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TOEIC L&R高スコアと実戦英語力は別物か?
今日は、英語の検定試験と英語の口頭能力についてです。
今の時代、口頭能力を測定する試験はたくさんありますが、ここではTOEICL&Rスコアとスピーキング力の相関について考えてみましょう。
まず、何をもって「話せる」というのかという定義の問題もありますが、とりあえずビジネスの場において、
「英語で自分の言いたいことが一定の発話量と、なめらかさと、それなりの表現を駆使して、支障なく相手にうまく伝えられる。そして日々起こる問題に適切に対処できるだけの能力を備えている」
としておきましょう。
巷では、TOEICL&Rの高得点者は、英語で高いパーフォーマンス力がある、いやそのはずだ、と思われているのでは。あくまでもcommon beliefとして。この信ぴょう性は果たしてどうなのでしょう。
古いデータですが、TOEICL&Rを作成しているETSの行った検証によると、100人の被験者でlistening scoreとinterview scoreの相関を調査してみたところ、0.83という高い数値が出た、と報告しているものがありました。
したがってTOEICL&Rのリスニングスコアをみれば、その人のspeaking能力もかなり正確に予測できるはずだ、と言っています。ただしこの結果に関しては、
1. 被験者の言語的バックグラウンド
100人の被験者の母語(英語との言語的距離)は?
全員が日本語を母語とする被験者だったら同じ結果が出たのか?
2. 被験者の言語使用環境
英語が話されている国(ESL)での調査なのか、それとも日本のよう
な英語が外国語としての国(EFL)の調査データなのか。
3. インタビューテストの種類
きちんとした客観的なテストだったのか。インタビュアは1人、
2人?複数ならインタビュア間のレイターの調整をどうやったのか?
また、妥当性と信頼性はどうなのか。
ざっと考えただけでもこれだけの疑問が沸いてしまいます。
上記のETSの報告とは裏腹に、実際のところビジネス界から聞こえてくる声は、TOEICL&Rで高得点をとっていても、あるいは満点でも交渉させたら個人差が激しく、あまり当てにならない、と。
問い合わせのメールやクレームに対する返答を素の実力で、短時間でまとめあげ、相手に過不足なく伝えられる人は数少ないと(ただしAIの発達でここはだいぶ変わったかもしれませんが)。
試験が試行されてかなりの年月が経っても、昔と同じような反応が今もあるようです。
それもそのはず、TOEICL&Rテストとは、直接その人の英語力を測るテスト、もっと詳しく言うと、英語を使って何ができるか(what you can do WITH English)を直接的に測る試験ではないからです。
受験者全体の中で、どのあたりに位置づけられるかを統計的に処理して推理するものだからです。
受験者集団のなかでの個人の位置づけを割り出すテストで、与えられたタスクを実際に言葉を使って満足すべきレベルでこなせる英語力があるかどうか、を見極めるためのテストでは残念ながらないんです(TOEICスピーキングテストは別)。
ここに認識のズレが生まれます。
問題作成者のETSも、「TOEICL&Rはコミュニケーション能力を間接的に測定しようとするもの」と言っています。つまり、その測定しようと試みているものは、受験者のスキル(英語を使って何ができるか)そのものではなく、その背後に横たわっている潜在的能力や資質であるといえるでしょう。
スコア表に提示されている数字も、その回の受験者集団の中で、他の受験者との関係で相対的にどの程度できたかを示しているにすぎません。それがスコア表に得点とともに載っているパーセンタイルなるもので表されています。
900点ならだいたい96%前後なので、その人が受験した時の受験者総数の96%がその人よりも正答率が低かったということ。逆に言うと上位4%以内ということです。これはとりもなおさず、その回いっしょに受験した人の中であなたはこのぐらいにランクされてますよ、と教えてくれていることです。
(※スコアそのものは絶対評価なので、自分以外の受験者のレベルが高かろうが、低かろうがそれと点数とは関係なし)
つまり、何問正解できたかだけではなく、どれほどの難易度の問題に正解できたのか、あるいは間違えたのかという情報からはじきだされていて、あくまでも受験者の英語力と問題の難易度との関係なのです。
また、けっこう古いデータですが、日立製作所で外国語研修所所長をしていた平井通宏氏によれば、「高得点=英語ができる」とはいえないとして、以下の点をその著書『英語超効率勉強法』の中で述べています。
①測定力の範囲が限定的
TOEICL&Rはpassive skillしか測定していない。TOEICL&Rの点数だけでスピーキングやライティングの能力を測定することにはもともと無理がある。
②実践英語とのギャップがある
TOEICL&Rの評価範囲は、ビジネスの最大公約数的な一般英語の中の、さらに限定されたオフィス英語の範囲にしか過ぎない。実践のビジネスの場で遭遇する真剣勝負の英語とはギャップがある。
③外国人のために設計されている
TOEICL&Rはあくまでも英語を母語としない人向けのテスト。だいたい900点以下の人の実力を測るのには適しているが、それ以上の実力の差を正確に示すものではない。
④成績を左右するのは語学能力だけではない
TOEICL&Rには、注意力、集中力、反射神経、スタミナ、受験テクニックなどが成績を左右するので、純粋な言語能力の尺度とは言いがたい。この傾向は特に上級にいくほど強い。
などなど。
そんな中、私の関心は、TOEICL&Rで900点以上を取得した人たちのoral performanceについてです。ACTFL OPI(Oral Proficient Interview)などの客観的測定テストを使って、実際にどれくらいのパフォーマンスができるのか。
・900点レベルの人のceilingとbottom。ceilingについてはかなり個人差 が予想されるが、bottomには共通した境界線があるのだろうか?
・遂行できるタスクに共通性や類似性はあるのか?
どういったタスクはこなせて、どういったタスクはできないのか?
・900点レベルの人はほんとうにTOEICL&Rのガイドライン(860点以上)
にあるようなperforamnceをこなせるのか?そこには共通性があるか、
ないか。
・900点レベルの人のperformanceにおける最大公約数とは何か?
・TOEICには±35の誤差があるといわれる。950点を境に例えば900と950,
930と980, の人々の間に個人差を超えて、タスク遂行能力において差が
あるのだろうか?
などなどこういう点に、より興味を持っている次第です。