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1889年を生きた人々① 髙松太郎

”豆電球”小松秀吉さんに「太郎はいかん」と言われてしまった髙松太郎

 坂本龍馬の甥ながら年齢が近く、兄弟のような間柄で、龍馬とともに亀山社中、海援隊で活躍した髙松太郎。安田町(当時は安田村)の出身で、いわゆる幕末の志士でもあります。
ですが、撮影の前だったか後だったか、豆電球こと小松秀吉さんと太郎の話をしていたら、「太郎は、いかん」と。
いや、確かに、同じく現在の安田町の出身で、海援隊でも活動した石田英吉は、時代が明治となってからは高知県知事になるなど出世した一方で、そんな輝かしさとは無縁だったのが太郎。叔父が龍馬なんてカッコいい、今風に言えばキラキラネームだったのに対して、太郎。たろう。安田町の偉人として尊敬されているのは父の髙松順蔵であって、あんなに有名な坂本龍馬とともに海援隊にいた太郎は、あまり顧みられる存在ではないようです。
でも、『追い風ヨーソロ!』は、この髙松太郎の存在から企画が始まっています。原題というか、最初の仮題は『太郎が帰る』。龍馬(竜馬)がゆくんだったら、太郎は帰る。そんな、なんともテキトーな思いつきがスタートでした。
 去る2021年、2年前の6月22日。高知市の桂浜にある坂本龍馬記念館で、「海援隊士・髙松太郎」展が最終日を迎えていました。その日、たまたま別の仕事で高知にいたのが、我らパートナーシップのメンバーのひとり。何かの衝動に駆られて仕事を(内緒で)うっちゃって、企画展を担当した学芸員さんをつかまえて、すべての展示について小一時間ほど講釈させてしまったそうです。なぜ太郎は出世とは無縁だったのか。そのときの学芸員さんの「(太郎は)意欲がなかったのか、能力がなかったのか」という言葉は、今作で太郎のキャラクターを造形するにあたって、とてもとてもヒントになるものでした。この場を借りて、深くお礼申し上げます。

 今作で太郎は東京の役所づとめをクビになって安田村に帰ってくるのですが、クビになったことを足をバタバタさせて喜ぶという、まさに「太郎は、いかん」という姿を見せています。でも、海援隊が解散してからは、まるで暗殺された龍馬の仇を討たんとするかのように蝦夷地(北海道)まで転戦した太郎。なんとも情けないというか不甲斐ないというか、ほんとうにそれだけの人物だったかは、ぜひ大心劇場のスクリーンで確認してみてください。

ニッコニコで「お役御免になったがよ」


 さて、そんな髙松太郎を演じるのは愛海鏡馬。かつて小劇場で2度、坂本龍馬を(馬つながりで?)演じたこともあり、ちょうど龍馬と同い年で暗殺シーンを1人で演じる離れ業(?)もあったそうな。今回で土佐の幕末の志士を演じるのは3度目になりますが、奇しくも太郎と愛海は(新暦で)誕生日が同じ。しかも、1889年の太郎と撮影があった2022年の愛海、なんと同い年でした。この世界に役者は星の数ほどいますが、この1889年の太郎を演じるのにもっともふさわしい役者は愛海のはずです(もっとも、この世界に映画も星の数ほどありますが、この時期の太郎を描こうなんて映画も、この『追い風ヨーソロ!』くらいでしょうけど)。偶然と偶然が次々に重なり、そこから強くて優しい追い風に吹かれて完成した今作ですが、最初の偶然こそが太郎だったのです。
 だから小松さん、もうちょっと太郎も認めてあげてくださいね(笑)。

愛海鏡馬が太郎に魂を込める


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『追い風ヨーソロ!』

【出演者】
大野仁志 我妻美緒 山川竜也 八洲承子 愛海鏡馬 豆電球

【上映日時】
2023年6月24日(土)~6月30日(金) 毎日13時~・19時~
各回、出演者による舞台挨拶・トークショーあり。

【木戸銭】
大人/1,500円 中学生・高校生/1,300円 小学生/1,000円

【会場】
大心劇場
〒781-6427 高知県安芸郡安田町内京坊992-1
http://wwwc.pikara.ne.jp/mamedenkyu/

【あらすじ】
1889年、安田村。唐浜では通りすがったお遍路の男に看取られながら、ひとりの女が息を引きとった。そして安田川のほとりでは安田村を離れていた兄弟が偶然の再会を果たしていた。その前に父の仇だと刀をかまえる女が現れた……。

時は流れて現在、安田町。かつての安田村にいた面々と同じ顔をした者たちが集ってくる。他人の空似か、あるいは前世か。交錯する過去との因縁。時を超えて、彼らを包むように風が吹く。

全編高知・安田ロケ、上映は大心劇場による地産地消映画がここに誕生!


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