第5回「演奏中に何を聞いているのか?」
みなさん、こんにちは。山の会です。前回から間が空いてしまい、申し訳ございません。
少し前の事ですが、8月27日に新宿ロックイン・ドラムフロアフェスにて山の会初のトークショーをさせていただきました。お店の楽器をお借りして実物を見ながら解説したり、音を聞いたり、比較したり。山本くんの論理的な解説はさすが、脱帽でした。牧人さんの山本くんとは違った切り口からの考察も分かりやすく面白かったです。なかなか好評だったようなので、またいつかできたら良いですね。
いつもこの記事を読んでいただいている方々からの反響があり、このようなイベントを開催できたのだと思います。お越しいただいたみなさん、ロックインのスタッフのみなさん、本当にありがとうございました。今後とも山の会をよろしくお願い致します。
(横山)
遠方から来て下さった方もいらっしゃって、我々のトークショー以外のイベントも盛り上がってましたね。先日、別のイベントにもお邪魔させていただきましたが、ネットではない、対面ならではの良さを改めて感じました。我々もそれぞれバランス良くやって行ければよいですね!
(山本)
呼んでいただけたのは有り難かったですね。お店のイベント全体が、なんというか暖かくゆったり進んでいて、居心地の良さがありました。
山の会のトークショーは、黒沢君にやたらと怖い人と紹介されたので、怖い人を演出しようと頑張りました。あっという間に時間が過ぎて、サビに行く前に終わっちゃったような感じ。お客さんとの距離が近いのも良かったですが、キョトンとした顔をして、説明とか演奏とか通じてるのかなぁと思うところもありました。我々の中では慣れ親しんだ展開が、わかりにくいところもあったりするのかなと。でも、総じて3人の違いや、その3人がなぜ集まったのかを考えてもらえたら、なにかしらヒントになるのかなと。記事も含め次に繋がると良いですね。
(山村)
あれは怖い人キャラだったのですか(笑)キョトン、ポカンとさせてしまった空気は確かに感じましたが...反省しときます。
(横山)
さて、今回は楽器の話から離れて、ドラマーの頭の中について話してみましょう。優れたドラマー達の演奏を見ていてよく感じるのは、個人技が素晴らしいのは勿論、それ以上にその時、その場の空気を大切にし、音楽を常により良いものに仕上げようとし、しっかり結果を出してくるという事。彼らは音楽の中に何を見て、どんな所を聞いているのでしょうか?それを紐解くヒントになるような話ができたら良いな、と思います。
(横山)
いや〜なんというか。他人の頭の中はわからないです。そして私はケンドリック・スコットにもマークジュリアナにもなれないので、言えることがちっともありません(笑)以上終わり。横山君お願いします(笑)
(山村)
あの...ですから...素晴らしいドラマーであるお二人から話を伺おうと...僕だって、他人の頭の中まで覗けるような超能力は持っておりませんから!!!
(横山)
のっけから飛ばしますね!斬られる回かも(笑)
このテーマは個人的にとても興味があって。究極的には、出ている音から出している音まで、聴こえるもの全てに万遍なく注意を払って、聴こえない所も想像して…と言う事だと思ってるのですが、これがなかなか難しい。なかなか話題にしないと思いますが、みんなそれぞれ色々な視点で聴いてると思うんです。以前、「最近やっとピアノの左手を聴けるようになった」という話をされた時に衝撃をうけて、それからよく考えるようになりました。
(山本)
うーん。周辺を話して中心を感じさせるのが良いのか...。メロディかベースか、はたまたクリックもしくインナークリックか...みたいなこともあるし、山本君が言うような「聴く」ということの意味みたいな面もあるし。アンサンブルという意味では、演奏している場所の、空間で混じり合ってる音を聴こうとはしますねぇ。ビートのポイントとしては、1拍目と2拍目のベクトルが交差して見えてくる3拍目の位置をつかめるように聞いている、とか。もうひとつ、そもそも「音はいつ聞こえているのか」ってのはいつも思いますよ。わさびみたいに、舌の上に付いた瞬間がオンなのだろうけど、味が伝わるのはもっと後というか...あぁ今回発言が長くなりますなこれは...。(山村)
例えば、アンサンブルの中に入った時に注意して聴くパートはありますか?勿論、全てを聴いているとは思いますが、特に気に留めている点があれば話を伺ってみたいな、と。
