低身長の人に対して、無責任に「大丈夫バイクなんか気合や工夫で乗れる!」って言っちゃう人を見て思う事

 筆者はだいたい身長172センチくらいである。
 運動は苦手だけど野球や空手の経験もあり、筋肉はまあ人並についてる方だと思う。デブだけど。
 さらに言うと、4歳くらいから10歳までモトクロスバイクに乗っていた経験もある。この経験が意外と大きくて、大人になってから初めてバイクに触れましたっていう人に比べると、知識も経験も圧倒的なアドバンテージがある。
 そんなこんなで、今現在乗っているZXR400を特段デカいと思ったことはないし、WR250に乗せてもらった時も「シートが高くて乗れない!」なんて微塵も思わなかった。身長130センチくらいの頃に、シート高840mmくらいのKX80に乗ってたんだから当然だ。
 また、クローズドな場所で友人にGSX-R1000やR1、S1000RRを貸してもらったこともあるが、大きさや重さの面では特になんとも思わなかった。

 けれども、世の中にはそういう人だけではない。
 身長150センチ未満で、運動経験がない女の子だって、バイクに乗りたいと思う人は当然いる。実際、筆者の友人にも、身長150センチ未満で中型バイクに頑張って乗ってる女の子が2人ほどいる。でも彼女たちは身長のために、殆ど選択肢がなかった。結局1人はトリッカー、1人はグラストラッカ―を選んだ。

 そういった「低身長だけどバイクに乗りたい!」っていう人たちに

「大丈夫、気合があれば乗れるよ!」とか
慣れの問題だよ!」とか
厚底+ローダウン+突き出しでいけるよ!」とか
「自分は身長145ですけど、大型持ってます! だから大丈夫!」

みたいなことを言うのは簡単だけど、その言葉に責任持てるのか? と常々思う。何かあったら大怪我はもちろん、最悪死ぬんだぞと。

 低身長問題になると必ず飛び出す
「アンコ抜き」「厚底」「突き出し」「気合・気持ち」。

 アンコ抜きは特に問題はないと思うけど、理屈を理解せずにただスポンジを切るだけだとかえって不安定になる(股が開いて支えがきかなくなる)。

 厚底はブレーキペダルからの感触が分かりにくくなるし、シフトペダルの下に靴が入りにくくなる。おまけに、咄嗟に地面に足を着いたときや、デコボコのある路面に足を着いたときに足首をくじきやすくなる。

 突き出しなんてのは、本来は1mm単位でセッティングする繊細なもの。数センチ単位で変更したら危険すぎる(10センチ突き出したGSX400Eに無理やり女の子を乗せてたバカがいて閉口したことがある)。

 気合なんてもってのほか。気合や気持ちでバイクに安全に乗れるなら、何万もお金を取るクソみたいなライテクスクールにあんなに生徒が群がらない。そういうことを言う奴は、勝手に気合で走って気合で死ぬといい。

 バイク乗りとしては「どうしてもバイクに乗りたい!」という想いがわかるから、それを否定したくないという感情は理解できる。俺だってそう思う。バイクの楽しさを色んな人に知ってもらいたいと感じるのは当然だ。

 けれども先輩バイク乗りならばなおのこと、そこで『安全』を優先すべきじゃないのか。
 「あなたはバイクに乗りたいと憧れがあるかも知れないけど、実際にはこんな危険があるよ、リスクがあるよ」と、ありとあらゆるリスクを提示すべきだ。なぜなら、バイクに乗ったことがない人は、バイクに乗る危険性やリスクなんて知らないのだから。想像はできても、実感が伴ってなければ、人はどうしても願望やイメージを優先してしまうものだ。

 余談として例を挙げるが、免許取り立ての小柄な女の人から「ツーリングに行きたいから連れて行って欲しい」と頼まれて、俺が提案したのは”高速道路を主に使って片道50キロほどの旅程”。1時間ほどのルートだ。
 言われた本人や、周囲で聞いていた「バイクに一度も乗ったことがない人」は大層驚いた様子で『免許取り立てなのに高速なんて怖い、危ない。お前は慣れているからその恐怖や危険性が分からないんだ』と責め立てられた。
 しかし高速というのは信号待ちも右左折もないし、歩行者もいない。走り出したら乗りっぱなしなので、乗り慣れてない人からしたら却って楽で、安全で、疲れない(風を切る疲れや暑さ寒さは別)。
 それを説明して何とか納得してもらい、実際にツーリングをしたら、本人から「お前の言うとおりだった、やってみないと分からない」と言われた。
 乗ったことがない人には何が本当に危険で、疲れて、辛いかが分からない。
 それと同様に、本当に楽で楽しくて充実したライディングとは何なのかも分からないのだ。

 話を戻す。

 あらゆる危険性を説いてあげて、それで本人が「やっぱやめとこっかな……」となるなら、やめといたほうがいい。逆に、そういったリスクを聞かされても「それでも乗りたい!! リスクは承知!」って言うならば、そこから具体的にどうしていこうかとアドバイスをしてあげればいい。

 耳障りの良い話ばかりして、裏にあるリスクをきちんと相手が理解するまで説明しないのは、詐欺の手口と同じだ。

 ちゃんとリスクを説明されないまま、やったあ自分もバイクに乗れるんだ! と夢を見て免許を取った人が、いざ公道を走って死んだ時、どうするのか。「自己責任だから」って言えるのか? それこそ詐欺の手口と同じだ。

 こういうことを言うと「ネガティブなことばっかり言うな」「水を差すようなことを言うな」という意見がありそうだが、むしろ現実を知らずに夢を見ている人には、先達として水を差してやる義務があると俺は思う。

 長年バイク通勤をしてきた俺だけど、何度もヒヤッとする場面に遭遇してきた。「バイクに慣れてない人なら衝突していたかも」「足が着かない子なら転倒していたかも」という局面は数えきれない。

 例えば投資。不動産投資やFXなどを考えて欲しい。それらは、失敗しても金を失うだけで、即死ぬわけではない。にも関わらず様々な注意喚起があり、みんな「なんとなく怖いから」とアレルギー反応を起こす。そんなうまい話があるものかと身構え、どれだけメリットを説かれても心のどこかで疑うだろう。
 なのに、失敗したら即命を失う危険性があるオートバイのことだと、何故無頓着になってしまう人が大勢いるのか、理解に苦しむ。

 「不動産投資は儲かるよ! 知識がなくても気合でどうにかなる!」
 「FXは楽しいしみんなやってるから安全だよ!」
 「私も先物やってるけど死んだことないよ!」
と勧めてくる人がいたら、どう思うだろうか。

 筆者の友人もつい最近バイクで死んだ。高校時代からバイクを乗り回していた、体格的にも充分な30代の男だったが、あっけなく高速で中央分離帯に激突し、結婚3年目の妻と2歳の長男を遺して死んでしまった。

 バイクで人は死ぬのだ。

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