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2023年読書会で読んだ文学作品リスト

こんにちはこもです。
文学サークル「コルク佐渡島の文学を語ろう」では毎月、1冊の課題本をテーマに読書会を開催しています。
わたしは読書が好きなので課題本以外にも文学を読みますが、文学サークルで語り合った作品はどれも印象に残っています。
読書は一人でも楽しめますが、みんなで読むともっと楽しい!誰かと文学を語り合いたくなったら、ぜひ文学サークルに遊びに来てくださいね!
では、さっそく2023年の課題本を紹介します。

『孔子』井上靖(1月課題本)

1月課題本。
「背筋が伸びそうなので年始に読んでみよう」
孔子が「学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆し」と言ってるし、本から学んだことをよりよく生きることに活かしたい。
ちなみに、1995年発売当時に60万部売れたそうです。こういうタイプの本がそれだけ売れる時代、すごい。

『回転木馬のデッドヒート』村上春樹

2月課題本。
読書会を主宰するサディが『』
「はじめに」の解釈で非常に盛り上がった読書会。
私が惹かれたのはこの部分。
わたしが好きな文学は、自己表現のツールではなく、書き手の魂のなかから絞り出された濃厚な何かなのだろう、と感じた。

少なくとも文章による自己表現は誰の精神をも解放しない。もしそのような目的のために自己表現を志している方がおられるとしたら、それは止めた方がいい。自己表現は精神を細分化するだけであり、それはどこにも到達しない。もし何かに到達したような気分になったとすれば、それは錯覚である。人は書かずにいられないから書くのだ。書くこと自体には効用もないし、それに付随する救いもない。

『回転木馬のデッドヒート』村上春樹

小説『雨やどり』の中に出てくる「セックスが山火事みたいに無料だったころのこと」の解釈に参加者たちで頭をひねったもの楽しかった。

『ユービック』フィリップ・K・ディック

3月課題本。
SF小説は苦手であまり手に取らないから、読書会くらいでしか読む機会がない。今回も不安でいっぱいだったけど、読み終わったらSFのおもしろさよりも、じんわり寂しさが広がって昔を思い出しました。
そのときの感想noteはこちら→

『ストーナー』ジョンウィリアムズ

4月課題本。
2023年課題本の中でいちばん好きだったのがこの本。
貧しい農家で育った少年が、青年、老年を経て人生を終えていく話。
少年ジャンプの真逆にあるような作品です。
普通の人の普通の人生は、華やかなこともなく、ほどほどに幸せで、ほどほどに不幸せ。小説や映画で見る「特別な存在」と自分を重ねてしまうわたしには、残酷な現実を見せつけられた感じでしたが、読了後は温かくてやさしい気持ちになりました。
ささやかな日常の幸せに気づける技術を身に着けたいなぁと感じました。
もう一つ、心に残っているのが文章の美しさ。翻訳を担当された東江さんは緩和ケアを受けながら亡くなる直前まで作品に向き合っていたそうで、その仕事へのストイックさがストーナーと重なりました。

『街と、その不確かな壁』村上春樹

5月課題本。
話題の村上春樹さんの新作をピックアップ。
村上春樹作品でどれが好き?と聞かれたら、迷わずに選ぶのが『世界の終わりと、ハードボイルドワンダーランド』。それをリメイクした本作。
作品を読み終わったあと、「村上ワールド」を堪能した満足感はあったのだけど、大学生の頃に受けたあの衝撃はありませんでした。でもそれは作品への落胆はなくて、村上春樹さんへの親近感に近い感情。
ずっと抱いている「書かざるを得ないもの」を表す言葉をまだずっと探しているのかもしれないなぁと感じました。

『性的人間』大江健三郎

6月課題本。
2023年3月に亡くなった大江さんの作品で読書会を開催しました。
『性的人間』は大江さんの初期作品。
わたしはスワッピングとか痴漢とかの性描写がちょっと苦手で「愉しむ」ことがやや難しかった1冊です。
性的嗜好という自分の変えられない部分に対して、ネガティブな意識をもっている場合、自己受容の困難さにもつながるのだろうと思う。
「アブノーマル」な性的嗜好と世間一般で言われているものも、ノーマルとアブノーマルの境界線はあいまいなもの。「それは変だよ」と社会の規範から指を指されるものって性的嗜好以外にもいろいろあるし、自分がそれを理解できなくても、「否定しない」は心がけたいなと思いました。

『ヒアアイアム』ジョナサン・フォア

7月課題本。
9.11後のニューヨークを描いた小説『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の著者フォアの作品。
フォアの自伝的小説とも言われていて、ニューヨークで暮らすユダヤ人家族とイスラエルの大地震の2つの物語がクロスして語られます。
(フォアはアメリカ系ユダヤ人、祖母はホロコースの生還者、フォア自身は2014年に10年連れ添った妻と離婚)
夫婦の関係性が少しづつ変化していく様子や、子どもとの関係、フォアの表現力のおかげで語りたいことが続出の読書会でした。
私が印象に残っているのはこの部分。愛して結婚した二人がこうなっていくのをじわじわ実感するのはしんどいだろうな。

