脊椎脊髄外科専門医より、胸腰椎外傷の診察の仕方
歩いてやってくる胸腰椎外傷の鑑別
交通外傷、スポーツ、転倒での外傷を見たら、
①腰椎捻挫、胸腰椎打撲傷
②椎体骨折
③横突起骨折
④椎間板ヘルニア
⑤腰椎分離症
などを考える。
診察手順は
・受傷機転
・下肢への放散痛、しびれの有無
・圧痛部位の確認
・下肢の診察
受傷機転で重要なのは、
直接外力(腰背部打撲)なのか、屈曲や伸展などの間接的外力(介達外力)が加わったのか、どの程度のエネルギーなのかです。
腰背部を直接打撲したなら横突起骨折を、軸圧方向の介達外力が強ければ椎体骨折や椎間板ヘルニアを疑います。
追突事故などの過屈曲・過伸展では腰椎捻挫がほとんどですが、高エネルギー外傷では不安定骨折も注意しましょう。
体動時に強い腰背部痛があれば骨折を疑います。
腰背部正中に叩打痛があれば棘突起骨折か椎体骨折を、左右どちらかに痛みがあれば横突起骨折を疑います。圧痛が肋骨にあれば肋骨骨折を、圧痛が左右どちらかの下位腰椎にあれば分離症も考えましょう。
腰椎捻挫やヘルニアでは、明確な圧痛点がないか、全体的に痛い場合が多いです。
<画像について>
骨折は常にあると考えておきましょう。
レントゲン側面で圧迫骨折、正面で横突起骨折はわかります。
動態撮影(座位側面と仰臥位側面)を行うと椎体骨折の診断に有用です。
CTも、もちろん有効です。
ベースメーカーが入っててMRI撮影できない場合は、側臥位で腰を丸めた時と伸ばした時で撮影すると、新鮮椎体骨折の診断がしやすくなります。
MRIもレントゲンやCTでわかりにくい椎体骨折の診断に有効です。
T1WIで低信号・STIRで高信号だと新鮮骨折を疑います。矢状断が見やすいです。
<専門医への紹介のタイミング>
・腰椎捻挫、胸腰椎打撲傷
紹介不要です。
・椎体骨折
不安定性と神経症状の有無が大事です。
下肢麻痺や膀胱直腸障害があれば緊急手術になりますので専門医への紹介しましょう。
不安定型骨折は、椎体後壁、棘突起か後方靱帯組織内損傷を伴う骨折、圧潰が強い骨折などです。
椎体の圧潰が50%以上、後弯角20度以上では専門医に相談が良いです。
・横突起骨折
原則的には専門医紹介不要です。しかし、高エネルギー外傷では内臓損傷を伴っていることもあります。上位腰椎では腎損傷の鑑別のためにCTや尿検査を、下位腰椎では骨盤損傷を伴うこともあり、骨盤骨折では専門医に相談しましょう。
・椎間板ヘルニア
下肢麻痺や膀胱直腸障害がなければ緊急性はありません。
・腰椎分離症
ヘルニア同様、外傷に起因する神経症状の増悪がなければ後日専門医へ相談がいいでしょう。
<治療について>
救急ではNSAIDsやアセトアミノフェンがメインになります。
安定型の椎体骨折ではコルセット装着による保存療法を行います。2-4週で痛みは徐々に改善し、3-6週間で骨癒合が得られます。
横突起骨折も、原則は安静と疼痛コントロールになります。急性期は腰痛ベルトを装着し回旋動作を控えるよう指導します。骨癒合が得られないこともありますが、痛みは良くなります。
⭐︎椎体骨折追記⭐︎
脊椎の局所後弯を予防するため、急性期に手術をすることもあります。痛みが強くて自宅生活が辛い場合は、入院→安静度ベッドフラットでなるべく椎体高を維持→超急性期の椎体形成術…となることもあります。
骨粗鬆症が背景の骨折では20%に続発性骨折が起こりますし、困ったらとにかく脊椎専門医へご相談ください。当直中は、下肢麻痺や膀胱直腸障害といった緊急性なければ、入院させて翌日コンサルトでもokです!
骨粗鬆症を背景とした椎体骨折はコルセットをつけて過ごしても、治りきらないことがあります。腰椎部で2割、胸腰椎移行部で3割程度と言われています。
「コルセットだけでは治らなそう」な画像所見や患者さんの特徴を述べたいと思います。
下記の項目があればみんながみんな治らないわけではありませんが、総合判断ですね。
尚、手術しないで様子をみる場合は、椎体が圧壊して脊柱管が狭窄した時に神経を圧迫して遅発性の下肢麻痺やしびれなどが起こる可能性も説明が必要です。
【新鮮骨粗鬆症性椎体骨折の危険因子】
◾️患者要因◾️
75歳以上
女性
重度骨粗鬆症 t score −2.8未満
ステロイド使用
肥満 BMI>25
認知症
◾️画像◾️
胸腰移行部
大きな初期圧壊 25%以上
middle column損傷
後壁損傷
T2高信号限局、低信号広範
T1低信号広範
初診時、1ヶ月で不安定性あり
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