近年,社会学,政治学,社会心理学,経営学等の社会科学諸分野において,「物語」(narrative, story)の概念に対する注目が高まってきている(なお, 英語のstoryとnarrativeを区別して,たとえばstoryのほうがより断片的であるなどとする研究者も存在するが,それぞれの厳密な定義は存在しないと言ってよく,研究者によって用語法は異なる.また,意識的に区別されないことも多い.本研究においては,「物語」という日本語は, 英語のnarrative及びstoryの両方を含意するものとする.). もちろん物語は,元来は主として文芸の領域に属する研究対象であるが,人間の認知的及び社会的活動において 「物語を語る」「物語を理解する」「物語を記憶する」 ことの持つ重要性が,様々な研究分野で明らかにされてきており,人間の心理や行動,社会現象を分析する際の 切り口として活用されている