Grow Yourself フィンランド教育視察
初めて北欧に行ってきました。フィンランドです。2024年1月のGrow Yourselfという教育視察ツアー。このツアーを主催しているのは、未来教育デザインの平井聡一郎さん、コーディネートはエコ・コンシャス・ジャパンの戸沼如恵さんです。
期間は、2024年1月5日~14日まで、メンバは主催者入れて16人、教員、教材や学校建築など教育に関わる人たちです。私は春から教育に関わる仕事をするため準備中で、丁度良いタイミング!と思い申し込みました。記録として残しておきたくて書いていきます。
フィンランドについて
フィンランドと言えば、サンタクロース、サウナ、ムーミン、など連想しますよね。人口は551万人と少なく、森林や湖など自然がいっぱい。そして!2023年世界幸福度ランキング6年連続第一位(日本は47位)(※この投稿後、2024年の発表ででもフィンランド1位、7年連続)。フィンランドでは、プレスクールから大学院まで子どもの教育に関わる費用は全て無料、教育先進国のひとつです。
視察の前にマイナス30度のイソシュオテで、トナカイそりなど寒くて楽しいアクティビティに参加しました。
一緒に行った齋藤浩司さん作成の動画です。
極寒の中ですっかり意気投合したメンバは教育視察のため、翌日オウルへ向かいました。
参考として、フィンランドの教育についてまとめた動画(英語)です。
①Kaakkurin koulu(小中一貫の総合学校)
オウル市内、8歳~16歳までが通うカークリ総合学校が最初でした。学校の説明を受けるのに通された場所、職員室のカフェのような雰囲気にまず驚きました。先生たちはコーヒータイム大切にしています。
クラスは多くても20名程度。ミラ先生より5~6年生の合同クラスを複数の先生が担当するチームティーチングのお話がありました。合同29人のうち3分の1が支援必要な生徒、3分の1が特別支援必要な生徒を2人の先生と1人のアシスタント、計3人で担当しています。特別支援のみのクラスというのはありません。チームティーチングの良いところは、自分のアイディアが1番ではなくお互いをリスペクトできること、生徒の前でも先生同士で本音のコミュニケーションをしてリラックスできること、一緒に「評価」をできることとのこと。
ミラ先生とは給食をご一緒して、お話できました。生徒数800名、学校に来ない選択をしている生徒はほとんどいないそうです。ちなみに「フィンランドの教育はなぜ世界一なのか」(岩竹美加子著 新潮社)によると、フィンランドでは学習する義務はあるが、学校へ行く義務は無くて、学校を強制しておらず、ホームスクールという選択もあるそうです。
4年生のクラスで、チームでのプロジェクト学習に参加させてもらいました。教室にあるどんな材料を使ってもよいから、丁度10秒カウントでビー玉が落ちるしくみを作るというお題。私も入れてもらったチームは生徒3人。ここで驚いたのは全く他のチームの様子を見てないのです。自分たちで試行錯誤して、テーブルの下にノートを挟んだり、トライ&エラーで楽しそうに何回もやってました。
校長先生が以前いた小学校では、生徒たちの作品を販売していました。とても素敵なアクセサリです。
学校は「On the edge of the box」つまり、中だけじゃなくて、学校という箱のフチに座って外を観ようということ、社会とつながることを大切にしています。
これも齋藤浩司さんが紹介下さってます。
②Laanila Upper Secondary School(普通高校)
オウルの普通高校、ラーニラ高校へ行きました。
フィンランドでは、約半分が普通高校、約半分が職業学校へ行きます。高校は単位制で時間割は生徒が自分で作るとのこと。ホームルームは無くて、生徒たちは自分が選択した授業の教室へ行きます。なんだか大学みたいです。
グループに分かれて教室を見学しました。授業はPCで受けていました。試験もPCで受けるそうです。休み時間に、先生がダンスのYouTubeを流して、みんなで体を動かす場面もありました。
私たちのグループを案内してくれたアリーナさんは、単位を4年かけて取得することにしたそうです。そんな選択もあるんだ!と驚きました。入学は難しくないけれど、卒業試験は1科目6時間かかるものもあって超ハードとのこと。アリーナさんももう一人の学生も親に自分の進路についてこうしなさいと言われたことはなくて、自分をリスペクトしてくれているそうです。これは後で紹介する職業学校の生徒も同じことを言っていました。
子どもの学びたいこと、自分で選択する進路を尊重しているのですね。
