『君はどう活きるか』 アルビレックス新潟×長倉幹樹
長倉幹樹、降臨
夏の移籍市場では伊藤涼太郎が抜けたアタッカー陣に動きを加えるかどうか、個人的には『誰か来たらいいな』程度に願望ベースで考えていましたが見事にJ2の有力株を引き抜いてきました。これがJ1で明確なフットボールスタイルを披露するチームであるという事。現状の立ち位置を表した特徴的なディールとなりました。
詳しい移籍の経緯は有料記事,コンテンツにて深く知る事が出来るのでここでは割愛。特に前者の『Gマガ』の記事では群馬の番記者が運営する媒体ながら新潟の資金力や編成状況も何となく察する事ができる中身になっているので課金する価値は十分あると思います。ステマではないですけどぜひぜひ。
長倉のプロフィールや新潟の状況など表向きの情報を拾ってディール自体を評すると、多方面に最適解を見いだせる形になったと評価しています。
(後ほど詳しく触れますが)ピッチ上では現状のアタッカー陣とは若干の毛色が異なる選手。それでもボールと共に進む中で各選手に相手を見ながら最適なポジション,ボールプレーが求められる新潟において問題なくマッチすると見ています。J1のリズムに慣れればスコアリングにも自然と手を伸ばしそう。
ピッチ上を離れて長倉自体を見つめると、ステップアップを繰り返してきた経歴からも自身のキャリアに対しては深く賢く考えていそうな雰囲気が感じとれます。複数クラブが興味を持っていたとの事ですが、その中で新潟を選ぶ辺りがそれを象徴しているというか。新潟加入が成立した直後に気を悪くされる方がいるのを承知で、長倉としては既に新潟の先も見据えていると思います。とにかく物凄い野心を感じる選手という印象。
寺川強化部長としてはそんな長倉に対して今と未来、2つの時間軸に視点を合わせて獲得に動いたのだと思います。この時期の移籍なので当然違約金が発生、そして正直即効性のある補強は必要ない状況。そんな中で新潟からしたら決して安くはない資金を支払う訳ですから、上記のように将来的なリターンも見据えながら今後数年間の活躍が見込める選手に焦点を定めたというのは非常に理にかなった取引だったと思います。素晴らしいの一言。
さて、そんな待望の新戦力ですが『新潟のプレイヤーとしてどう運用されるのか?』は皆さん非常に気になっていると思いますし筆者自身も然り。良い選手とは聞いてるけど実際どうなの…?と思ってしまうのはJ2有力株あるある。限られた時間の中でマイチームの他に有力チーム,選手を追い続けるのは結構な至難の業です。(中には先見の妙を持って目をつけていた方もいましたが)
そこで今回は長倉の群馬ラストゲームかつラストゴールが記録されたJ2第27節・群馬×磐田を基に、『長倉のプレースタイル』と『新潟ではどういった起用がなされて周囲にどういった相互作用を及ぼすのか?』という点について言及していきます。得意なプレー、求められるであろうタスクを理解する事でこれから彼を追う際の1つの判断材料になってくれれば。それではいってみよう!
主人公:オレ 〜群馬×磐田を観て〜
※時間的な都合で65分辺りで打ち止めさせていただきました。
まずはプレイヤー:長倉について少しでも詳しくなろうという事で、彼の群馬ラストゲームである群馬×磐田を観てみました。試合としては互いに昇格争いに身を置く中で質の高い攻防が繰り広げられていたと思います。
何より群馬のフットボールには感銘を受けた
論理性のある組織が構築されていて、それを成り立たせる個々の個人戦術も際立つ。マクロとミクロの視点を持ちながら結果が出る事に説得力を持たせるフットボールが展開されていました。そんな群馬の中で長倉はどう輝いていたのでしょうか。
攻撃時
どんなスタイル,保持の姿勢をとっていても、基本的にブロック守備では『4-4-2』で構えるのが定石になっている現代のフットボール。例に漏れず4-4-2を選択する磐田に対し、群馬は『3-2-5』気味に変形して配置的優位を確保しながら相手陣内を支配します。
磐田の最前線『2』枚に対して群馬は後方に『3』枚、横へのパスやボランチを経由するなどして誰かしらがフリーマンとなる仕組み。そのフリーマンからボールを引き出し続けたのが長倉幹樹でした。
スペースを察知して顔を出せるポジショニングの良さとターンのしなやかさ。磐田CB伊藤槙人を背負っても最低限ファールを貰うなど、失わずに前を向けるボールプレーは特に前半光るものがありました。⇩ではハーフスペースで引き出してCF川本へチャンスメイク。
更に、定位置に留まらず中央寄りの位置から移動する事で前進の起点を作れるのも彼の良さ。RSH松本昌也が長倉へのパスコースを警戒してCH山本康裕との距離を縮めます。それを見て長倉は空いたライン際へ移動。パスを引き出して前向きの状態を作りました。
個人的にはボランチによるニアゾーンへのランニングだったりCFや逆サイドの選手が背後を突くなど、長倉のサイド流れに連続してボールを引き出す仕組みがあればより効果的に崩せると感じました。
しかし、一か所に留まらない駆け引きの連続性によって結果的に相手右サイドには抑えどころを絞らせず。オフザボールでもセンスを感じさせる長倉、相手を見ながら駆け引きを続けられる引き出しの多さはまさに新潟向き。この辺りの動きを観察するだけでも今後が楽しみになってきました。
無理だと思ったら小休止を入れてチーム全体に息を整える時間を与えたりと(34:00~)、急ぎがちな新潟にとってテンポを落ち着けられる貴重な存在でもあり、何よりフィニッシュ局面に入っていけるのが魅力的。群馬ラストゴールもスライドの隙間を突いて胸コントロールからのゴラッソ。
他の試合でのプレーやゴールを見ると背後へのランやBox内でも勝負できる様子が伺えますが、恐らく一番彼が得意なのはCFを囮にして最終的に自身が主人公になるストーリー。現有スカッドを見ると特に鈴木孝司とは相性が抜群だと思います。共存が楽しみだ…!