僕の場合は、例えば管楽器やギターとピアノ、ベース、ドラムというよくある編成の場合、まずピアノ+ベース+ドラムをリズムセクションとして束ねて意識して、その中でも特にピアニストのコンピングに注意を払うようにしています。ジャズのアンサンブルの中ではピアノとドラムは実はかなり役割が被る部分があり、ピアニストとの関係性はある意味ベーシストとのそれよりも気にしているかもしれません。ピアニストとドラマーのコミュニケーションがうまくいくとバンドのアンサンブルが立体的になりやすく、うまくいかないとお互いに潰し合ってしまい、音をベタ塗りしたみたいになってしまう事が多い印象です。ベースに関しては聴いているというよりは体で感じて、そのビートの上で自分自身がダンスしている、という感覚ですかね。
(横山)
む〜...勉強になりますなぁ...(笑)何を聞いて、どこに反応するかで全体の組み立てを意識するわけですなぁ。
山本君が言っていた左手の話しなんかはすごく高いレベルだと思いますが、たとえば初心者の時は周りの音なんて聞く余裕がない状態から、段々余裕や集中が生まれて全体を聞いたり、ともすれば客席にいるつもりになって聞く、なんてことを言う人もいますね。聞く能力が上がるというか。
アンサンブルで何を聞くかは、編成とジャンル、フロントの人のキャラにもよりますが、バンドは一体感が優先される場合が多いかと思うけど、セッションや仕事だと聞かない方、聞いていても合わせない方がいいとかもありますね。歌聞かないでキープして、とか、ソリストにあまり絡まないでとか。そういうのがさらに高度にリアルタイムに反応できるレベルになると、横山君の言ったような、どうすると立体的になるか、みたいな領域に行くのかな。こういうのは補足的に言い換えると方向変わっちゃうのかもですが。
(山村)
いえいえ、なるほど...と思いながら聞いておりました。
合わせるか合わせないかで悩む状況は結構有りますね。敢えて付いて行かず、距離と温度を保ったクールで大人な表現が音楽的に◎な場合も。音楽の全体像が見えている上でというのが前提ではありますが。そうでなければ、逆に音楽の流れを無視する事になりかねない...(笑)個人的にそういった質感や表現の仕方の勉強になったのはSly & The Family Stoneの「There's a riot goin' on」というアルバムですね。ファンキーだしセクシーだし熱量はあるのに、全体の質感は終始クール。演奏している自分と別に一歩引いた位置で聴いている自分が居る意識を持つというのもよく聞く話ですね。
(横山)
大変勉強になります、ありがとうございます。そうそう!と相づちを打ちながら読んでおりました。笑
コミュニケーション的な所になりますが、主にリハーサルの段階で、相手が自分の何を聴いてるのかを、聴いたりしますね。初歩的なところだと、ハイハットが欲しいんだな、とか。
(山本)
他のパートの人って、ハイハットを聴きたがる人多くないですか?リズムの縦の線が見えやすいからですかね?
あと、もしモニターを使う状況の場合、お二人は何の音をどれぐらい返してもらうとか、ある程度決めていたりしますか?会場、編成、諸々の状況によって変わるでしょうが。
(横山)
やっぱりそういう傾向ありますよね。
大昔に受けたアンサンブル形式でのレッスンの時に、ベーシストの講師の方が、ハイハットを聴けばいいんだよ、といった趣旨のことを仰ってた記憶が蘇りました。実際、硬めのサウンドのハイハットが喜ばれることや、ハイハットの音量を下げて欲しいと頼まれた事もあったりして、ますます確信に近づいたかもしれません。
ちょっと話がそれますが、ジャズにおけるハットの2,4拍はレイドバック気味に鳴らすのが基本ですよね。他ジャンルの人がそのレイドバック気味のハットを基準にドラムを聴いてるとしたら、ジャズドラマーは前ノリって言われがちな理由がそこにあるのかも…。
さて、モニターの話ですよね!前提として、ぼくはイヤモニ使ってない人なのですが。基本は無しでやってみて、距離や向きの影響を踏まえて、いつもより遅く聴こえる気がするパートを硬めに返してもらうくらいですかね。
もちろん、聞えないパートを足してもらったりはしますが、音量を上げたら聞こえるという事でもなかったりする、と言う事も加味しての、あくまで普通のことをやってるだけです。
(山本)
ハットに関しては、やはり打楽器アンサンブルによく見られる3レイヤーのうち、Cascara(刻み)の要素は物差し的な役割なので1番アテになるんじゃないすかね。キックやスネアはいろいろ動く場合もあり。
ジャズでハット...まぁコンピングやらブロークン・レガートをしていてもハットはトータルで定型を演奏していることが多い...のか。
モニターは、初見演奏の時はフロント中心だったり、曲がわかってる場合は、むしろモニターは極力鳴らさずバランス取りたいですね。またそれとは別で、自分の音について、バスドラムをもらうことが多いですね。なんでかなぁ。なんだかダイナミクスの変化のフィードバックが確実になって、演奏しやすいですね。ちょっと意味合い違ってたらすんません。
(山村)
なるほど、そう考えると分かりやすいかもしれませんね!