フィンランドでは、運動会、学習発表会など小中学校での行事や部活動はありません。でも自立の節目である高校卒業前に伝統的な舞踏会があり、それが終わると卒業試験に向けて勉強するとのこと。ラーニラ高校では職員会議や教員の採用に生徒会が参加! 教員の採用にまで生徒が関わるとは驚きました。
③Koskela Primary School(オウル大学教員養成付属小学校)教員養成プログラム受講
オウル大学教員養成プログラムの一部を受講することができました。
フィンランドで教員になるためには、3年間+2年間(修士)で5年かかります。小学校の教育実習は1年目に2週間、5年目は8週間もあり、母校ではなくこの付属小学校で行うそうです。
ここでは、「メンタリング」についての講義を受けました。
メンターとメンティと言えば、師弟関係のようなイメージを持ちますが、上下関係はありません。メンターは同僚としてメンティが自分の道を見出すのを手伝うイメージで、良いメンターがいると、メンティは自由に失敗して弱さを出していける。メンティが成長できるのは、難しい取り組みをしているときなのだそうです。フィッシュボールのワークも体験し、プログラム受講認定証を頂きました。
④オウル大学内 digiクラス
オウル大学は、外も中も、やはりいちいちデザインが素敵でした。
教員としてSTEAM教育で何を教えているかの講義を受けました。デジタル化で読解力が落ちているという課題もあるようです。
ここでは、チームに分かれて、「教育」をテーマにディスカッションしました。フィンランドでは、教育が国家プロジェクトになっていることを感じました。Wilma(ウィルマ)というシステムで、小学校から高校までの学習状況のデータが蓄積されているそうです。自分の学習を自己評価し、先生の評価と比較して分析・俯瞰できることはいいなと思いました。
⑤職業学校 OMNIA
ヘルシンキからバスで行くエスポ―にあるOMNIA(オムニア)は、驚きの連続でした。フィンランドでは約半分の生徒が中学を卒業してから、職業学校へ行きます。とりあえず高校は行っておいた方が、、といった発想ではなく、主体的に学び、自主性を育むしくみになっています。普通高校へ行っていたけれど、職業学校へ編入、またはその逆もあり。大人になってから学び直しで職業学校へ行く場合も全く珍しくありません。
オムニアの場合、ソーシャルヘルスケア、ビジネス、レストラン/ケータリング、技術(ICT、大工、庭師など)を学べます。約3万人の学生がいて、42資格を取得できるカリキュラムが用意されています。まるで学び放題ランドのフィンランド!!当然学んで終わりではなく、学んだスキルで働き、きちんと「納税」することが求められています。
日本の会社でインターンを経験した生徒のエイミーさんが質問に答えてくれました。彼女はグラフィックデザインやメディアに関する勉強をしているとのこと。インターン先や就職先は自分で探して、自分で決めるそうです。ラーニラの高校生と同じで、親が進路に口出しすることはないとのこと。教育費は全て無償なので、経済的な要因で進学先に制限はありません。進学してからも柔軟に行き来できるとはいえ、中学生のときに、普通高校へ行くか、職業学校へ行くかを自分で決めなくてはならないので焦るそうです。先生や親は道を見つけて行くことの支援をしても、進路を決めるわけではありません。やはり子どもの自主性が問われると思いました。
広告デザインのクラス、オレンジのセーターを着た先生は、30年広告会社の社長をしていたそうですが、雇いたくなる人材を育てたいと思い、オムニアの先生になったそうです。そして、広告デザインの販売もここでやっているとのこと。実践で学べるよいしくみと思いました。
⑥kirkkokärven päiväkoti保育園
同じくエスポ―にある保育園。ここはIT企業の多い地域でフィンランド語を話す子どもが3割、その他アジア、アフリカ、ヨーロッパ、シリアなど多国籍の子どもです。なので、絵で会話できるツールがたくさんありました。
寒くても元気に外遊びをしていました。マイナス15度や20度でも外に出すそうです。子どもたちは一つの部屋に集められているというより、自分の好きな場所で遊んでいて、それを保育士さんが見守るイメージでした。部屋のつくりがそうなっています。3歳以上は保育士1人に対して園児7人まで。2歳は4人まで。子どもとの1対1での対話を重視しているそうです。
園長先生にみんなが色々な質問をしていったのですが、とても印象的なことがありました。コーディネータの戸沼さんが最後に
「園長先生が、個人的に一番大切にしていることは何ですか?」と聞くと、園長先生は、
「職員のウェルビーイングです。」
