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【樹森新潟、かく戦う】2025 J1 #1 横浜F・マリノス×アルビレックス新潟
試合終了
— アルビレックス新潟 (@albirex_pr) February 15, 2025
🏆明治安田J1リーグ 第1節#横浜F・マリノス 1-1 #アルビレックス新潟#albirex pic.twitter.com/84839CgUcX
正直Jリーグの公式サイトから選手監督コメントを覗いたり、新潟日報のデジタル版に課金すれば日産スタジアムでの90分に対する答え合わせはそれで十分な訳ですが、このサッカーを目の当たりにした以上はどうしても彼らに対する状況整理を行なっておきたいので、早速noteを通じてアウトプットしていきます。
何よりも観ている人間の探究心を引き出してくれるようなチームとしてこのレベルまで仕上げてくれた樹森大介監督以下、選手スタッフには試合後に拍手を送る他ありませんでした。いつ以来だろうか、一秒でも早く次節が観たいと思えるこの感覚。
目次
○ハイプレス
○ミドルブロック〜自陣守備
○ビルドアップの入口
〇ビルドアップの出口
○起用法について
【ハイプレス】
現在のボール保持志向型のスタイルが根付く前は、伝統的に新潟の代名詞となっていたハイプレスですが、樹森新潟を語る上でも決して無視できない要素となりそうです。
昨今のサッカー界では攻撃側がGKからビルドアップを開始する際、守備側は潔くマンツーマンによってピッチ上からフリーマンを消す事で、相手のボール保持を無効化する方法論が一般的となっています。
一方で今季の新潟はというと、上述したようにマンツーマンの要素を取り入れつつも、その前に前提条件として用意しておきたいのが吉本岳史ヘッドコーチの言うように「餌を巻いて」守備を仕掛ける事。最初から各選手がマークの担当を決めてオールコートマンツーマンを構築するのではなく、前線の規制で攻撃側を片側に誘導してから一気にマンツーマンでハメに行きます。
開幕戦では先ず長谷川元希-谷口海斗の2topが体の向きでパスコースを制限しながら、マリノスのボールホルダーに自分達が追い込みたい方へのプレーを強要します。そのような2topの誘導した方向にマリノスを限定できた瞬間に、中盤以下最終ラインが連動してそれぞれの担当する選手に向かってマークにつく。このような流れで新潟はマリノスのビルドアップを阻害し続けました。
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そんなハイプレスで肝となるのが最終ラインの数的同数を受け入れざるを得ない事。前線から勢いを持ってボールを奪いに行く代償として、アンデルソンロペスやヤンマテウスといった、リーグ屈指のタレントを相手に最終ラインでは明確に1vs1の構図が発生するというリスクを抱えてしまう訳ですが、稲村隼翔-舞行龍ジェームズのCBコンビは強力なブラジリアンに向かってくるボールを見事にシャットアウトし続けてくれました。この試合で彼らが不在だったら恐らく何処かのシーンで決壊していたはず、終始圧巻のパフォーマンスで新潟を最終ラインから支えてくれました。
それに、ロングボールの回収率を高める工夫として、CBが競り合う際にボランチの1枚が常にセカンドボールを回収できる位置に居てくれた事も見逃せません。この辺の役割は後半に明確に整理されており、ボールサイドの相手ボランチを捕まえに行く選手・CBと連携できるよう後方に残る選手という役割を星雄次と宮本英治で分担できていました。
このようにCBの対人能力はハイプレスを成功させる要素の一つとなりますし、ジェイソンゲリアや森昂大、岡本將成が起用された際も同様に数的同数下で相手FWに対して優位に立てるかどうかは今後注目するべきポイントだと思います。
(余談ですが、マリノスのロングボールの行き先が常に新潟DFラインの手前側だった事には結構助けられたと思います。例えば背後に向けて快速FWを走らせるなど、新潟のハイプレスを喰らった際に敢えて裏のスペースを狙って裏返してくるチームも今後出てきそうですね)
そして何よりも前線2人の追い込み方に触れない訳にはいきません。谷口海斗はもちろん、明確に片側のコースを切りながらボールホルダーに詰めていく長谷川元希のプレッシングは本当に素晴らしかったと思います。彼らの誘導があってマリノスのビルドアップは特定のルート・人間にしか行きつかなくなりますし、それを見た奥村仁や星雄次、橋本健人はターゲットが明確となり、迷いなくマンマークに向かう事ができます。
押し込まれる展開が続いた終盤の時間帯以外は殆どの時間帯でハイプレスを実行していたので、樹森新潟では高い位置から積極的に攻撃側の組み立てを阻害する事で相手からボールを回収する・高い位置からショートカウンターに繋げるといった様々なリターンを獲得したいのでしょう。マリノスのビルドアップが機能不全だった事もありますが、実際に開幕戦では間違いなく効力を発揮しており、試合の主導権獲得に大きく寄与した要素の一つとなりました。
【観て欲しい時間】※大まかですが
・00:50~ ハイプレスにおける新潟の狙いが読み取れる
・28:35~ 元希のコース切りが素晴らしい!