『すべての、白いものたちの』ハン・ガン

8月課題本。
ブッカー賞を受賞した『菜食主義者』の受賞時インタビューで、「執筆活動をする理由は?」という質問に対し、「私にとって質問する方法であり、自分の質問に対する答えを探す過程だった。私はできるだけ質問の中に留まろうと努力した。時には苦痛だったし、きつかった」と語っているのを読んで、数カ月前に読んだ村上春樹を思い出しました。
『すべての、白いものたちの』は世界10か国以上の言語に翻訳・出版されています。ハンガンの実体験をもとにしているそうです。
「私」と、私が生まれる前に死産になった「姉」との対話を通して、私が私の存在を認めていく話。もし姉が生まれていたら自分が存在していないかもしれない。偶然の重なりによって「たまたま」生まれてきた私。
私が「私」の立場なら、母親は私ではなく姉を求めているのではないか、私は姉として生きるべきなのかと悩んで、結果的に生きるのを辞めたくなってしまいそう。だからこそ、ハンガンは「自分を救うため」に小説を書いたのかもしれません。それを思ったらあまりに悲しくなったのですが、「誰かの死(犠牲)によって自分がここにいる」という状況はきっとある。
すべてつながっている、と思うからこそ、すべてのものを因果関係論ではなく、カートボネガットのように「そういうものだ」と受け入れることも生きる上で大切なのだろうと思いました。

『三島由紀夫論』平野啓一郎

9月課題本。
大好きな三島由紀夫を大好きな平野さんが解説した贅沢な1冊。
『仮面の告白』『金閣寺』『英霊の声』『豊饒の海』の4作品を平野さんが20年以上に渡る調査、分析をして導き出した三島の人生と苦悩。

フランス料理のフルコースを4ターンしているような内容で、一度に読み切る力が私にはまだなく、前半の『仮面の告白』『金閣寺』の解説のみ読了。後半は2024年に持ち越して読了の予定です。
来年は「三島由紀夫論」を右に置きながら『英霊の声』『豊饒の海』をじっくり読もうと思っています。

『ハイフィデリティ』ニックホーンビイ

10月課題本。
前月の三島由紀夫の反動だろうか、というくらいに軽やか。作品内に出てくる音楽リストを聴きながら、楽しく読めるラブコメディです。
読書会では男女で主人公ロブに対する感想が異なったが面白かったです。男性は「これぞ男」の声が多かった一方、女性からは若干呆れ気味の感想が聞かれて、まるで小説がそのまま現実になったようでした。
音楽好きなメンバーの「このセリフにめっちゃ共感」ポイントに全然共感できなくて笑ってしまった。
映画版も小説をとてもうまく再現していておすすめ!

火曜日の夜、レコード・コレクションの整理をはじめる。感情的なストレスがたまったときの常套手段だ。そんなことをして夜を過ごすなんて退屈のきわみだと言う人がいるかもしれないが、ぼくはそうは思わない。これは、ぼくの人生そのものだ。人生のなかにもぐりこみ、腕を奥までつっこんでじかに触れられるなんて、すばらしいことじゃないか。

『ハイフィデリティ』

『コンビニ人間』村田沙耶香、『ハンチバック』市川沙央

11月課題本。
「芥川賞受賞の女性作家」というテーマで近年受賞作からこちらの2作品をピックアップしました。
コンビニでアルバイトを続ける32歳独身女性を主人公にした『コンビニ人間』、重度障碍者の性を描いた『ハンチバック』。
どちらも「社会から見えない存在だった人・ものを浮かび上がらせた」作品でした。見えないことは存在していないこととではない、という事実を認識できて、これこそが文学の素晴らしさだなと感じました。

『すべての美しい馬』コーマックマッカーシー

12月課題本。
2023年3月に亡くなった作家、コーマックマッカーシー。20世紀でもっとも偉大な米国人作家4人のうちの一人に挙げられていますが、日本での知名度はそんなに高くないのではないでしょうか。
カウボーイに憧れる青年がテキサスからメキシコに旅に出て、夢破れて戻ってくる話で、構造は分かりやすい。
分かりやすい物語のはずなのに、場面展開が唐突で説明もあまりないため、状況把握が少し難しい。まるで不器用な漢の話を聴いているようです。
話のなかで注目したのは「馬」。とにかく馬を愛でる文章がたくさん出ていきます。

ジョン・グレイディはまるで馬の一部が自分の内側にあって息づいているかのように自信も馬と同じリズムで呼吸しているのに気づき自分でもなんと呼んでいいかわからないより深い共謀関係に入っていった。

『すべての美しい馬』

そのとき彼はこの国で死んだ父親のことを思い馬の上で裸で雨に濡れながら泣いた。

『すべての美しい馬』

「馬」は何のメタファーなのか。自由や権力など、いろいろな解釈ができそうで、他作品も読んで考えたいなと思います。

2023年の読書会も幅広い作家の幅広い作品を読めて楽しかったです。
2024年もすばらしい文学作品に出会えますように!

文学サークルの紹介はこちらから
https://www.sady-editor.com/n/nea9170eaccee

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