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2023年の「1984」

ジョージ・オーウェルの近未来小説「1984」を基にしたコミックは、私の知っている限り国内で4種類出版されている。その中で、昨年、出版されたいそっぷ社版の評判がすこぶるよいので、amazonで購入した。

実は、私が大学の卒業論文としてテーマにしたのが、「オーウェル『動物農場』の寓意性について」である。高校生の時に、井上ひさしの小説にノックアウトされ、風刺小説の魅力に惹かれた当然の帰結である。オーウェルのエッセイ集や実体験を基にした「カタロニア讃歌」「パリ・ロンドン放浪記」、そして「1984」も候補に登ったが、私の英語力が伴わないので、短編で、平易な「動物農場」に決めたのだ。

「1984」は訳本で読んでも長く、言い回しが難解である。卒論を書く都合、訳本をぱらぱらとは見たが、じっくりと読んだことはなかった。今回、いそっぷ社版を入手して、ホントにたまげることが多かった。

「1984」は題名のゆえか、西暦1984年にちょっとしたブームとなり、テレビ番組や雑誌に紹介された。小説中の、絶えずカメラで監視され、モニター上の「ビッグ・ブラザー」からプロパガンダを受けている世界が、監視社会の始まった日本と対比さて、紹介されていた。高速道路に速度取り締まりのオービスが続々と設置された時期でもあり、「監視社会」というキーワードを伴って「1984」がマスコミに登場したのだ。

しかし、今回読み返してみて、戦慄が走った。主人公ウィンストンはオセアニア国の真理省記録局の官僚で、都合の悪くなった公文書を改竄して「正しい歴史」として保存する役目を担っていることを思い出した。これって、安倍晋三元総理のモリカケ公文書改竄事件だし、高市早苗氏の放送法関連行政文書に対する「怪文書」問題だし、松野官房長官の「関東大震災で朝鮮人虐殺があったとの資料は国会にない」発言ではないか? 小説の世界だけと思っていた政府機関による文書改竄という信じられないことが、実際に、この日本で行われていたのか…。そして、「1984」では、勝ち負けのはっきりとしない、ゲームのような国家間のだらだらと続く戦争が描かれているのだ。これって、ロシアvs NATO? 驚くことに、他国への敵愾心を煽る「ヘイトタイム」(主に「2分間ヘイト」「憎悪週間」)という言葉も登場。おまけに、敵国への憎悪を増長されるかのように、定期的にロンドン市内に落とされる撃ち主不明のロケット弾って、もう北朝鮮からの飛翔体ですよ!

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