、どんな気持ちで臨んでいたのか。本曲を聴いた後にTrack8まで戻して想像してみるのも良いと思う。

 作曲・編曲を担当した山下洋介氏が、本曲をピアノで弾いている所を監督の要望で資料用として撮ったものが、幸太郎のシーンで使われている…らしい。にしても本当多彩なやっちゃ。本来ならバランスを取って歌詞を調整したりするところを、リリィの想いを全面的に聞き入れてああいったミュージカル調の楽曲に仕上げるとは。

【Track 19】宣誓! ALIVEセンセーション 

 ボーナストラックとしてトリを飾るのは、パイロットフィルムで使用された幻のさくらソロ曲。パイロットフィルムは円盤第3巻の特典として収録されているので気になる人はチェックしてみよう。フランシュシュのダンスに注目すると、おや、これはどこかで観たことがあるような…と気付けるはず。

 アイアンフリルも歌っていそうなポップな曲調。しかも5分超と実は本アルバム中1番長い曲でもある。休日の朝方のアニメとかで流れていそうな曲だな~、と思ったらそりゃそうだ、作詞が藤林聖子女史で作曲・編曲が鳴瀬シュウヘイ氏。特撮で見るコンビだったわ。
 藤林聖子女史といえば「予言者(物語の展開を示唆したかのような歌詞作りという意味で)」なんて呼ばれ方もされているのだが…本曲を制作した時点でどのぐらいストーリーや設定が固まっていたんだろうか。ある意味気になる。

 パイロットフィルムで使用された冒頭部分(何度聴いても"ALIVE"というより"I LOVE"に聴こえるのは意図的?)もそうだが、全体的にさくら自身について歌っている歌詞ということで、キャラクターソングとしての傾向も強い。
 この曲をさくら単独じゃなくて、フランシュシュとして歌う…ことは難しいのかな。せっかく本アルバムに収録されたことだし、来年の幕張ライブ以降で生歌が聴けそうな気もするけれど。パート分けすると楽しそう。

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総括

色とりどり、選り取り見取りな魂のメッセージに心惹かれる

フランシュシュ The Best

 まぁ、そうなるよな。アニメ本編の方でもよっかよっかやっていたので、評価はAMAZING以外に考えられません。
 欠点を挙げるとするなら値段。amazonだと限定版を選ばなければもう少しお安く購入できるのだけれど、税込みで6,050円はお高め。19曲69分の大盛りアルバムとはいえ強気の価格設定。

 私は別に構わんけども、ゾンビィソングを楽しむことさえできればOKというのであればダウンロードを考慮に入れてもいいかも。ハイレゾという選択肢もあるし。そういえばDENONとのコラボヘッドホンはもう発送されつつあるんだっけ? セットで楽しむというのもアリだね。

 それにしても全19曲。アルバムというのはボリュームがあればいいってものではない。曲数や緩急を調整することで完成度を高めているのだ。対してフランシュシュはこれまでの楽曲を全部1枚に突っ込んできた。下手すれば途中でダレてもおかしくない所だが、『The Best』の場合は飽きを感じさせることなく、最初から最後までずぅっと聴き続けていられる。

 何故、そう思えるのか。それは前置きで述べた「楽曲とストーリーとの密接した『繋がり』」にある。楽曲の大半で生命力を歌っていること、幅広い音楽ジャンルを取り入れていること…それも理由の一つではあるが、それぞれの曲はアニメ本編にて描かれたドラマ無くして存在できはしない。『The Best』を通じて、かくも結び付いているものかと改めて実感する。

 これが、「できることなら本編を先に観た方がより感慨に浸れる」と勧めた所以である。楽曲紹介の方で遠慮せずにばかすか本編の映像面の話をしちゃったけれど、聴いている内にしっかり見返したくなるし、「ここにはどんな意図が隠れているんだろう?」とじっくり考えたくなる。
 でもそれってかなり重要なことだと思うのね。「音楽そのものはいいけれど、作品トータルとしては微妙」なんて、ちょっと複雑な気持ちになるし。本当に『ゾンサガ』に出逢えてよかったと思うよ。

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 本作のタイトルには不思議な印象を受ける。実質フランシュシュの1stアルバムなのに『The Best』の名を冠したことには、どのような意味が込められているのか。"The First and The Best", 直訳すれば「原点にして頂点」である。だが、それは決して今後の展開にネガティブなイメージを植え付けるものではない。

 ここで第十話の幸太郎の言葉を思い出してみる。彼はこう言った、「アルピノの綴りを変えればアルプスになる…つまり山、自分という山を登れ」と。綴りを変えればそりゃそうだろという野暮なツッコミは置いといて、フランシュシュの生き様はアルプス、すなわち山脈に譬えられる。
 山脈ということはいくつもの山々が伸びている。ある山の頂上に達しても、そこからまた別の山が彼女たちの目の前に聳えている。『ゾンビランドサガ リベンジ』の制作が決定したが、そこからどのような展開を見せるのか、それは誰にも分からない。

 今の段階で言えることがあるとするならば、フランシュシュの戦いはこれからで、一度きりで終わらなかった…それだけは確実であり、この上なく有難いことのように思える。いつか『The Best Ⅱ』といった具合に、新たなる山の頂からの眺めを見せてくれることだろう。その日を待ち続けながら、今は『The Best』を聴いていたい。
 カレーメシver.と一緒に

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余談


 メーカー特典ということで、キャラクターデザイン・総作画監督を務めた深川可純女史によるミニ色紙が全7種から1枚ランダムに付属。全部揃えた方はアルバムをウエハースか何かと間違って買ってない? いやまぁでも、その情熱はただただ凄いとしか言いようがない。私だってコンプリートできるもんならしてみたいもの。

 特に狙いは決めずに開封。私は箱推しですからね~、誰が来ても嬉しいですよ。みんな可愛らしいし。毎度毎度服もオシャレでよかだし。

 さて、私のところには…




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(あとは血で汚れて読めない_)


《了》

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