・橋本健人/太田修介の試合後コメント。ハイプレスは本気(マジ)で実装する気なんだなという事が伺えます
【ミドルブロック〜自陣守備】
この局面でのアプローチは松橋体制から大きく変わっていないと認識しています。
ハイプレスに向かわず一旦セットした状態では基本4-4-2を組みます。その中で、
〇2topは背中で相手ボランチを消す事で、マリノスの3CBに対して中央へのパスルートを封鎖する
〇WGはハーフスペースを閉じる事で外側のパスコースに誘導する
〇誘導した先の大外には基本SBがスライドして対応、それにより広がってしまうSB-CB間はボランチが斜めに降りてカバーする
大体こんな感じでマリノスのセット攻撃に対応していました。
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もちろん相手のボール保持であったり、出る選手の特徴によって変化する場合があると思いますが、基本的には4-4-2でボールの動き・敵/味方の位置を基準として、スペースを守りながら追い込んだ先で人に対して奪いに行く守り方が基本線になるのだと思います。
この守り方で弱点となりそうなのが逆サイドのスペース。ハイプレスと同様に、中央を閉じながら片方に追い込んでいくミドルブロック/自陣守備ですが、誘導できたとみるやチーム全体で片側に圧縮する分、当然逆側には広大なスペースが生まれる事となります。
相手が4枚で僕たちは5枚いるので、逆サイドは空いているということをチームとして理解していないといけません。そこへ蹴らないといけませんし、蹴ることができないといけません。サイドで待っている身として、そこはチームメートに求めています。
マンツーマンのプレスをどう掻い潜るか?という質問に対する永戸のコメントですが、プレスに限らずセット攻撃の方にも言える事だと思います。相手側がそのような狙いを持っているのなら新潟としては攻撃側を逆サイドに解放させないように片側に閉じ込める必要がありますし、シーズンの進行次第では5バックで物理的に横幅を守る試合もどこかで訪れるかもしれません。
いずれにせよ、左右に揺さぶりながら守備側のスペースを広げようとするマリノスに対して、セットした守備でも大きな綻びが見つからなかったのは新潟にとって大きな収穫だと思います。キャンプ中に浸透させたチームとしての原則、それに個人個人の強度を活かしながら、これからもっと強固な守備組織を構築できると良いですね。
【観て欲しい時間】※大まかですが
・20:10~マリノスを片側に誘導してチーム全体で圧縮
・40:29~新潟の左側を攻められている時に逆側大外の永戸を警戒する太田
【ビルドアップの入口】
「サッカーって配置で優位を確保できるのか...!」と前体制への若干の皮肉を交えつつ、新潟スタイルの根幹を成すこの局面は新体制になって間違いなく良化しました。
就任会見の際から樹森監督が口にしたキーワードである「相手を見ながら」「(ビルドアップの)入口と出口」が早速体現されていましたね。自陣からの組み立ての際、愚直に井上をピン留めしながら降りずに前方で待っている奥村仁の姿を観て、割とマジで開始早々に興奮を覚えていました。どんな性癖だよと今頃ツッコミが入っているのも重々承知ですが、彼のようなプレースタイルの選手が原則に従いながら間接的にチームに優位性をもたらしているその事実が嬉しかったですね。
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具体的に見ていきましょう。マリノスのミドルブロック~自陣守備は基本的に5-3-2。左シャドーの植中が中盤に降りて、右シャドーのヤンマテウスが一列上がってロペスと先頭を組みます。最終ラインは基本的に5枚ベース。ゴールキックから組み立てる新潟のビルドアップに対してはWBが橋本健人・藤原奏哉までマンマーク気味に捕まえに来ますが、マリノスがミドルゾーンでセットした状態では奥村仁・太田修介をマークの対象としていました。
5-3-2で守るマリノスに対して、先ずはビルドアップの入口を作りたい新潟。最前線となるロペス-マテウスの2枚に対して自分達は3枚で数的優位を確保する事で、相手2topの脇をターゲットに一つ目の入口を設定しました。基本的にはボランチの片方が落ちて稲村隼翔-舞行龍ジェームズと後方で3枚を形成。もう片方のボランチは相手2topの間を起点に、自らに意識を寄せながら最後尾の3枚に時間を与えるようなポジショニングをとっていました。