守備時
簡潔に。
こちらも4-4-2で構える群馬、磐田は3-2-5気味に変形して配置のズレを生み出してきます。長倉は最前線で2top気味に振る舞い、背中でパスコースを消しながらボールホルダーの選択肢を奪うなどプレスvsビルドアップでの数的不利を隠すような守備を披露。
カウンタープレスなどを見ると『守備にも全力で取り組むぜ!』といった感じではありませんが、マンツーマンでのハイプレスなど守備でも攻撃的な志向を持つチームではないのでさほど問題なし。
新潟も群馬と似てゾーンを基調としたブロック守備を崩さない事が優先されるチームであり、最前線に求められるのは最低限の献身性と賢さ。上記のような守備意識と実践能力があれば11人の防波堤として全然組み込めるでしょう。
新潟×長倉
磐田戦やその他のプレーを見ると寺川強化部長の評する通り、とにかく万能型という印象を抱きました。どんな所でどんなボールスキルを披露しようと隙が見えない選手。そんなオフェンシブなオールラウンダーは新潟では2topの片側がメインポジションとなるでしょう。
主に左側でのプレーを得意とするためLCB渡邊泰基からハーフスペースでボールを引き出したり、鈴木孝司と組めば彼が降りた箇所に走ってよりゴールに近い位置で脅威を与えたり、谷口海斗と組めば彼に最終ラインとの駆け引きに専念させてあげたり…と万能型ゆえにあらゆる妄想が膨らみます。
更に群馬では自身に警戒を集める事により大外に開いたLWG山中へのパスコースを開通させるなど、間接的に味方を楽にできるのも彼の引き出しの一つ。
彼のポジショニングによってWGへクリーンにボールが渡る機会が増えて、仕掛ける際に急ぎすぎる,正対して相手を押し込む事から逃げてしまうLWG陣のプレーに同時にテコ入れの目が向けられるかもしれません。
ここがストロングに成り上がると各所の数字も伸びてくると思うので是非とも改善されて欲しいです。何より『ウインガー』として相手と対峙できる(長倉の旧友である)シマブクカズヨシにはもっともっと序列を上げて欲しいところ。頑張れ。
そして、多種多様な対応力を見せる中で最大出力を発揮できるのは恐らく最終局面。決定機に顔を出せる、そして枠に収める。スコアリングに対しての才能は既に現有戦力の中でも稀有な存在として捉えられるほど。磐田戦、そして清水戦でのゴールは左利きRWG佐藤亮(彼もまた良い選手だ…)からのボールに合わせた形。
これを新潟に当てはめると、ダニーロゴメスの武器と完全にマッチする形となります。時間の経過と共に相手を切り裂くジャックナイフとしての性能を発揮し始めたけどイマイチ数字に繋がらなかったブラジリアン。
特にカットインからファーサイドへの鋭いクロスは何本も見せていましたが、遂にそこでポイントを作れる選手が来た。長倉の到来を機に相手を仕留める所まで進化して欲しいです。そしてそういった光景が見れるのも時間の問題だと思ってます。移籍後初ゴールはダニーロにアシストがつくとベットしてもいいくらい。
そんなこんなで群馬、そして新潟での長倉幹樹について取り上げてきました。再開初戦の名古屋グランパス戦が恐らくデビュー戦になることでしょう。殆どが初めて生で観る事になるサポーターに対して、新進気鋭の野心家は果たしてどれほどのサプライズを与えてくれるのか。
断言します、かなり期待していいと思います。
答え合わせは一週間後、国立競技場で行いましょう。今回はこの辺りで。ではでは