見出し画像

人生で初めて銃声を聞いた。

僕は丁度、自分の部屋にいた。
大きな破裂音がした。
落下音かとも思った。

一度。
ズドン、と。

家の近くに解体作業中の建物があるから、作業音かと思い、外したヘッドホンを戻して、僕はすぐに動画のなかへ戻った。

すると今度は立て続けに数回、同じ音がした。

さすがに平和ボケしたジャパニーズ代表の僕も、まぁここは海外だし、銃声がしてもおかしくないなと思いなおし、窓際へ。

悲鳴が聞こえてきた。現場近くにいた人間が悲鳴をあげてあちらこちらに散っている。

ちょうど路地からメインストリートに出ようとしたところを襲われたのだろう。
銃を避けるように前進した車が、走行中の車の腹に突っ込んだ形で停車していた。

側面の窓には数発の弾痕。

何の銃だったんだろう?
ライフルやショットガンの類ではないと思うんだよなぁ。

サイズ的に持ち歩きにくいし、持ち歩いたとしても銃ケースから出す手間や時間を考えると、やっぱりハンドガンだろう。
でもあれだけ大砲みたいな音がなるものだろうか?

映画とかで聞くハンドガンの発砲音って、もっと乾いていて、あっさりとしていて、割と大人しい印象。
子供がふざけて風船を割ったような音に近いものを想像していたから、最初に銃声を聞いた瞬間、実銃だなという判断に至らなかった。

マフィアの抗争なのだろう。
住んでいる場所も調べて待ち伏せしていたんだろうな。
しかも車に乗っている状態の人間に近寄って撃つのがもっとも正確に仕留められると考えたのだろう。

メインストリートは、比較的交通量が多いため、一度停車する必要がある。
長い時には数分ほど、様子を見なくてはいけないと思う。
その瞬間を狙ったのだろう。

18時間際、スーパー横の路地から出てきた、敵対組織の車に向けてズドン。

不思議なのは、なぜ夜中の2時とか3時に大声で何かを叫んでいる人間を撃たないのかってこと。

ダウンタウンの街中で叫んで、少なくとも数千人の人間が被害を受けているわけであって、そのなかの誰も15階から、寝間着とピストル片手に降りて行って、二度と叫べないようにしてやらないのか。深夜の2.3時にさ。

街中でマフィアだがギャングだかの抗争が起きるよりも、ずっと不思議なのだ。

大抵叫んでいる人は気がふれたホームレスだ。
どんな事情があれ、僕はこの国のホームレスの人が好きではない。

彼らはマックとか、図書館とか、朝から営業している施設の個室トイレに籠り、ドラッグを打ったり、単純に寝ていたり、服を乾かしていたりする。

お金を払ったり、純粋に利用したくてきた側からすれば迷惑以外の何物でもない。
だってトイレ使えなくなってしまうんだもの。

そして彼らは何も買わないなんてことはザラ。
まぁそれだけならまだしも、今度はホームレス同士が店内、施設内で喧嘩を始める。

個室トイレでゆっくりとドラッグを打ちたいホームレスVS個室トイレでゆっくりとドラッグを打ちたいホームレスの熾烈極まる抗争だ。

大抵はポリスが来て、その場限りの拘束をして、どこかへ連れて行ってくれるのだけれど、翌朝家の近くを散歩してみると、もう戻ってきていて、今度はもう少しうまいことやって、マックで捕まらないようにしないと、なんてことは1ミリも考えていない顔をして珈琲をせがんでくるのだ。

そんなのを見ていると参っちまうんだ。

マック側ももう少し毅然と彼らに対応してほしいね。
でも多分、
毎朝同じ時間にマックに行って、珈琲だけを頼む、ボサボサ頭の僕のことを店員たちはホームレスと思っているのかもしれない。

どこかでドラッグを打ってきているから店内のトイレを利用しない、理性的な薬中とでも思っているのかも。


なんにせよ、僕が言いたかったことは、ギャングの抗争ももちろんどこか遠い惑星でやってほしいってのと、マックのトイレを占領しないでほしいってことだよ。

銃声を聞いて、僕は部屋を飛び出して、『現場』へと向かった。

人だかりが出てきて、何人もの警察が周囲を警戒していた。
頭上のヒルトンホテルのプールから水着姿のまま何人かが見下ろしていた。

気づけばあらゆるビルやマンションのブラインドやカーテンが空いて、人影があった。

僕はなんだか、壮大な結婚式に迷い込んだような気分になった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?