見出し画像

■伊集院さんのはなし

伊集院静著「なぎさホテル」あとがきより
「今、思い出しても、なぜ、あの年、あの季節に逗子の海を歩いたのだろうか、と不思議な感慨を抱いてしまう。ほんの数分でも、あの海岸を歩く時刻がずれていれば、小説家になってもいなかったろうし、ひょっとしてもうこの世にいなかったかもしれない。人と人が出逢うということは奇妙この上ないと、この作品に関しては思ってしまう。人は人によってしか、その運命を授からないのだろう。」

僕が繰り返し読む作家は、伊集院静、村上春樹、安野モヨコだ。特に伊集院静のなぎさホテルは何度読んだのか分からない。読む度に号泣してる(引)
ふとなぎさホテル読み返したいなと思う時に限って、誰かに貸していて無い。その度に購入してるので、恐らく5冊以上は買っている(引)

「なぎさホテル」は、伊集院さんが何者でもなかった頃のエッセイだ。妻と離婚し、東京から故郷の山口に帰る途中、逗子海岸に立ち寄った。そこで彼は、老人(なぎさホテル支配人)と出逢い、7年間逗子のホテルで暮らすことになる。なぎさホテル支配人の海より深い優しさと伊集院さんの男気に心打たれる。

僕は、高校生の頃、父の本棚から伊集院静の本を1冊拝借した。何の本でも良かったが、伊集院静と司馬遼太郎の本が比較的多かったので何となく伊集院静の方を手に取った。本を開くと伊集院静のサインが目に飛び込んできた。

「何故、直筆サインがあるんだ?」
父はその頃、逗子に単身赴任中で実家には居なかったので、母に尋ねてみた。
「あー、伊集院さん、お父さんの友達やで。」という回答だった。

なワケねーだろ。と思ったが、父が仕事でファッションショーを担当していた時、伊集院さんがその演出をしてくれたらしい。で、仲良くさせて頂いていたそうだ。

5年程前、僕はオフィスの喫煙室で煙草を吸いながら、後輩女子と雑談していた。小説の話で盛り上がり、好きな作家などを言い合っていた。

僕は、ふと伊集院さんを思い出し、「俺の親父、伊集院さんと友達やで。」という自慢をした。

後輩女子「えー!伊集院さん!大好きです!なぎさホテルって小説、読みました?」

僕「読んだよ!大好きな小説やよ!」

後輩女子「私の祖父、なぎさホテルの支配人だったんですよ!」

え。

俺の自慢話って一体?遥か上の話をぶち込まれて大笑いした。つーか、あの魅力的すぎる支配人の孫娘がこんなにも身近に!笑笑

彼女は、元CAで品があり、人に優しく、よく笑う。バイリンガルで吉本新喜劇が大好きで煙草も吸う。なるほど血筋か。なぎさホテルの孫娘。納得や。

数日後、僕は、厚かましくも、後輩女子になぎさホテルのマッチ残ってたら貰えないかなと言ってみた。「いいですよ!実家に電話してみます!」との気持ちの良い回答!嬉しすぎ!

翌日、「羊さん、すみませんマッチは残ってませんでした。ただ、当時の食器など沢山あるので、よかったら持ってきます!」と。

でも、厚かましい僕も、流石に貴重な食器は貰う訳にはいかないと思い遠慮させてもらった。
「伊集院さんに送りなよ。喜ぶと思うよ。」と言ってみたけど、送ってはいないだろうな…


伊集院さんに捧ぐ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?