ジャズにおけるハイハットに関しては、それだけでセミナー1回分ぐらいの話はできそうですが...グルーヴをキープしている時は、基本的にライドシンバルはバンドのグルーヴをリードしていく感じでオントップ気味、ハイハットはグルーヴに深さと落ち着きを与える感じでビハインド気味、フェザリング(バスドラムを極小音量で4分または2分音符で踏む事)は全ての軸になる感じでジャスト、というように意識しております。なので、ハイハットを軸に聴いてしまうとものすごく早く感じるのかもしれませんね。上半身でやっている事はリズムを揺らす事も含めわりと動きがあるのに対し、左足は比較的動かないので、物差し的にアテになるという点では近いかと思います。僕のジャズの師匠はベーシストなのですが、師匠には「ドラマーとベーシストが息遣いを合わせるのはライドじゃなくてハイハット、そこでコミュニケーションを取るんだよ。」とよく言われたものです。
モニターに関しては生音で聴く感覚に慣れてしまっている事もあり、アコースティックな状況、エレクトリックな状況、共によほど聴こえないもの以外は何も返さない主義です。広めの会場でどうしてもピアノが遠く感じる場合などは輪郭を感じる程度にうっすら返してもらう場合も。この辺りは山本くんとほぼ同じですかね。音が飽和してしまうと辛いので、アコースティックな編成の場合はドラムがガツンと叩くとベースが消え、ドラムが引くとベースがグーンと前に出て聴こえてくるようなバランスを意識しています。基本的にモニターには頼らずバランスを取りたい、という点はみんな共通しているようですな。牧人さんのバスドラムを返す、というのはちょっと興味深いです。
(横山)
音楽の中で何を聞くのか、パートの話か、音量のバランスか、アコースティックなのかマーシャル三段積みなのか、ステージでのバランスの取り方なのか、ごちゃ混ぜですが、まぁそれが現実ですね。
ジャズ的なものを小さな箱でやる場合は、ドラムの音量は、生ピアノを基準にと言われたことがあるけれど。
一般的なポップス、ロックドラマーが、ウッドベースアンプ無しに合わせて演奏するドラムの領域とか想像し辛いだろうなとは思う。個人的には、まずそのバランスで音楽を演奏すべきだとは思うけれど。ステージ上、ベースやギターしか聞こえないような爆音環境では、飽和してからどう音を前に出すかという世界もあるだろうし(笑)なんか私、読んでる人にタメになる言い方できてないなぁ(笑)
(山村)
こういう言い方が適切か、相応しいかはわかりませんが、現代の前線で音楽をやってる以上、各々が自分で考えて経験積んで行くしかないのかなあ、とは思いますね。
PA、楽器、演奏のテクニック、あらゆるものが変化し続けてますから。最近はイヤモニの進化がすごいスピードで進んでますよね。ドライバの数が6つになったり8つになったり。
耳型に合わせた密閉型だけど、本体に穴が空いてて外の音が入るような仕組みのものが出てきたり。その一方で、位相の問題を解決するためにシングルドライバに立ち返ったり…。マイケル・ジャクソンがthis is itの中で、リハーサル中にモニターについてスタッフとやり取りしてるシーンがありましたが、永遠の課題とも言えるかもしれませんね。
(山本)
なるほど。横山君が言ったように、ステージ上で音が飽和しないっていうのは、ジャズやアコースティックに限らず、そうありたいなとは思いますが。結構大迫力な演奏でも、ステージ上はスカスカ、なんてこともありますね。今回の意図は、アンサンブルにおいて、どのパートをどの役割として聞くか、それによって演奏がより良くなるか、というところに集中したほうが良いのですかね?
