「地下鉄道」(コルソン・ホワイトヘッド著)
「地下鉄道」(コルソン・ホワイトヘッド著)
翻訳は谷崎由依さん、刊行は早川書房。
歴史改変SFといって良いかと思いますが、ほぼ歴史小説でもあります。同時にサスペンス小説でもあります。すごい小説です。
主人公は”コーラ”というアフロ・アメリカンの少女。
アメリカ南東部ジョージアの奴隷です。
すさまじく過酷なプランテーションで働いています。反抗すれば暴行される。かなりの確率で見せ締めにより殺される。その苛烈な状況下から逃げようとすれば、あっという間に捕まり、この世の地獄のような方法で殺戮される。
最近の映画で近い時代を描いているのは、
スティーブン・スピルバーグ監督
『リンカーン』
スティーブ・マックイーン監督
『それでも夜は明ける』
クエンティン・タランティーノ監督
『ジャンゴ 繋がれざる者』
など。
あと過去の名作では、
リチャード・フライシャー監督
『マンディンゴ』。
本作は、過去に実際にあったアメリカでの悲惨な状況を下敷きにしつつ、そこからアメリカ北部・カナダへ逃げるための逃走路を描く。
それが、「地下鉄道」。
実際にあったといわれる逃走経路を、「もし本当に地下に逃走用の鉄道があったら?」とイメージを膨らませて描いたのが本作の肝です。
この鉄道での逃走と、行き着く先々での潜伏が凄いです。手に汗を握る、とはこのこと。
追手である黒人狩り職人(白人)のキャラクターがまた凄まじい。どこまでもしつこく追ってくる。そして人物造形が多面的。
果たして、コーラはこの追手から逃げられるのか。
あと忘れちゃいけないのが、黒人奴隷を逃すために尽力する白人たちの姿。そして、状況に流される自警団的な人々の怖さ。
逃亡モノとしても第一級のエンターテインメントになっています。
(黒人差別のリアルさについては、目を覆わんばかりの悲惨さなのですが)。
著者のコルソン・ホワイトヘッドさん、只者じゃないです!
Amazon Primeでは本作のドラマ化も配信中とのこと。
監督が『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス。
これは楽しみです(映像であの過酷さを観るのは怖くもありますが)。
ちなみに、バリー・ジェンキンス監督はわたしの6日前に生まれています。マジかよ。
2022年9月 読。