「涙以外とは手を組まない」―必殺からくり人、その壮絶なる最期に秘められた想い
1976年夏、必殺シリーズ第8作として放送された「必殺からくり人」は、天保の世を舞台に、弱者の涙と共に歩む殺し屋集団の物語である。
芸者置屋「花乃屋」には二つの秘密があった。一つは八丈島からの島抜け人であること、もう一つは弱き者の恨みを晴らす「からくり人」であることだ。この一党を率いる花乃屋仇吉は、かつて深川の辰巳芸者であった過去を持つ。恋人に裏切られ、オランダ人の慰み者とされた彼女は、その境遇ゆえに「涙以外とは手を組まない」という信念を持つに至る。
一党には、枕売りの時次郎、花火職人の天平、船頭の藤兵ヱ、そして仇吉の娘とんぼらが名を連ねた。彼らは皆、島での苦しみを知る者たちであった。時次郎は恋人を助けようとして誤って人を殺し、島送りとなった男である。天平は花火を用いて悪人を葬る異形の殺し屋として恐れられた。
物語は、からくり人たちの活躍を軸に展開していくが、やがて彼らの前に「曇り」という強大な敵が立ちはだかる。幕府と結託した曇りは、安価で弱者の依頼を請け負うからくり人たちを快く思わなかった。
最終章に至り、物語は壮絶な結末へと向かう。
時次郎は鳥居耀蔵暗殺に失敗し、火薬を全身に振りかけて自爆する。
天平は失明しながらも最期まで戦い、藤兵ヱは水中戦を繰り広げた末に息絶える。
そして仇吉は、曇りとの一騎打ちで相打ちとなり、その生涯を閉じるのである。
この作品の特徴的なのは、全13話という短い放送期間ながら、主要登場人物の生存者がとんぼただ一人という異例の結末を迎えることだ。これは、必殺シリーズの中でも特に異彩を放つ展開であった。
物語は単なる勧善懲悪に留まらず、天保の大飢饉や蛮社の獄といった史実を巧みに織り込みながら、人間の業と救済という普遍的なテーマを描き出している。
「涙以外とは手を組まない」という仇吉の言葉には、弱者への共感と、権力に対する抵抗の意志が込められていた。
最期まで弱者の涙に寄り添い続けた仇吉たちの生き様は、時代を超えて観る者の心に深い感動を残す。とんぼにからくり人の存在を後世まで伝えることを示唆して別れを告げた仇吉の姿には、正義の在り方を問い続けた作品の真髄が凝縮されているのである。