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「東京への憧れ」とは何か。
東京の街に憧れたことがない。
私にとって東京は「憧れ」ではなく、「生活」だからだ。
東京に「憧れ」る感情が羨ましい。
雨宮まみさんの「東京を生きる」や、山内マリコさんの「あの子は貴族」で描かれる世界が羨ましかった。東京に焦がれ、東京に染まり、それでも完全には東京の中に入り込めない感覚。それを私は知らない。
こんなことを言うと、東京に焦がれて上京してきた人に怒られてしまうかもしれないが、皆がそれぞれ抱える「東京への思い」が、尊くてたまらなく見えるのだ。
私にとっての東京の街はあまりにもからっぽだ。自分の中に湧き立つものが、何もない。ただそこにあるものでしかない東京。東京のこともわからないし、憧れについてもわからない。
地方から出てきた人が語る東京には、きちんと輪郭があるように見える。東京で生まれ育った人間にとっての東京は、輪郭のはっきりしない、もっとぼんやりしたものなのではないかと思う。
「東京への憧れ」とは何なのだろう。
このことについて言葉にするのは難しい。なぜなら、どうしたって「上からものを言っている」と捉えられかねないからだ。
本来、人間の間に上も下もない。……はずなのだが、置かれている環境や持っているもので、本人の意図しないところで勝手に上下の評価がつけられる(ことがある)。
東京で生まれ育った私が、「東京に憧れる感情」を無邪気に知りたがることは、時として暴力に感じる人がいるのではないか。地方出身であることを負い目に感じている人が、どう思うだろうか。
「東京/地方」問題は、「(取るつもりなど全くないのに)マウントを取っている」と思われるのが怖くて、私が口をつぐんできたテーマの一つだ。もったいないと思う。人を上か下かで分けるくだらないジャッジが、知ることを阻んでいる。誰かを妬んだり、誰かを見下したりする感情は、知らないものを知る機会を逸することに繋がる。私は、誰が上で誰が下かなどはどうでもいい。この世に知らない感情があることのほうが嫌なのだ。
◆◆◆
「東京ステーションホテル」 改札、廊下、景観
「東京ステーションホテル」へ行ってきた。
ドラマ『ソロ活女子のススメ4』の第11話で取り上げさせていただいたご縁だ。
建物、部屋、装飾、空気、そのすべてが想像を超えたものだった。
一言で言えば、「ああ、これが、東京だ……」と思った。
東京のことをよくわかっていないのに、なぜこう思ったのだろう。書き進めながら考えていきたい。
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そもそも、東京駅を象徴するこの建物がホテルだったことを、恥ずかしながら知らなかった。
東京駅の南口改札から上を見上げると、ホテルの廊下や部屋が見える。
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建物に入ると、ホワイトチョコレートのような壁のかわいらしくも重厚なフロントが迎えてくれる。ちなみに、この板チョコ風の壁はホテル全体に使われており、もちろん茶色いミルクチョコレートのような壁もある。110年前に建てられ、空襲で上部が焼け、2006年〜2012年に6年かけて修復された歴史あるホテルでありながらも、どこか親しみやすさを感じるのは、この“板チョコ壁”のおかげだとにらんでいる。
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東京ステーションホテルの廊下は長い。
駅舎と同じ形をしているため、駅のプラットホームの分だけの長さがある。建物内を移動するために端から端まで延々と歩かなければならないこともあるのは少し面倒ではあるが、これは「ゆったりと時間を使うためのホテル」とも言える。普段の私のように朝寝坊して、忘れ物をして、ワタワタと廊下を走るーーそういう時間はここには流れていないのだ。
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廊下の長さはすべて合わせると335メートル。東京タワー(333メートル)より長いらしい。
長い廊下を飽きずに歩けるように、至る所に昔の東京駅にまつわる写真や絵画が飾られている。
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廊下の途中には窓があり、ここから東京駅南口を見下ろせるようになっている。
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上を見上げると、干支、クレマチス、兜、鷲、剣、鳳凰などがモチーフになっている装飾が施されている。一見、テーマがバラバラに思えるが、どれも日本を意識して作られているらしい。
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ちなみに、兜のデザインは豊臣秀吉の兜だそうだ。建築家の辰野金吾氏が秀吉を好きだったからだという。つまり、もし私が東京ステーションホテルをデザインしていたら、ホテル中が雲丹のオブジェだらけになっていたということだ。危ないところだった。(参考:朝井麻由美の「ウニ日記」)
「東京ステーションホテル」 お部屋
話を戻そう。
横に長いため、部屋によって見え方が異なるのがこのホテル。この3077号室のドームサイドの部屋は、東京駅を真下に見ることができる部屋である。
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向かい側の部屋からは、東京駅の外の景色(茶色い建物が面している景色)が見える。逆側に位置するこの部屋は、駅の改札側に窓があるのだ。外からの日は当たらないが、夜中にはシャッターが閉じて誰も入れない改札口の空間を拝めるのは、ここでしかできない体験なのだ。