また、得点シーンに代表されるように、この試合の鍵を握ったスペース(=入口)がもう一つありました。試合を通じて基本的に大外に立つ事が多かった橋本健人・藤原奏哉の両SBですが、この場所はマリノスの5-3-2の「3」を構成する3人の中盤のプレスが行き届かないため、ボールを受けた際に常に時間とスペースを確保していました。
樹森監督曰くマリノスの前線が2枚で来るなら自分達のSBが余裕を持てる事は事前にスカウティングで共有済みだったとの事で、新潟としては狙い通りに位置的優位を確保しながら、相手2top脇と自軍SBの箇所からビルドアップの入口を作り、出口への侵入を図っていきました。
ビルドアップの初期段階では入口を安定的に確保するのはもちろん、新潟の前線4枚が降りずに相手最終ラインを固定し続けてくれた事が大きかったかなと思います。
例えば奥村仁・太田修介が高い位置で相手WBをピン留めする事で、上述したように自分達のSBに時間とスペースが生まれますし、高い位置で駆け引きを続ける事で相手DFを後ろ側に固定しながら、自分達のCB-ボランチの所で確実に数的優位が生まれて、ビルドアップの入口を確保する事に繋がります。
何よりも後ろか前、どちらかに偏りすぎず人数バランスが整った事で、後方で安定したビルドアップの土台を作りつつ、前進した先にも十分な人数が用意されているので仮に前方で失っても即時奪回を発動させやすいという利点に尽きると思います。
この要素によって、松橋体制下の大きな課題であった攻撃から守備への貧弱なトランジション(陣形のバランスが偏ってるのでフィルターとなれる選手が近くにいない→故に奪われたら一気に自陣まで侵入されてしまう→全体の帰陣が間に合わず守備側に不利な状態を強いられる)を改善する事ができるはずです。
キャンプでは攻守の切り替えについては特に強調されている事が選手・監督コメントから伺えますが、ただ意識や強度を強化するだけではなく、実際にその意識や強度を然るべき状況で発揮できるよう、構造を整理する事で選手達を助けている樹森-吉本体制のアプローチには凄く好感を持てます。分かりやすい話、結局はトランジションの安定性が試合自体の優位性を保証してくれる訳ですから、現場の人間にはこれからも拘りを持ち続けて取り組んで欲しいなと思います。
【観て欲しい時間】※大まかですが
・11:41~GK(藤田)を使えるならボランチは降りてこない
【ビルドアップの出口】
大外で起点になりやすいSBに対しては、複数の背後への動きと手前側によって選択肢を作っていこうとキャンプ中から提示されており、その動き方も原則レベルで落とし込まれているそうですが、開幕戦ではそれが嘘でない事が完全に証明されていました。
--得点につながった場面について。
チームとしてあそこを狙っていこうと話していましたし、監督から提示されたことをそのままやれて、そこに質が伴った。パスもトラップも、ランニングも。SBがボールを持ったときに背後のスペースは空いてくるというリサーチがあった中で、逆サイドの選手も関わっていこうと話していた。SBが持ったときに、逆サイドのウイングが中に入って裏を狙っていこうというチームのオーダーがうまくいきました。
・大外の選手(主にWG)は外側から回り込むように内側へ走っていく
例:このゴールの酒井高徳の動き
・内側の選手(主にCF)は外側に抜けて相手SB/WBの背中をとる
・逆サイドの選手も、相手の視野外から内側をとれるように外側から抜けていく
これらの背後に加えて、12:11~・25:31~(得点シーン)のように味方の動きを利用してライン間でフリーになる長谷川元希の巧みなポジショニングもあり、橋本健人の左足から多くのチャンスが生まれていきました。
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複数のアクションを重ねながら背後で起点を作る、手前側につけてスピードアップするといった、どんな相手どんなゲームプランでも活用される樹森新潟の原則を早速開幕戦から体現してくれました。
一方で、そのようなアクションがハマり続けた事で、60分以降は早い段階で背後を狙う事に終始してしまい、ゲームの行き来を自ら激しくしてしまうという改善点も見つかりました。
樹森監督も試合後会見では「テンポが上がりすぎた」旨を話しており、背後を狙う部分と、下から前進していく部分のバランスは今後見極める必要がありそうです。後者の部分でいうと、ボランチを経由しながら前進する事にもう少しトライするかなと思っているので、松橋体制下のようにライン間を攻略するシーンも今後増えていくのではないでしょうか。開幕戦では奥村仁や太田修介などサイドプレイヤーの躍動が印象的でしたが、長谷川元希のように中央3レーンを主戦場とする選手にもそういった機会が見えてくると思います。