(山村)
快適な環境作りは永遠の課題でしょう。とはいえ、ある程度の諦めも必要だったり...爆音の壁ができている状況であっても、変に張り合わず、何とか呼吸できる場所を探したいものです、個人的には。。
そうですね、アンサンブルの中における意識の置き方、というような方向に絞っていきましょうか。
(横山)
爆音の中でも呼吸できる場所...なるほど良い言葉ですね。
自分は基本、能天気にメロディ追いかけちゃうタイプなので、あまり燥ぎすぎないよう、他のパートを追い越さないように聞いてますね。複数の車で並走しながら、先頭車と並んでも追い越さないというか...。
(山村)
並走する、というのも良い表現ですよね。僕は並走しながらお互いの横の距離感も意識したりします。寄ってみたり、離れてみたり、しかし、くっつかず。
(横山)
速度(=タイム)を縦として、横の距離感は音量・音色・フレーズetc...って解釈でいいんですよね。こちらをしっかり聴いてくれてビシッと密着してくれる人、全然聴いてないような位置にいるように感じるけど、僅かなゆらぎに敏感な人、他のパートとのそういうやり取りが醍醐味みたいな所、あるなあ。
(山本)
そんな感じですかね。よく聴いて反応するのは大事だけど、引っ付き過ぎて団子状態になってしまうのもアンサンブルとしてはNGで、適度な距離、空間を保つのも大事じゃないかな、と。
あと、もう一つ師匠から言われていた事に「ドラマーは絵描き」というのがありまして。音楽やドラマーのスタイルによってはちょっと違う話になってしまうのかもしれませんが、アンサンブルにおいてドラマーの役割はただのタイムキーパーではなく、音楽全体に表情や色彩を与え、最終的な仕上げを任されている、というものでした。その為には全体を見渡して、それぞれのパートの役割、美味しさを引き出せるポイント等を考える必要がありますよね。その上で自分がどういったアプローチをすべきなのか、素材を活かすも殺すもドラマー次第と。これも今回のお題に繋がる意識の持ち方なのかな、と思います。
(横山)
なるほど。横山君のお師匠様の言葉となると、安易に比較対比できませんが、それと同じ意味で、私はドラムは額縁と思ってるところがあります。
美術館で絵を見ていた時に、通路から展示室に入って、人々の目がどこに向かうか、そこに何の絵を、どの位置に、どんな額縁で置いているか。キュレーターと呼ばれる人達の素晴らしい仕事を感じたことがあって。額縁はあくまで額縁なんですが、額縁の太さ、色、装飾など、それによって絵の見え方は随分と変わるんですね。ドラムもそういうところあるなと。言葉はある意味違うんですが、結局為すべきこととしては同じというか。そんなことを感じました。しかし、実際にはそこには相当の実力が必要というか、実際何をして良いかわからないという人も多いかも。深いですなぁ。
(山村)
分業だったり共同作業だったりするのもあって、色々な見方ができますね。
ぼくはインタビュー等で度々ドラムのスタイルをデザインに例えていて、そこにはアートとの隣接や、重複、対立といった側面も含まれているのですが、これはきっと同じことですね。以前、ケンドリックがドラムの役割をランプのシェードに例えて説明してくれた時もそう感じたんですが、音楽をやるには楽器ばっかりやってるんじゃダメだなとつくづく思います。
(山本)
何を聞いているか、というのは、即ち何をイメージしているかということですかね。あらかじめイメージを持って演奏に望む場合と、演奏の流れに応じてイメージを切り替えられる懐の深さ、引き出しの多さっていうのもありますなぁ。ちなみに、楽器以外っていうと、やっぱり美味しいカレーを食べるとか、そういうことですかね?横山君...
(山村)
食から学ぶ事は多いですよ。良い食は良い音楽と同じように感性を豊かにしてくれます!!
(横山)
私は20年くらい前に「グルメなんですねぇ〜。どれも美味しいじゃないですか、そんなに違うんですか?」とよく言われましたよ。横山君もお気をつけあそばせ!
(山村)
既に言われております...特に僕の場合は同じものを店を変えて食べ比べしたがる傾向があるので...
でも、僕にとっては大切な事なのですよ。音楽も楽器も近い条件で比較しないと分からないじゃないですか...
(横山)
わはは。真面目に答えていただきすんません(笑)ていうか、私は食で人生変わっちゃったりしてるので、痛いほどわかります(笑) 料理もまた演奏に近いですね。材料、調理、盛り付け、結果としての味。そして、誰と食べるか...あっ。横山君とカレー食べると美味しいですよ!博士とはハイボールかな。今回、お二人のファンにぬっころされそうな発言ばかりですいやせん(笑)
(山村)
この3人だったら何食べても楽しいですよ!多分、美味しくない店は選ばないでしょうし!(笑)
冗談はさて置き...音楽の中でもドラムだけを抜き出して聴くのではなく、アンサンブルの全体像や他のパートとの関わり方、背景にあるもの等を理解する事で見えてくるものが有ると思うのですが、音楽そのものにも同じような事が言えるのかな、と。音楽以外の世界を知る事で、音楽や楽器に対して今までと違った見方ができたり、思いがけない所から受けた影響がプレイに反映される事も有るかもしれませんね。
...と、無理矢理まとめたところで、今回はお開きとしましょうか。
(横山)
あぁなるほど!演奏中に何を聞くかというところから、音楽の聞き方へ、素晴らしいまとめですね。ごっつぁんです。
(山村)
今回も勉強になりました、みなさまありがとうございました!
(山本)
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