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植物を好きになって感じる幸せ

いつもより目が大きく開かれて、口角も上がっている。気分が高揚している。園芸屋さんの野外コーナーに並んだ種々の植物の間を歩いている時の私。うちに連れて帰りたい植物が次々と目に映り、立ち止まりながらもゆっくりと足を進める。どうしようかな、これはなんという名前のお花だろう、うちのテラスでもちゃんと育つかな、頭もフル回転している。よし、この子にしよう。園芸ポットをそっと掴み、カゴに入れる。ニンマリ笑顔になる。

「それ、可愛いわよね」
私が選んだ植物を見て、隣にいたマダムから、まるで以前からの友達のように話しかけられる。
「そうですよね。この色も可愛いくて、迷ったんですけどね」
私も躊躇することなく応える。植物好きの間では自然にコミュニケーションが広がる。園芸屋さんで植物を選んでいる時に感じる幸せ。

こんな姿を、以前の私が見たら驚くだろう。植物に全く興味のなかった私が。

気がついたら、植物を好きになっていた。庭もバルコニーもないフラットに住んでいた頃は、新しい植物が仲間入りしては、部屋の中に置き場所を探していた。植物を好きになったきっかけは、ブログを始めたことだったと思う。ブログを始めた当初は、毎日更新すると決めて、ネタを探していた。外で見つけたお花や緑が目に止まるようになり、写真に撮って名前を調べたりしているうちに、いつの間にか自分でお花を買って育てるようになっていたように思う。そうするうちに、お花や緑の観葉植物を見ているだけで心が癒されていることに気づいた。植物についてもっと知りたくなり、さらに買ってきた頃よりグングン成長していく姿を見ることの嬉しさ、楽しさを知った。どうしてそれまで、植物の良さがわからなかったのかと思うと、もったいないことをしていた気持ちになる。以前は、植物を頂くことがあってお部屋に置いておいても、すぐに枯れてしまい、植物苦手意識さえあった。それに飼い猫が植物の葉っぱをかじってしまうので、猫の届かないところを探したりと、植物がお部屋にある嬉しさを味わうことができなかった。そう、それはつまり、植物が幸せをもたらしてくれるということを知らなかったのだ。すぐに枯れてしまうのは、植物に愛情を注いで育てていなかったせいだし、猫も全ての植物を食べてしまうわけではない。今、こうして植物と向き合って、幸せを感じることができるようになったことは、とてもありがたいことだと思っている。

ウィーンからロンドンへ引っ越して、私の植物熱はいっそう高まった。小さな庭でガーデニング、憧れの生活へ一歩近づいた。ウィーンにいた頃には年に数回会ったり、メールのやり取りをしていた友達と、メールでお花の話をした。彼女は子供の頃から植物が好きで、家の中にも常に緑やお花が飾られている。しかし、彼女と知り合った当初の私は、植物に興味なし人間。彼女は私がそんなにお花が好きだったことを、こうしてウィーンとロンドンという離れた境遇になってから知ったことを残念がった。彼女の日常は子育てで忙しい。そんな中、癒しになるのは園芸屋さんに行って植物を連れてくることだそうだ。お互いに新しい子を連れてきたら、写真で報告しあい、そのことで新たな発見も生まれる。植物を通して広がるコミュニケーション。同じウィーンの町に住んでいた頃より、頻繁にメールやLINEのやりとりをしている。彼女とは以前から、雑貨屋さんでもやりたいね、という話を冗談半分、いや冗談9割で話していた。いつか一緒にお花と雑貨のお店をやりたいね、さらに「お花」が加わり、今でも私たちは一緒に夢を見ている。

先日、どうしても見たい日本の映画があって、ドラマや映画が見れる定額制動画配信サービスのトライアルに申し込んだ。目的の映画が見れれば満足のはずだったが、他にもいろいろと見たい映画が出てきて、結局トライアルでやめることができず、更新している。そこで、素敵な映画との出会いがあった。

「西の魔女が死んだ」

これは本で読みたいと思っていたが、Kindleが出ていないためまだ読めずにいたものだ。映画になっていることは知らなかった。私は本から先に入る方が好きだが、今回は映画が先。しかし、本当に観てよかったと思う。美しいガーデニングの世界観、自然との調和、人間の心の葛藤。今思い出してもため息が出るほど素敵で、どっぷりとハマってしまった。この映画に出会えて、感動できたのも、植物に興味をもった私がいたからだ。植物と共に生きること、季節を感じられ、植物の成長にも一喜一憂する。ご主人からの誕生日プレゼントの話には心から感動した。

2019年は仕事が忙しかった。そして、植物と向き合う時間も取れなかった。そして、2019年の年末に引っ越しをした。小川沿いのテラスのある家、仕事に追われるばかりでなく、緑や自然と共に歩む生活をスタートさせよう、そんな思いがあった。そして、その願いは叶った。コロナウィルス蔓延により、在宅勤務が始まった。初夏になり、ロックダウンの規制が緩和され、園芸店の再開が発表された。私の新しいテラスも色とりどりの植物で埋められていった。夏は在宅勤務の合間に、毎朝テラスに出て植物たちに挨拶をしながら水をあげる。成長の様子を見ることが嬉しくてたまらない。自分でタネを撒いて育てたハーブを料理に使うこともできた。

ガーデニングには終わりはない。あれもしたい、これもしたい、こうしなければいけなかった、と日々学ぶことがたくさんある。先週、秋に植えた球根から、水仙の花が咲いた。つい1週間前まで雪に覆われていたのに、ちゃんと可愛い黄色い花を咲かせている。春がきた! 隣ではムスカリの蕾も準備を始めている。

2021年はどんな生活になるのか、まだわからない。でも植物と向き合うことで得られる幸せは決して失いたくない、そう思っている。


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