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部屋が狭いため、東京ステーションホテルの客室の中では比較的リーズナブルだそう(それでもお高いけど)。
狭いとはいえ、ドーム状になっているがゆえに天井が高く、狭くは感じない。
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鏡にメモ帳、シャンプー類も凝っていて美しい。
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「東京ステーションホテル」 バー「カメリア」
部屋を出て、バー「カメリア」へ向かう。
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ちなみにバーにある時計は、わざと5分進めてあるらしい。「電車に乗り遅れないように」と東京駅のホテルならではの遊び心だ。
「カメリア」の近くの廊下には、昔の東京ステーションホテルのドームレリーフが飾られている。空襲で焼けてしまった天井の部分の飾りのうち、パーツだけ残っていたものがアート作品として蘇ったのだ。
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もはや、ホテルに泊まっているというよりも、美術館に泊まっている感覚に近いかもしれない。
AEDも景観を損なわないデザインになっていた。かわいい。
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「東京ステーションホテル」 レストラン「ブラン ルージュ」
そしてレストラン「ブラン ルージュ」へ。
ここでは電車が目の前で走る中での食事が楽しめる。
目の前にある日常(電車)すらをも、そのまま景観にしてしまう演出には恐れ入る。このホテルは、最初から最後まで、「東京の街」及び「東京駅」であることからブレていない。その積み重ねが、「横を走る電車」をうるさくて邪魔なものではなく「景観」として昇華させているのだ。
ちなみに、近くで電車が走っていても、音はほぼ聞こえてこない。建物内がうるさくてくつろげないなんてことはないのでご安心を。
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「東京ステーションホテル」 朝食「アトリウム」
さらにこちらは朝食ビュッフェの会場「アトリウム」だ。
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東京駅の建物のちょうど真ん中、てっぺんがとんがっているところがここに当たる。エレベーターを降りて「アトリウム」に向かうまでの道は、屋根裏なのだとか。実際に天井がとんがっていて、建物のどこにいるかを実感しやすいのが面白い。
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「アトリウム」での朝食ビュッフェ体験は、それはそれは感動するものだった。詳しくはこちらのブログにて(後日更新)。
◆◆◆
東京の街、とは
つらつらと書き進める中で、ふと思い出したのが昔書いたこの記事。
みうら:東京で生まれ育った人って、むしろボーっとしているよね。泉(麻人)さんなんかもそうだけど。僕がいた田舎では、近所の人のことを詮索したり、誰かと比較したりするのが当たり前だったんですよ。だけど、東京の人はそういう生き方をしてきていなかった。田舎から出てきた人は、もっと業界人ぶってギラギラしていた気がします。そういう鎧が外せるまで、時間がかかるんですよ。
――鎧というのは、ナメられないように、という?
みうら:そうです。バカにされたくないからって、構えてる。東京が向いてなかった、って地元に帰っていくのは、鎧が外せなかった人なんです。
東京の人は優劣とか、年功序列とか、上下でものを考えていないんじゃないかな。少なくとも、当時、田舎から東京に緊張しながら出てきた僕にはそう見えました。カネにならないことを上下も打算もなく、「これって変だよね」と面白がって言っちゃえるんです。こんなこと、田舎じゃあり得なかった。
ああ、そうか、今わかった。
「東京ステーションホテル」には「鎧」がないから、「ああ、これが、東京だ……」と思ったんだ。
東京駅をそのまま使い、ともすればホテルとしてはデメリットにもなりかねない駅の隣接をも、景観のひとつに組み込んでしまう姿。
空襲で焼け落ちたパーツをそのままアート作品にする工夫。
長い駅のホームをそのまま客室の廊下にし、長さを「煩わしさ」ではなく「個性」として扱う大胆さ。
そこにあるものを、そのまま受け入れるのが「東京」なんだ。
東京の街は、地方から来た人や、海外から来た人の数のほうが多いから、人が集まって作られたのが「東京」、と聞いたことがある。きっと彼らが、東京の街の輪郭を作っている。
最初からそこにいた私は、輪郭をなぞったことはなくて、何もその手に捉えられていないのは当たり前だ。
私にとっての東京の街はあまりにもからっぽだ。自分の中に湧き立つものが、何もない。
それを、からっぽと取るか、軽やかと取るか、「東京の街」からそう問われているような気がする。
◆おまけ
朝食ビュッフェを楽しむ秘密の裏技
一泊 約115万円のインペリアルスイートのお部屋
このホテル、朝食ビュッフェを楽しむ際の裏技がありまして、ホテル側も表に出していないため、こっそりお教えします(ホテルからご許可をいただいて掲載しております)。表に完全に公開せず、知る人ぞ知ることだそうなので、本当に知りたい人のみ、以下の有料ゾーンへどうぞ。(※反響が大きくなりすぎたら消すかもしれませんので、知りたい方はお早めに…)
また、一泊115万円のとんでもない部屋を見せていただいたので、こちらもお裾分け。すごかった……。
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