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ロケ地も上映館も"大心劇場"

今回の『追い風ヨーソロ!』の上映会場は高知県安田町の映画館「大心劇場」
この大心劇場、今作の上映館であるというだけでなく、作品のメインとなる舞台のひとつでもあります。
 
安田川の清い流れの水音が心地良く響く山の中にその映画館は佇みます。
館主は小松秀吉(しゅうきち)さん。映画が好き、そしてそれ以上に映画を見に来てくれる人たちが大好きと言いますが、その想いは言葉だけでなく劇場からもビシビシと伝わってきます。
 
入ってすぐの受付には大心劇場を訪れた名優や監督、評論家たちのサインと写真が所狭しと飾られています。また、小松さんのお父様が経営されていた映画館で使われていたという今となっては貴重な四号映写機も展示されています。先ほども言ったように、ここは受付です。スクリーンどころかまだ客席に入ってもいないのに既に目と心が忙しい。
 
やっと客席へ足を踏み入れると、そこにはさらに息をのむ空間が広がっています。壁を埋め尽くすように貼られたポスターたち。平成以降の作品もありますが、目を惹くのはやはり昭和の映画黄金期の作品群。当時を知っている人たちは懐かしさで会話が弾み、知らない世代には逆に新鮮。

役者そっちのけでポスターを夢中で撮るカメラマン。これはしゃーない。



この頃のポスターは手書き風のタッチの絵柄も良いのですがキャッチコピーが実に秀逸。どれも読んでいてお腹いっぱいになってくる熱量があります。「長脇差片手に暴れまくる痛快道中!」とか声に出して読みたくなりませんか。
ところでこの「痛快」という言葉、戦前から戦中、戦後しばらくの広告では非常によく使われていたのですが、今は死語といってもいい。「見る者すべての胸を熱く揺さぶる痛快活劇!」とか「実に爽快! まさに痛快! あっと息をのむラストを刮目せよ!」みたいな名文句で宣伝している映画って、今はたぶん無いですよね。どうして「痛快」は消えていったのだろう……などといくらでも想いが溢れてくる空間です。

待ち時間のお遍路さんも退屈しない空間


 
その客席の上にある映写室には武骨な映写機が鎮座しています。大きなリールを備えた、今となっては非常にレトロなものですが、ここでは現役で稼働しています。
映画は1本だけのフィルムには収まらず複数巻に及びます。映写機を2台動かして片方の機械のフィルムが終わるタイミングでもう片方から続きを流す、というのが一般的な上映方式なのですが、大心劇場にあるのは1台だけ。
ひとつの映写機でフィルムを流していき、前のリールが終わるところで次のフィルムを送る「流し込み」と言われる技法を用いています。タイミングが合わないと映像が途中で途切れてしまう難しいもの……なのですが小松さんは実に慣れた手つきでフィルムを手繰っていきます。この姿が実にカッコいい。まさに職人技。
セッティングが済み、モーターのうなりとともにリールの回転する音が響くと、これから始まる映画への期待をどこまでも高めてくれます。
小松さんのフィルムさばきは『追い風ヨーソロ!』の作中でも披露されています。役者の演技・見様見真似では及ばぬ本物の技、ぜひとも大心劇場のスクリーンでご覧ください。 

映写機を操作するシーンがある役者の山川。貴重な経験ですよほんとに



小松さんの仕事は映像を流すだけではありません。
劇場前にある大看板。これも毎作品、小松さんの手描きによるもの。在りモノのポスターだけでは済まさない、サービス心の結晶と言えます。 

ロシアによるウクライナ侵攻が行われた際には『ひまわり』(1970年 監=ヴィットリオ・デ・シーカ 出=ソフィア・ローレン)を上映。この看板も小松さんの手によるもの


上映が終われば映写室から降りてきてお客さんをお見送りもしてくれる。監督や出演者の舞台挨拶などがあるときは自らマイクを持って司会もこなす。
さらに「ふるさとシンガー・豆電球」としての顔を持つ小松さん、ギターを持ってステージに上がりライブが始まることも(!)。とにかく来てくれたお客さんをどこまでも楽しませようとする、もはや映画館の館主の枠に収まらないエンターテイナーといえます。
 
なお、本作『追い風ヨーソロ!』では挿入歌で豆電球さんの歌を使用させてもらっています。のみならず歌詞をこちらで用意した主題歌の作曲・歌唱までしていただきました。先に述べたフィルムさばきと合わせて、ぜひとも大心劇場のスピーカーでお聴きください。 

小松さんの手でコードが書かれた主題歌の歌詞


作品だけではなく、かつては映画館そのものにも個性があった。シネコン全盛の世の中ではありますが、その流れに抗うように映画をとことん楽しむ個性ある場を、小松さんは自身も楽しみながら守り続けています。

山の中ではあるけれど、一見の価値は間違いなくある


◆◆◆

『追い風ヨーソロ!』

【出演者】
大野仁志 我妻美緒 山川竜也 八洲承子 愛海鏡馬 豆電球

【上映日時】
2023年6月24日(土)~6月30日(金) 毎日13時~・19時~
各回、出演者による舞台挨拶・トークショーあり。

【木戸銭】
大人/1,500円 中学生・高校生/1,300円 小学生/1,000円

【会場】
大心劇場
〒781-6427 高知県安芸郡安田町内京坊992-1
http://wwwc.pikara.ne.jp/mamedenkyu/

【あらすじ】
1889年、安田村。唐浜では通りすがったお遍路の男に看取られながら、ひとりの女が息を引きとった。そして安田川のほとりでは安田村を離れていた兄弟が偶然の再会を果たしていた。その前に父の仇だと刀をかまえる女が現れた……。

時は流れて現在、安田町。かつての安田村にいた面々と同じ顔をした者たちが集ってくる。他人の空似か、あるいは前世か。交錯する過去との因縁。時を超えて、彼らを包むように風が吹く。

全編高知・安田ロケ、上映は大心劇場による地産地消映画がここに誕生!

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