マンション投資のウソ・ホント その3 「マンションは売りたいときには売れない」編

 この記事も3回目となりました。
 第1回にも書きましたが、この記事は以前筆者がガガジンというサイトに投稿したものを加筆修正したものです。

 今回はラスト、損しかないマンションなんか売っちゃえばいいんじゃね? 編である。

 あなたのマンション投資は赤字に転落しました。マンションを持っている期間が長いほど赤字が増えます。 2000万円を金利2.8%で30年フルローンを組んだ場合、完済する頃には金利を含めて2960万円ほどを払う計算です。ワオ! 
 しかもこれはずっと入居者がいるという前提の話。部屋が空室になればその間は丸々赤字です。統計上、都内のワンルームは平均2~3年で退去してしまうという結果が出ています。退去となれば、部屋のクリーニングや鍵の交換などで最低1か月は入居者がいない状態になります。

 おまけに1か月で次の入居者が決まることは少ないです。だって入居希望者は内見をして、条件について交渉をして、保証会社や連帯保証人の承認ももらって、契約書を交わして、それでやっと入居になるのですから。まあ最短2か月は空室と思った方がよいでしょう。家賃85000円なら二か月分で17万円の赤字です。
 ものすごく雑な計算をしてみます。ローン返済期間30年のうち、2年で入居者が退去して、そのたびに17万円の赤字が出たと仮定すれば、これだけで255万円の赤字です。

 しかも所有している部屋の設備が壊れた時の修理費用も払うんですよ。
部屋のエアコンが壊れました。はい5万。
給湯器が壊れました。はい10万。
入居者が退去したので壁紙を張り替えます。はい15万。
換気扇が壊れました。3万。
フローリングが古くなって割れたので張りなおします。20万円!

 さあて、営業マンの言うことは全部ウソ! 赤字収支が続いてどうにもならないことが、夢見がちなあなたにもわかりました!
 さあどうしますか? 赤字しか生まないマンションなら売ればいいじゃないかって?

 ところで、マンションってどうやって売るんですか?

 マンションを売ろう! と思い立ってすぐに売却できる人なんていません。メルカリで服を売るのとはわけがちがいます。

 マンションはまず売り出しをして、買いたい客がつくのを待つしかありませんが、自ら直接売り出しができるのは基本的に宅建業者(不動産業者)だけです。(最近では楽待のようなポータルもあるにはありますが……)
 でもあなたは不動産業者に騙されて(業者の言う事を鵜呑みにして)マンションを買った結果失敗してしまったのです。売却するにしたって、不動産業者のことなんて信用できません。八方ふさがりです。

 そんなことを考えていたらある日電話がかかってきました。

「突然のお電話すみません、ABCのもつなべと申します。〇〇様がご所有されている〇〇亀戸の件でお電話したんですけれども。
 弊社は都内で不動産の仲介をやらせていただいている会社なんですが、私のお客様で、都内で中古のマンションをいくつか買いたいと探しておられるお客様がいらっしゃいまして。
 その方とある会社の経営者の方なんですけども、かなり事業が儲かっておられるらしく、ご予算8000万円程度で、都内のワンルームを2〜3件購入なさりたいそうなんですよ。
 〇〇さまのような投資家さんではなく、節税目的の方でして、相場より安い金額で買うと利益が出て節税にならないもんで、むしろ相場より高く買いたいということなんですよ。あやかりたいもんですね。
 そこでですね、〇〇さまのほうで、もしも金額次第でご売却をご検討頂けるようなら、是非一度ご紹介だけでもさせて頂けないでしょうか」

 気付いたら彼と話し込み、あれよあれよと言ううちに売却の紹介をすることになってしまった。
 しかしあなたはどこか、これで楽になれるという気分すらしているのです。普段は知らない番号からの電話は取らないようにしているあなた。しかし今日はたまたま出てしまった。
 それをあなたはこう思いました。

「これも何かのご縁、巡りあわせかも知れないな」

 人はそう思い込んで、自分を正当化するんです。
 ご縁っちゃあご縁ですね。縁にも良縁と悪縁がありますが。
 さあ、そんなこんなで今日は仲介会社の彼との値段交渉です。


 値段は売主(うりぬし)であるあなたの言い値で結構です。いくらで売りますか? えっ? 「2000万円で買ったんだから2200万円で売りたい」?
「東京は不動産が上がってるんだろう」って?
「不動産は買った金額より高く売れなきゃ意味がない」ですって?

 はは。そんなのは遠い昔のバブル期だけの話です。
 今時、専有面積の狭いワンルームや1Kマンションが新築より高く売れるわけがありません。常識で考えてください。買った時より高く売れる「モノ」がこの世の中にありますか? 常に上がったり下がったりしている株や為替とは違うんですよ。

 そうそう、ひとつ言っておきます。マンションを売るときは、マンションを買うときに借りたローンの残額(残債)を一括返済する必要があります。金融機関はその担保に金を貸してただけですから、担保を手放す人に金なんか貸し続けてくれやしませんよ。(←これは本当です)

 えっ、「残債が1800万あるからせめて1800万くらいで売れれば手を打ってやろう」って? 馬鹿言っちゃいけませんよ(笑)
 現状の家賃が86000円、管理費・修繕積立金が合わせて16000円。
 つまり差し引きした手取りの家賃が70000円。年間で84万円。
 1800万で割れば4.6%。築15年のワンルームを実質利回り4.6%で買う人なんていやしませんよ。ちょっと前なら、バカな中国人なら買ったかもしれませんがね……。
 だいいちそれ、新築で買ったとき(家賃86500*12/20000000=5.19%)より利回り低いじゃないですか(笑)
 
