そしてコロナがやってきた
海外アーティストの取材通訳を生業としているので、伴って来日公演を観せてもらうことが多い。仕事の一環とはいえ、根っからの音楽ファンだから役得には違いない。ジャンルは我ながら何でもあり。ここ数年、フリーペーパーに関わっているブルーノート東京のライヴも多いが、ジャズに関してはこの仕事を通じてようやく触れるようになった新参者で、元々はロック、それもヘヴィでハードなやつを得意としている。フリーランスで自転車操業。母が入院闘病中だろうが、漕ぎ続けなければこっちが倒れる。
母が倒れた日のヘイルストーム。その翌日に病院を訪ねてトンボ返りでマイケル・モンロー。ここら辺は本領発揮。ライヴにも取材にも、どれだけ励まされたことか。かと思えば緊張しながらデザートを召し上がっていただいた巨匠ロン・カーター。世代的に光栄の極みだった最後の KISS ツアー。ライヴを観ては取材して、あるいはツアーに張り付いていつものルーティンを繰り返す中、2019年12月が幕を閉じた。
母の容体は超低め安定だ。
明けて2020年。犬が可愛くてついTシャツまで買ってしまったドル箱スターのスティーヴ・ガッド。インタビューもライヴも素晴らしかった玄人受けするジェイソン・イズベル。新譜のプロモーションで来日した愛すべきサンダーキャット。ボサノバのベベウ・ジルベルト。熱くて優しくていつだって本気なフィーヴァー333。北欧つながりでLiLiCoさんのラジオに出たオーレ・ブールド。予告映像に惹かれてライヴだけ観に行ったタンク&ザ・バンガス。ここまでが1月。そしてクルーズ船の件を皮切りにコロナのザワザワが聞こえ始めた。
母は救急病院からの転院を促される。わかっていたことだし、むしろそうさせたいような状況。病院の担当者と検討に入る。
私は割りとワースト・シナリオの人だ。とりあえず最悪を想定してしまう。そうしておいて、現実の方がマシだったな、というところで収まるのがこれまでの常だった。なので今回も、かなり早い段階から来日公演ができなくなって自分が失業する未来を見ていた。が、たぶん初めてだ、私の想定ワーストを現実が超えて先をどんどん進んでいくことになったのは。それでも初めのうちは、私の想定ワーストがやはり現実を上回っていた。キャンセルも出始めたが、一方で予定通りの来日も続き、新規公演の発表も続いたからだ。
2月はまず、ライヴが最高にアクティヴだった伊達男ルイ・ヴェガ。満員御礼どころかキャパ超えだったトータス。映画音楽に特化した演目でお父さんの作品もサラリとこなしたカイル・イーストウッド。私の知る限りブルーノート東京のステージで最もヘヴィメタルに近い音を鳴らしたキャメロン・グレイヴス。そしてファミマの入店音や地下鉄のアナウンスを録って出しするカッサ・オーヴァーオールが18日。その後、ブルーノートの明かりが落ちる。
そして20日に母が療養型の病院に転院した。落ち着いた環境で、見舞いもゆっくりできるようになる、はずだった。