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小咄「ルイ辞書」

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「小さな口から出まかせ」 本文は140字以内に収める努力をしています。
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2016年12月の記事一覧

小咄「ルイ辞書」

【自暴自棄】【自葬式】向かいの席の私に似た男が膝に載せているものは骨箱にしか見えなかった。

ふとその口元が

「あなたの葬儀を終えました」

思わず言い返す。

「まだ死んでいない」

自分が嫌になった。生きていたくない。

「あなたの言葉だ」

「だけど死んでいない」

すると男は「お好きにどうぞ」と言って電車を降りてしまった。

小さな口から出まかせ「類似ショ」

小咄「ルイ辞書」

【還暦】【感激】齢60を還暦という。人として一生を全うし元に戻るのである。新たに生まれ変わるのが嬉しいかというとそうでもない。それまで刻まれた辛く悲しい記憶が邪魔をするからだ。そこで何もかもを新しく体験できる痴呆という画期的なシステムが生まれた。しかし残念ながら現状、誤作動が多く報告されている。

小さな口から出まかせ「類似ショ」

小咄「ルイ辞書」

【商談】【冗談】小さくとも会社をやっているといろいろ笑えるものを売り込んでくる輩が後を絶たない。我社は機械メーカー、そこにこともあろうに饅頭を売りにくる事もある。ご丁寧に製造上の苦労話まで聞かされる。我社はその饅頭を買う。そしてその製造の苦労を回避する画期的な饅頭製造機を開発し販売するのである。

小さな口から出まかせ「類似ショ」

小咄「ルイ辞書」

【同性愛】【泥仕合】寒い夜道、繁華街の裏道をダウンを着た二人の男が手を繋いで歩いていく。赤信号で立ち止まった二人はどちらともなく抱き合った。信号の青い点滅が一つになったその影をチクチク刺す。進行方向の信号は青、だが二人は接吻に余念がない。と、信号を渡ってきた女が一つになったその影に一撃を喰らわした。

小さな口から出まかせ「類似ショ」

小咄「ルイ辞書」

【白状】【薄情】ある男の不倫の事実を知る友人は男の妻の懇願に負けてそれを漏らしてしまった。たった一度の過ちは離婚という結果に終わり、男の妻は法の定める6カ月を待って再婚した。妻は新しい夫を得た。男は妻と友人を失った。友人は何を得、何を失ったのか。人には墓場まで持っていくべき事柄というものがある。

小さな口から出まかせ「類似ショ」

小咄「ルイ辞書」

【市場】【事情】【詩情】株価というのは時に大暴落することがある。「ウリ」一色というやつだ。一度ある方向に傾くと人の思惑というベクトルは一斉に同じ方向を向くのである。こうなると歯止めが利かない。落ちるところまで落ちるのだ。渦中にある人は無我夢中。そして底にコツンと触れたとき、はたと自分を見つめるのである。

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