センター試験の朝
あの日からもうすぐ1年経つ。
センター試験の初日は、よく晴れた朝だった。靴を履こうとする娘を玄関で見送る。愛犬のさくらもしっぽを振ってちょこちょこやってきた。
その真っ黒な瞳に見上げられた娘は、しゃがんでさくらをなでながら、突然、涙ポロポロ、、、。
そうか、娘よ。受験勉強頑張ってきたものね。一度は先生に諦めようと言われた志望校。実力が届いていなかった。でも、頑としてどうしても受けたいと言う。全てはセンター試験にかかっている。初日は緊張していただろう。
さくらをなでながら涙を流す娘を思わすギュッと抱きしめた。「大丈夫、頑張ったから、絶対大丈夫。」と声をかけた。なんだか胸が熱くなって、実は不安なのは私で泣けてきた。前の年は不合格。もう後がなかった。
さらっと見送るつもりが、忘れられない朝になった。さくらのおかげだ。言葉が話せなくても家族の気持ちをわかっている。
お父さんはパピヨンで、お母さんはミニチュアダックス。12年前、会社の同僚宅で産まれたかわいい子犬たちの1匹を、幸運にも我が家に迎えることができた。 共働きの家なので、当時小学生の娘とさくらは、お留守番をしながら姉妹のように一緒に育ってきた。
長男と次男はすでに独立。本音を言うと末っ子の娘はいつまでも家にいてもいいと思っていた。
そして、3月
本人の努力はもちろん、勉強の仕方を教えてくれた素晴らしい先生との出会いもあり、なんと、憧れの志望校に合格!春には、希望に胸を膨らませて、この家を出ていった。嬉しそうだったなぁ。
振り返ると、子どもと暮らせる時間はあっという間だった。
今年の成人式、娘はこの家に帰って来た。式が終わって車で迎えに行くと中学のときからの友人たちも一緒だ。晴れ着の彼女らをプリクラの撮れるショッピングセンターまで送る。キャッキャと本当に楽しそう。キラキラしている。あぁ、感無量。
三連休が終わり、今朝、娘は遠くの1人暮らしのアパートへ帰って行った。少し寂しいな。今日も仕事が終わって家に帰ると、さくらがしっぽを振りながら体を揺らして出迎えてくれた。毎度の熱烈歓迎が可愛くて嬉しい。
毎年、センター試験が近づくと、玄関でギュッとしたあの日を思い出すに違いない。娘とさくらと私の、大切な思い出、よく晴れた冬の朝のこと。