と答えたのです。
一同は深くうなずきました。一般的に「子どもの自主性」とか「安全」とか返ってきそうですが、即答でした。確かに近くにいる大人の幸せは子どもたちに伝わります。
園長先生はご自身の家族とのウェルビーイングも大切にしているというお話をされていました。穏やかで、とっても素敵な人でした。
これは、保育園にあったトートバックです。小さいときから多様な家族のことを学びます。「みんな違ってそれでいい」「それぞれ違うことは当たり前だよね」という前提を共有できることは、幸せにつながると思います。
⑦kirkkokärven nuori ユースセンター
保育園のすぐ近くに児童会館のような場所があります。ティーンエイジャーの居場所です。市の公共サービスであり、若者たちが集まってきていました。彼らの悩みを支援員が聞いてあげることもあり、それは個人情報として親にも言わないそうです。ビリヤード、運動できる場所、ソファ、スマホの充電ボックスがありました。
⑧アアルト大学内 幼児教育専門家Pirjo Salervoさん
オムニアで保育士養成の教員もしていたPirjoさん(ピリヨさん)のお話を聞いた。ピリヨさんは、アート教育に重点を置いた保育園を作ったり、保育環境を大切にしています。
まず、大前提としてフィンランドの教育は「子どもが真ん中」であること。これは揺るぎない。
子どもは生まれながらにして主体的な学び手であり、それを信頼しています。なので、イベントを大人は用意しない。テーマ遊びは子どもたちが、そのテーマを決めていく。それは、とても時間のかかることです。例えば「海の中」だったら、そのテーマでPBL(プロジェクトベースドラーニング)で作品やお話を作っていきます。環境は大人が用意するのではなく、子どもが決めます。例えば、お昼寝の場所もそう。ハンモックで寝たい子ども、ソファで寝たい子ども、自分の好きな場所をマジックテープで示します。
思わず、涙が出てしまった場面がありました。
子どもたちのアート作品がとっても素敵にできた。これを僕たち私たちが作ったと大統領が知ったら喜ぶと思う!だから大統領に見せたいと言ったそうなのです。なんと、先生は子どもたちのメッセージも添えて大統領に送りました。当時の大統領だったタルヤ ハロネンさんから、丁寧なお返事も届きました。子どもたちはどんなに喜んだことでしょう!!ヒルトゥネン久美子さんが通訳して下さった子どものメッセージをを聴きながら目頭が熱くなりました。「とってもとってもとってもとってもいいんだもん!これが。」って子どものことばそのまんまで、修正無しです。純粋で可愛すぎることばです。口先だけでなく、「子どもが真ん中」であることが、よくわかるエピソードでした。
最後に
とにかく教育において絶対に子どもが真ん中、主体である。そこが国として揺らいでいないのです。大人たちは子どもが自分で決めることを支援するけれど、子ども自身が決めた進路に口出ししない。違うと思ったら途中で学び直しができる。人と違うことも価値であり、比べたりもしない。みんな違ってそれでいい、みんな違ってそれが何か?という感覚がある。国としても公教育は投資であり、納税することの意味と価値を子どもたちは、実際に体感しながら大人になっていくのではないかと思いました。
戸沼さんに教えてもらって初めて知ったのですが、フィンランドでは、SISU(シス)というマインドがあります。印象として穏やかでシャイな感じのフィンランド人ですが、体を健康に整え、心は決してあきらめない強さを持っています。観光の日もあって、ヘルシンキの図書館Oodiなど、建築物も見て回ったのですが、いちいちデザインが素敵で、機能美を追求しています。安易に楽(ラク)なことではなく、丁寧な豊かさを追求しているように感じました。それが、ウェルビーイングにもつながっていくのかもしれません。
フィンランドが良くて、日本はダメということではなくて、それぞれのマインドや方法を知って、より良い教育を深めていけばいいなと思いました。
私の文章力の問題もありますが、この短い旅で見てきたこと、聞いてきたことがフィンランド教育の全てではないし、テキストや写真では伝わらないもどかしさがあります。
ツアーのタイトル「Grow Yourself」は自分で自分を成長させるという意味です。私にとって本当に大切な思い出であり、出会いであり、学びでした。感謝しています!!
今度は、夏のフィンランドへ行きたいと思っています。あと、実は死にかけましたが(笑)、またあのサウナにも入りたいです。
参考
・フィンランドとフィジー 2つの幸福の国
・番外編 フィンランドのサウナで死にかけた話(作成予定)