見出し画像

NMNの効果④ 高齢の方が効く理由

マウスの実験ですが、NMNは年老いた方が効果が高いということが分かっています。

NMNを摂取すると細胞内でNAD+を増やしてDNAの修復を行うことが若返りメカニズムのポイントでしたが、これまでNMNがどうやて細胞の外からDNAのある細胞の内側に入るかよく分かっていませんでした。

しかし、2019年にNMNを細胞の外から中へ運ぶ輸送体が解明されると、実はその輸送体は、若いうちはあまり多くなく、年老いてNADが減ってくると多く作られるようになることが分かったのです。

この論文は日本のNMN関連の研究で有名な今井眞一郎教授のもので、発見に至るまでの道筋が物語風で興味深いものでしたので紹介させてください。

NMNを口から摂取すると腸から吸収されて血液の流れに乗り、体内の細胞、各臓器、骨格筋など各所へ運ばれます。ここまでの時間は約10分ほどで済むことがこれまでの研究で分かっていました。

しかし、NMNの輸送が10分程度で完了してしまうことは何となく腑に落ちないものでした。というのは、それまでNMNが腸から吸収されるように細胞の外から中へ入るためには、一度NR(Nicotinamide Riboside)という物質に変わってから細胞内へ入り、細胞内で再びNMNに戻ったのちにNAD+へ変化するという流れになると考えられていたのです。

不思議な点はこのNMN→NR→細胞内へ移動→NR→NMNという流れでは約24時間もかかってしまうのに、実際のマウスの実験では10分程度でNMNが細胞内へ到達しており、これまでの知見では説明がつきませんでした。

つまりNMNの細胞内輸送には、よく分からないけれど”何かが未知なタンパク質が関わっている”のではないかということが予測されたのです。

しかし何か分からない何かを探すのは簡単ではありませんでした。

そこで一つ仮説を立てて、そこから得られる結果、得られる分子がNMNの輸送に関わっているか検証することにしました。

今井教授のグループが立てた仮説は、”細胞内のNAD+を減ればNMNの輸送量が増えるのではないか”というものです。

これまでの実験で細胞内のNAD+の合成を阻止する物質が分かっていたので、それを使えば細胞内のNAD+の量を減らすことができます。仮説が正しければ、NAD+の量が減ったことが合図となってNMNを細胞内に輸送するタンパク質の遺伝子がオンになり、輸送体の生成が始まるはずです。

実験の結果、細胞内のNAD+が減ると”Slc12a8”という遺伝子が多く働いていることが分かりました。

ここではまだ、Slc12a8という遺伝子から作られるタンパク質がどのようなものかよく分かっていません。

次に行ったのは、Slc12a8タンパク質を多く作れるようにしたマウスにNMNを与えて、普通のマウスと比べてNMNの細胞内への輸送が多くなっているか検証することです。

実験の結果、Slc12a8タンパク質を多く作るマウスは通常のマウスに比べて、見事にNMNの細胞内輸送が増えていたのです。

念のため、Slc12a8タンパク質を作れないマウスに対してNMNを摂取してもらう実験を行ったところ、通常のマウスに比べて明らかにNMNの細胞内輸送量が減っていました。

このことから、Slc12a8がNMNの細胞内の輸送に関わるタンパク質ということが分かったのでした。

そしてもう一つ分かったことは、このSlc12a8タンパク質は年老いたマウスほど、特に小腸で多くSlc12a8タンパク質が多く作られていることです。

これは若いマウスと年老いたマウスがNMNを摂取したときの吸収度合いを比較して分かったことなのですが、基本的に若いマウスの方が細胞内のNAD+は多くあります。そしてNMNを摂取すると若いマウスも年老いたマウスも細胞内のNADの量は増加します。

しかし違いはNAD+の”増え方”にありました。NMNを摂取すると年老いたマウスの方が明らかに細胞内NAD+の増え方が多く、細胞内への輸送量が増加していたのです。

以上の結果より、NMNの細胞内輸送にはSlc12a8タンパク質が関わっていること、そしてSlc12a8タンパク質は年老いたマウスの方が多く作っていることが分かりました。

論文の結果だけを読むと、仮説を立てて実験して検証したらNMNの輸送体を発見したというような、かっこ良いストーリーですが実際は様々な苦労と失敗があることでしょう。

論文なので仮説を立てて実験して検証したらNMNの輸送体ではなかった、というような失敗ストーリーは書きませんが、そんな裏話も知りたいところです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?