また、そのような悪い意味でのハイテンションを抑えようとしていたのが星雄次の負傷により投入された新井泰貴。中盤の底でゲームメイクを重ねながら「一旦は後ろで時間を作ろうぜ!」とチームのリズム調整に着手していました。流れを読みながら適切な一手を打ち続ける、良い意味で目立たないボランチが新潟に来てくれました。この選手も早く長時間観てみたいですね。
正直全然印象に残ってなかった新井泰貴、いざ観直してみると縦に急ぎがちだった展開の中で、意図的に低い位置で時間を作ってチームを落ち着かせているね👏
— 白鳥 (@Move_action46) February 16, 2025
「良い意味で目立たない」寺川評のまんまですわ。
【観て欲しい時間】※大まかですが
・04:05~狙いを持った背後へのアクション。井上が橋本に、松原が奥村にそれぞれ食いつくのを見て、松原の背中側をとりにいく谷口海斗。
・48:22~整理されたサイド崩しの関係性。大外で溜める奥村仁に対して、ポケットのランニング(星雄次)と空いた手前側(橋本健人)に選択肢がある。
大外を取る選手、ポケットへ抜ける選手、手前側を使う選手…みたくサイド崩しの関係性も整理されてるね。奥村橋本のクオリティを発揮し放題。何より余計に人を割かなくなったので変にポジションバランスが崩れる事が無くなった。
— 白鳥 (@Move_action46) February 15, 2025
【起用法に対する雑感】
スタメン11人ではフィールドプレイヤーを契約更新組の10人、GKをレンタルバックの藤田が務めるという既存戦力が殆どの割合を占めるメンバー構成となりました。移籍加入組が1人も名前を連ねないというのは少々意外性を感じましたが、試合内容を踏まえると戦術理解度やコンディションを含めて現時点のベストを送り出した事が伺えるので、その点について特に違和感はありません。
大きく特徴が現れたのは前線4枚の人選だったかと思います。開幕戦で選定されたのは攻撃面では立ち位置を守りながら背後に向けて的確なアクションを起こせる、守備面では周囲との調和を意識しながら積極的にプレッシングを発動できるような選手達。
アタッカーに対しては以前よりアップテンポな役割が期待されている印象ですが、その役割を実現するために連続して強さ速さを出力できる高強度は彼らの強みの一つです。今節のメンバー選定に関しては、恐らくアスリート能力と戦術理解度でそれぞれ樹森監督の求める基準をクリアしているという事なんでしょう。
ビルドアップの際の前向きなアクション、それに連続的に相手を追い込んでいくプレッシングは新チームのストロングとして昇華されていくでしょうし、そのようなプレースタイルを体現できる長谷川元希/奥村仁/太田修介/谷口海斗はこれからもメンバーリストの上位に置かれ続ける事かと思います。
最後に、リザーブの人選がこれまで以上に主導権の行方を左右すると認識しています。90分の中で何処までアップテンポな展開を許容できるのかという問題はありますが、アクションを絶やさないプレースタイルを長い時間継続させるのならば、スタートのアタッカー陣とリレーしながらチーム全体の強度を維持できるような選手を最低4人は常時リザーブで準備させておきたいですね。
そういう観点では、かつてのレアル・マドリードを彷彿とさせる「トップ下コレクター」を敢行した(ように見える)今季の編成にも間違いなく意味があると思います。上述した「リレーできる選手」でいうと、若月大和や小見洋太、落合陸に矢村健が前線各ポジションに揃っており、競争力を維持しながら怪我人の発生にも耐えうるように豊富な手札を用意する事ができました。
実際にダニーロゴメスや小野裕二が恐らくコンディション不良でベンチ入りすら叶わなかった開幕戦ですが、キープレイヤー2人の不在を感じさせない位にスタメン/リザーブの選手達が存在感を発揮した事実は「トップ下コレクター」を肯定するには十分な説得材料となる事でしょう。
そして、彼らのような手札を授かった樹森監督の交代策によって、一旦は失った流れをもう一度奪い返す事に成功するなどベンチワークで盛り返す試合が格段と増えていくのではないでしょうか。少なくとも毎試合70分付近に発動される殆ど無意味なテンプレ交代からは脱却できる筈です。
またダニーロゴメスにミゲルサントス、小野裕二など、開幕時点で観測された樹森新潟のフレームワークとどう整合性をとっていくのかが注目される選手達も控えており、選手個々の特徴を抑えて適切なタスクを割り振っていく樹森監督の手腕にも今後期待したいところです。
そんなこんなで開幕戦から読み取った樹森新潟のプレースタイルについて取り上げてきました。今回はこの辺りで締めたいと思います。それではまた。