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弾けなくてもギターを売るコツ~楽器屋のおねーちゃんキャリアで学んだ極意~
前回に続き今回は、新卒で入社した楽器屋での経験について記録してみようと思います。
大好きな音楽、行きつけだった楽器屋への初就職。スーツを着る必要もなく、好きな恰好、好きなヘアスタイルで働ける社会人生活がスタートしました。
最初の1か月は地元の店舗配属だったのですが、GW明けの本配属発表でまさかの関東エリアへの店舗勤務を命じられ、人生初めての一人暮らしを関東で開始いたしました。
が、祖父母、両親、妹、犬という大家族の中で育ってきた身としては、初めての一人暮らしは完全なる自由解放を手に入れ、すべてが自分の時間、すべてが自分の選択通りの日々にわくわくしかありませんでした。
電気コンロ一つしかない部屋で親から送られてきた網で魚を焼き部屋中モクモクしても、仕事で年末年始帰省できない中、元旦にガスが故障し、やかんでお湯をわかして洗髪や体を拭く年明けだったとしても、とにかく日々音楽に触れ、楽器の知識が増え、閉店後は好きな楽器でみんなでセッションしたり、スタジオ入ったり…忙しかったし薄給だったけど、すべてがとにかく自由で楽しい時間でした。
もとい。
楽器屋での仕事はというと、基本的にはノルマを課せられる売り子でした。
売り上げのメインはギターやアンプ、エフェクターといったライト楽器が中心。
学生時代バンドをやっていたと言っても、ドラム、ボーカル、キーボードメインでギターについては知識も技術もさっぱり。
バンドメンバーがいたはずなのに、gibsonとFenderの違いも、ピックアップって何?とか、エフェクターの好みも、アンプの音の違いも何もわかってないまま働き始めました。
研修でギターの基礎について学んだとき、メモ帳にピーナッツ型のギター(レスポール)、トーストみたいなギター(ストラト)って下手なイラストつきでメモして覚えてたくらい。
エフェクターの音の違いもワウしかわからんくらい。
同僚は自分よりも歴も実績も技術もあるバイトのお兄さんや先輩社員が大半。
大卒なだけでギターのことは何も知らない正社員のおねーちゃんなんて今思えばポンコツ以外の何もでもなかったのだけど、当時は若さと物珍しさのおかげか誰も見捨てず、店が暇なとき、閉店後の締めタイムに、ギターの種類、ピックアップやエフェクターの音の違い、弾き方など諸々ホントによく教えていただき、売上を競いあわねばならないときでも接客の支援もしていただいていました。That's OJT。
とはいえ、知識も技術もあるベテラン男性店員と、何も知らない自分とでは同じお客様を相手にしたのでは当然売れるわけもなく…。
そこでやってみたのが、
「自分が売りの対象にするターゲットカスタマーの特定」と、
「ターゲット客のインサイトをつかむ接客」
でした。
楽器に詳しい、ギターの弾ける店員から買いたそうなこだわりがありそうなお客様(30-40代小金持ちで少しギターが弾けると思っている男性客、バンドでギターを弾いていて元々音にもこだわりのある若者など)は、先輩に。
若い(当時は)、女、ファッション感度が高め、ある程度のジャンルの音楽の話はできた自分は、
・初めて楽器を買う中高生(&その親)
・女性客(男性店員狙いの方以外)
・高齢者
・楽器はあまり弾けないが、希少なギターを所有していたいおじさま(当時の40代くらいの男性)
に狙いを定めて接客。
コミュニケーションも、各楽器に関する深い詳細を説明するというよりは、
①来店目的、悩んでいること、音楽に関係ない話でもとにかく聴く(相手の心の懐に入る)
②希少なギター(音というよりボディやカラーの希少性があるものなど)の情報はあらかじめ所有店舗と共に早めにつかんでおく
③気に入った楽器があれば、まずは触れてもらう(ターゲット層は実際弾けない人が多いので、試奏というよりはまず持たせる)
※ターゲット客はベテラン店員には試奏を頼みづらい分、自分は有利
④鏡の前に立たせ、そのギターをもつ自分をイメージさせる(洋服を試着する感覚)
⑤音だしするためのネックチェックやチューニング、3つくらいコードは弾けるようにしてギター弾ける店員感を出す(この人で大丈夫そうという安心感を与える:実際はそんなに弾けないし、それ以上は一切弾かない)
⑥何某か褒める(演奏がイマイチでも、見た目、雰囲気なんでもよいところをとにかく褒める。それも無理なら楽器のチョイスセンス自体を褒める)
こんな戦略でやってみたところ、ギターの演奏スキルはさっぱりながら、いつの間にやら上客も増え、月間売上が店舗1位になることも。
・自分だけの土俵を自分で作る(主戦場で戦わない)
・上客を増やす(自分ファンを作る)
そのときは意識してやってたわけではないけど、無意識の差別化戦略で、ギターが弾けなくても「なんとかなる!」をここでも実感した1年3か月でした(長文ネタのわりにキャリア短っ)。
補足:元職場だったこの楽器屋さん、今ではノルマ販売などはやっていなさそうで、たまに店舗に行っても誰からも声かけられません。時代。
合掌