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老後を考える

ドラマ「一橋桐子の犯罪日記」

主人公の桐子さんは76歳。すでに後期高齢者ですが、年金は国民年金の5万円だけなので、清掃のアルバイトをして、お友だちのトモさんとルームシェアして慎ましく暮らしてきました。でも、トモさんが先に亡くなってしまい、生活が立ち行かなくなったことを動機に、三食・寝床付きの刑務所暮らしになろうと「ムショ活」を始めます。

最初に思いついたのは万引き

桐子さんと同じく独身で、サラリーマンではないわたしには、身につまされるお話です。
先日、給付金詐欺グループの一人だった女性の犯罪動機が「老後に貯蓄が2000万円必要と知り、老後の貯えが欲しかった」という報道がありました。わたしは彼女の年の頃に老後を想像したことなんてありませんでしたが、人生100年社会となった現在、長い老後の資金問題はみんなを不安にさせています。現役時代に所得税と消費税と地方税で収入の30%プラス社会保険料を毎月納めるのですから、老後の不安なんて本来あってはならないはずなのですが。
桐子さんは、決して、怠けて生きてきた人ではありません。身寄りがないのは彼女のせいではありません。独身なのは恋愛にオクテなタイプだったからかと。「デートなんて、オイルショックの頃からしたことない」と恥じらうセリフがありました。お仕事がパートなのも、桐子さんの時代なんて男女雇用機会均等法さえなかったし、30過ぎた女性は正社員で採用しないという社会通念もはびこっていたと思います。桐子さんの清掃の腕前は一流です。パート先のパチンコ屋では、誰よりも丁寧に清掃業務をこなします。趣味は俳句で、ドラマの要所要所に桐子作の句が織り込まれます。
わたしが好きだったのは、パートを辞めパチンコ屋を去る際に詠んだ一句。
「さようなら パチンコ台も 秋めいて」

ムショ活するうちに仲間ができて

このドラマにおける桐子さんの目的は「刑務所に入ること」ですから、エピソードごとに偽札作り、強盗、結婚詐欺、誘拐、殺人と重罪犯罪を計画し、みごと犯罪者になって死ぬまで刑務所に入ろうとムショ活をがんばります。すると、不思議なことに、桐子さんのまわりには応援する人たちが集まってきます。親友トモを失った桐子さんに、いつしか新しい友だちの輪ができていました。そして、桐子さんは彼女らしい暮らしを送れる居場所を見つけるのです。もし桐子さんが孤独なままひきこもって、誰にも何の相談もしなければ、そうはならなかったでしょう。

桐子を演じたのは松坂慶子さん。「松坂慶子は美熟女路線を外れて大正解!」なんてネットニュースがありましたが、松坂慶子さんは今もダントツの美女中の美女ですよ・・・。外れてなんかいません。ただ、いつの頃からか、きれいなうえにコミカルな演技をされ、メリル・ストリープのような存在になられたような。今作でも、ダサ可愛いヘアスタイル、リアルにいそうなおばちゃんファッションで魅了されました。
桐子さんはぴったりな老後の居場所を見つけました。この先またどうなるかは分からないけど、桐子さんなら大丈夫。わたしもそうなれますように。

一橋桐子の犯罪日記
全5回/2022年10月8日~11月5日放送/NHK総合
オフィシャルサイト