吾妻ひでお先生の『失踪日記』とぼくの『東京滋賀間ママチャリ廃墟巡り』

ぼくは『失踪日記』からの、吾妻ひでお先生ファンだ。先生のファン界隈では完全なる若輩者だろう。でも、ぼくはあの作品が好きで、憧れていた。日本を身ひとつで旅がしてみたいと思ってた。

探偵ファイル記者時代、ボスが廃墟巡りの旅をする企画をしないかと言い出したので、すぐさま用意を整えた。

ぼくは都庁前から、千葉の雄蛇ヶ池までママチャリで突っ走り、女子高生が殺害された廃ラブホに忍び込んだ。気が済んだら千葉中央駅を目指し、ひとりラブホをきめた。すべてUstream配信で生放送した。

ラブホのベッドに寝転ぶと、運動不足だったぼくの太腿はガクガクに痙攣していた。同時に楽しかった。翌朝金曜日に、僕はボロボロの体で東京に帰った。

配信を見たボスの評価は上々だった。本番は次週頭からである。それのゴーサインはもらったようなものだ。

土曜日、新幹線に乗って関西に帰郷。旧友たちと最後の挨拶になるかもと思いつつ親交を深めると、父母のご飯を食べて覚悟を決めた。日曜日、ぼくは東京に戻った。そして、運命の月曜日、ぼくは東京から長崎の軍艦島を目指して、ママチャリで旅に出た。

旅自体は、東日本大震災で中断。旅路は東京から滋賀まで終わった。横浜を通り、箱根を越えて、静岡、名古屋を横断し、岐阜から滋賀に入ったところで震災が来た。十二箇所の廃墟を巡った二週間の旅。その思い出は今も楽しい思い出として心に残る。

何度か死にかけた気もするけども。だからこそ、楽しかったように思う。それを体験できたのも、吾妻ひでお先生と同じ時間を生きることができたからに他ならない。作品を読んでいたからに他ならない。

ゆえに感謝。ゆえに感謝なのである。

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