 亀戸ですと、いいとこ5.5〜6%ってとこでしょう。
 6%だと……1400万円です。まあそんなもんですよ。1400ならそこそこ現実的な金額だと思いますよ。

 えっ、「買い叩くな」って? 勘弁してくださいよ、うちは仲介手数料で商売してるんですよ。仲介手数料は売買価格が高ければ手数料も上がるんです。値段を安くしたってうちは損をするだけですよ。
 うちだって2000で売れりゃ712800円の手数料がもらえるところ、1400万だと518400円ですからね。できることなら2000万で売りたいですよ?

 えっ、「残債との差額400万円はどうすればいいのか」って?
 そりゃ……貯金とか定期預金とか、何なら親戚中から金を借りればなんとか工面できるんじゃないですかね?
 無理ですって? どうにも無理なんですか? いま400万円用意すればさらにローンを2000万以上払わなくて済むんですよ?
「無い袖は振れない」……ですか。では売却は無理ですね。

 毎月家賃収入が70000円でローンが85000円、毎月マイナス15000円だから年間で18万。これに固都税を加えて23万。空室になれば40万近くが年間で赤字なんですよ。それがこの先ずっと続きますよ。
 家賃はこれからもずっと下がり続けます。そうすれば年間の赤字は50万を超えますよ。

 〇〇さん、年収おいくらですか。600万? 手取りで520万くらいですか。そこからマイナス50万ですよ。年間50万あればなにができますか?
 奥様と旅行に行って、美味しいものを食べたり、お子さんの学資保険や積み立てだってできますよね。
 第一あと何年働けるんですか? ローンが終わる前には定年ですよね。年金でローンを払い続けるんですか? きついですよ。

 はい。覚悟が決まりましたか?……なんとかして400万ご用意いただけますか? 分かりました。それでは売買契約書をお持ちしますので、免許証と認印をご用意ください。



 こんなストーリーも、日本の至る所で毎日見られる光景です。

 しかしこの不動産業者、嘘をついていました!
 ウソもウソ、真っ赤なウソ!
 本当はこの物件、利回り5%前後で売れるのです。(上記の会話内容の中には、他にも嘘が織り込んであります)
 5%なら売買価格は1680万円です。1400万円との差額280万円はどこに消えるのでしょうか?

 言うまでもありません、この業者の利益です。自分は善良な第三者のフリをして、利益を乗っけているのです。

 ですがこの業者が売るのは客付け業者です。どうやら販売営業力は無い、物上げ業者だったようです。物上げ業者は客付け業者に、客付けしてくれたお礼として4〜50万円くらいのバックを払うのでしょう。
 
 物上げ業者の利益は、売主からもらった手数料や契約にかかる諸経費などを清算して、トータル250万円程度というところでしょうか。
 ほら! 歩合をもらった営業マンが嬉しそうに六本木で飲んでいますよ。高いボトルを入れちゃったりして。

 そして客付け業者の転売先も、販売業者でした。
 ほら見てください。
 販売業者が1680万円で買ったマンションを今……どこかの「たまたま電話に出てしまった、将来に不安がある、善良で人の好いサラリーマン」に2100万円で売り付けました。
差額の320万円+仲介手数料は……もう言うまでもないですね。販売業者の利益です。

 さあ、金銭消費貸借契約が終わったようです。買った人は興奮しているのか、印鑑を持つ手が震えています。
 思い出しませんか? マンションを買ったときのあなたも、あんな顔をしていましたよ——

 こういうサイクルで投資用マンション市場は出来上がっています。こういう構図を、悪徳不動産業者が寄ってたかって、無知で善良な人を騙していて汚いと考えるか、または、知識もないくせに身の丈に合わない欲を持って投資に手を出した人の自業自得だと考えるかは、あなたの自由です。
 
 なお筆者自身の個人的な考えとしては、家賃収入で所得を増やして生活を良くしたいとか、不労所得への憧れや、自分に何かあった時の不安というのは気持ちとしては共感できるものの、結果的に自分の身を滅ぼしてしまうならば、それは分不相応な欲望だった考えるのが自然かと思います。


閑話休題。
 先ほどのケースの話に戻しましょう。先ほどの人は、400万円を用意する体力があったから、持ち出しをして売ることができました。
もしそれがなかったら?

 残債の額はゆっくりゆっくり、減っていきます。毎月ちょっとずつ元金払ってますからね。でもそれよりももっと速いスピードで、マンションの売却価格は下がっていきます。マンションの奴隷として、塩漬けになったマンションのローンを支払うために働くのです。

 なあに、あとほんの15年ですよ。



 ……あ、ちゃんと売る方法について解説してませんでしたね。
 簡単ですよ。「野村なんちゃら」とか「三井ホニャララ」とかの「本物の大手の不動産業者」4社くらいに相見積りさせて、同時に売り出させればいいんです。多少時間はかかりますが確実です。本当の相場で売却できますよ。

 まあとにかく、自分のところにだけひょっこりウマい話が転がり込んでくることなんてないということです。

 長くなっちゃいましたけど、今回はここまで!
 終わり! 閉廷! 以上! みんな解散!

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