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1889年を生きた人々⑤ お遍路

「主人公」はだぁれ?

『追い風ヨーソロ!』では、5人の役者が過去(1889年)と現在で2役を演じ分けています。そんな5人のうち、過去でも現在でも、お遍路をしている男を演じているのは、今作の監督も務めている大野仁志です。別の出演者が展開しているTwitterでの紹介が秀逸だったので、ここでも拝借。
「四国を旅する真面目なお遍路。名前は無い。ことはないとは思うが、ここでは、無い。お遍路。」
これが、過去シーンのほうの、この人物の設定です。

これでもう、この稿を締めくくってもいいような気さえするので、いきなり話を逸らします。この『追い風ヨーソロ!』の裏話を少々。何度も観ていただいたお客さまで、お気づきの方もおられるかもしれませんが、過去と現在、同じ出演者が演じる登場人物は、間違いなく別々の人物なのですが、衣裳のどこかに、ワンポイントで同じものを使っています。誰の何が共通しているのかは、是非とも大心劇場で見つけてみてください。昨今は自分の部屋の中にいても映像作品を繰り返し視聴できて、こうした小さなからくりも発見しやすくなっている時代。劇場に足を運んで繰り返し見なければいけないというのは、いささかハードルが高いかもしれませんが、そんな小さなものを探すために何度も何度も観ることで大きな、そして新たな発見がある。それが映画という媒体の持ち味のような気がします。いやぁ、映画って、ほんとうにいいもんですね。

少々の余談が升々になってしまいました。閑話休題。過去と現在で同じ出演者が小さな同じものを身に着けて登場する『追い風ヨーソロ!』ですが、このお遍路さんだけは別格。現在でかけているメガネを除いて、全部が一緒です。これでも別の人物です。だって1889年と2023年、もし撮影が行われた2022年だとしても、その間、100年を超える時間が横たわっています。いくらなんでも、そんな長い時間を生きている人なんて、いるはずないじゃないですか。え、ほんとうに?
年齢を重ねるごとに視力の衰えを覚える、という経験をされた方は少なくないでしょう。過去、1889年のお遍路さんはメガネをかけていません。一方で、メガネをかけた現在のお遍路さんは、メガネをかけているだけで、同じ姿で遍路道を歩き続けています。もちろん顔も同じ。ほんとうに別の人なんでしょうか。ここは四国。88の霊場があり、その27番目が安田町にある竹林山神峯寺なわけですが、1889年の唐浜に姿を見せた彼は、おそらく神峯寺へ参拝する前でしょう。この物語の過去が幕を閉じても、彼の人生は続き、神峯寺へ向かった筈です。

シーンによって眼鏡の着け忘れ・外し忘れがないか常にドキドキしていたという大野


時を経て、現在。同じ顔をした男が高知市上町に姿を見せます。今作でケータリングを提供してくださった「より道 千里」さんは安田町から安芸市に入ってすぐの国道沿いにありますが、このお遍路さんも寄り道が大好き。上町へ来たのも遍路道を逸れた寄り道でした。32番の八葉山禅師峰寺から33番の高福山雪蹊寺へ行く途中でしょうか。1889年に坂本鶴井が遭難した種崎を経ている可能性も高い。もしかすると、この人だけ時間がゆっくり流れていて、ちょっとだけ目は悪くなったけど、長い長い時間をかけて遍路道を歩いているのではないか……。そんな彼が大心劇場で映画を鑑賞すると、何が起きても不思議ではないじゃないですか。

映画作りもお遍路も、特に真夏は体力勝負


◆◆◆

『追い風ヨーソロ!』

【出演者】
大野仁志 我妻美緒 山川竜也 八洲承子 愛海鏡馬 豆電球

【上映日時】
2023年6月24日(土)~6月30日(金) 毎日13時~・19時~
各回、出演者による舞台挨拶・トークショーあり。

【木戸銭】
大人/1,500円 中学生・高校生/1,300円 小学生/1,000円

【会場】
大心劇場
〒781-6427 高知県安芸郡安田町内京坊992-1
http://wwwc.pikara.ne.jp/mamedenkyu/

【あらすじ】
1889年、安田村。唐浜では通りすがったお遍路の男に看取られながら、ひとりの女が息を引きとった。そして安田川のほとりでは安田村を離れていた兄弟が偶然の再会を果たしていた。その前に父の仇だと刀をかまえる女が現れた……。

時は流れて現在、安田町。かつての安田村にいた面々と同じ顔をした者たちが集ってくる。他人の空似か、あるいは前世か。交錯する過去との因縁。時を超えて、彼らを包むように風が吹く。

全編高知・安田ロケ、上映は大心劇場による地産地消映画がここに誕生!


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